ネオパンゲア大陸のほぼ中心に聳え立つエウロパ山脈は、償いの日で引き起こされた地殻変動の際、元々ヨーロッパだった陸地に旧オーストラリア大陸が衝突した衝撃で大地が隆起して出来たとされる山々だ。
部分的には旧ヒマラヤ山脈を越える標高9000メートルを記録する山脈に次の目的地『芸術都市ケテル』はある。
ケテルは芸術のみならず、戦後の宗教の中心としても名高い街だ。
宗教と芸術は古来から密接に関わりがあり、ケテルも自然と芸術と宗教という二つの顔を持つ様になった。
償いの日に世界全ての国や団体が崩壊した戦後の混乱期に『教皇ティファレト・タイタニア』が中心となって『文化遺産教会』という芸術作品や世界遺産の保護を目的とした団体の本部が置かれたのがケテルの始まりとされている。
・・・
ビッグスカボロウから出発してなんやかんや約一週間、山を三つ盆地を一つ越えた頃、遂にケテルが遠景に見えた。
「ええ~……右手に見えますのがぁ~次の目的地ィ~ケテルでぇ~ござい~ます……あぁ、クッソ遠かったぜ」
車を走らせながら、スゥがおどけた調子でバスガイドのモノマネをしながら言った。
プリデールは本から視線を上げると窓の外のケテルを見て目を細めた。
「やっぱりケテルは遠いわねぇ……」
ケテルはエウロパ山脈に造られた街なので、そもそも道路があっても行くのに難儀するし、山地という事で道路の敷設が七都市で最も遅れており、更に山には野生化した生物兵器群(モッド)が多数生息していて、遺伝子的に人工物を嫌う様に設計されて生み出されたモッド達の破壊工作等もあって、インフラという点でケテルは七大都市中で一番苦労を強いられている。
しかしケテルは七大都市として名を連ねている。
不利な条件を補って余りある魅力があるからこそ人々はケテルを目指し、山を登る。
「……なんだ、来た事があるのか?」
スゥは思った事をそのまま言った。
「ええ、ケテルは結構足繁く行くわ……服を買いにね」
それを聞いてスゥは合点がいったいう風に答えた。
「あぁ~もしかして、その服もケテルで買ったのかい?」
スゥはプリデールのゴスロリドレスを一体どこで買ったのかと思っていたが、確かに芸術家の多いケテルならば売っててもおかしくは無いと一人納得した。
ケテルは戦後のファッションをはじめとした流行の発信地でもあり、伝統あるファッションショー『パリ・コレクション』も今はこの街で開かれている。
「そうよ……あ、貴女かなり大容量のキャスター持ってたわよね?」
プリデールが話の途中で何か思いついたらしく、確認するようにスゥに言った。
「……ああ」
(なんとなく先の展開が読めるな……)と思いつつも、スゥは頷いた。
「街に着いたらショッピングに付き合って欲しいんだけど……どうかしら?」
「……一応言っとくが、アタシのキャスターも容量無限てぇ訳じゃ無いぜ?」
「わかってるわよ……そんなにバカみたいに買うわけじゃないから安心して」
「それならいいんだが……
買い物といっても一体なにをどれだけ買うのか、興味半分怖いもの見たさ半分といったスゥだったが、特に断る理由も見つからなかった為、ケテルではプリデールの買い物に付き合う事になった。