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かたつむりの観光客24

 翌日、スゥはホテルのロビーに併設された歓談スペースでプリデールを待っていた。

今二人が居るのはケテル中心部にある結構良いホテルで、ちょっとした歓談スペースといえども絵画や大きな花瓶等で飾られていて、おまけに心が落ち着くような上品なクラシックのBGMがうっすらと流れている……まぁ、こういうのはご存じの通りスゥの趣味ではなかったが、金を貰って仕事をする以上、敢えて無難な選択をすることもある。

しばらくするとプリデールの姿が見えたので、スゥは椅子から立ち上がった。


「じゃ、行きましょうか」

「あいよっと」


 目的地までは遠くないらしいので徒歩で移動する事にした。

その間は適当な、他愛ない世間話なんかで時間を時間をつぶしつつ、ゆっかりと歩を進める。


「……もしかしてケテルへ来るのは初めて?」


スゥは周囲の街並みや行き交う人々を珍しそうに眺めながら答える。


「……ああ、宗教とか芸術なんてもんには、生まれてこのかた無縁でね」

「あら…そうなの?『何でも屋』と言うくらいだからなんでも知ってるのかと思ってたわ」


 冗談だという様にプリデールは軽く笑った。

プリデールが冗談を言ったのに少し驚きつつ、スゥがそれに答える。


「へっ!新月街で『何でも屋』っつったら汚れ仕事の方の『何でも』さ、買い被らないでくれよ?」


 余り褒められるのに慣れていないのか、スゥは少し照れている様子だった。

それはさておきプリデールは話題を変えるついでに今思いついたことをスゥに提案した。


「ふーん……もし良かったら、買い物ついでに少し街を案内あげましょうか?」


 意外な提案にスゥは驚いた。

内心『客にそんな事をさせるのもどうよ?』と気が引ける気持ちもあったが、かく言うスゥも自由に仕事をしたいから何でも屋なんてやってる訳で、別に仕事に真面目に取り組むとかを信条にしている訳じゃない。

それにプリデールが立場とか礼儀に無頓着なヤツだという事もなんとなくわかって来たので、スゥは深く考えずにプリデールの提案を受ける事にした。


「せっかくの申し出だ、よろしく頼むよ」


 ホテルを出ると旧西洋風の街並みがスゥとプリデールを迎えた。

白や灰色、茶色といった色を基調としているが、よく見ると色んな色の建物があり、整然とした石造りでありながらも温かみを感じさせるような街並みだ。

綺麗にレンガの敷き詰められた道を二人並んで歩きながらプリデールの案内へ耳を傾ける。


「この辺は『教区街』って呼ばれているわね。キリスト教を中心とした旧ヨーロッパの文化圏の特徴を色濃く残しているわ、教皇が居る地区だから名実共にケテルの中心部になるわね」

「あー……流石にあたしも教皇の名前は知ってるぜ。確か『ティファレト・タイタニア』だよな?年末の歌番組に毎年出てる……」

「教皇の率いる『文化遺産教会』はアーティストに支援にも力を入れてるから、大きい祭りには大体呼ばれてるわね」

「へぇ……宗教臭え街だと思ってたが、案外面白そうな事もしてんだな」

「もしケテルが厳しい戒律に縛られた所だったら、ここまで大きな街にはなってないでしょうね……意外と懐の広い街よ」


 そうこう話しながら歩いて教区街を抜けると、周囲の街並みはガラリと様変わりしていた。

今度は木造の建物が多くなり、藁の屋根の建物もちらほら見かけるようになった。

一見すると南国っぽい雰囲気で統一されてはいるものの、よくよく見ると様々な文化の痕跡が見て取れる。

街路樹の植えてあるやしの木よりも目を引くのが石像だ。

イースター島のモアイ像やメキシコの巨石人頭像が通りのあちこちにオブジェとして置かれている。


「ここは『部族街』アフリカ、オセアニア、アメリカ大陸の原住民等の文化圏の町ね」

「おお……」


スゥはそれまで写真でしか見た事の無かったそれらを物珍しそうに見物していた。


「ここは個人の露店が多くて変なもの買わされる事も結構あるけど……意外と掘り出し物もあるわよ」


ここでプリデールは一旦足を止めた。


「さて……着いたわ」


 プリデールが最初に立ち寄ったのは木造かやぶき屋根で風通しの良さそうな店で、土産物屋の様な雰囲気の店だった。

看板には『茶葉専門店』と書いてあった。

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