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かたつむりの観光客9

 第三次世界大戦が終わりを迎えた日、通称『償いの日』を境に、この世の全ての金が価値を失った。

国家が全て無くなってしまったから……とはいうものの実際に国土が消えた訳ではない。

確かに消えた訳では無いのだが……全部混ざってしまったのだ。

それまで地球上にあった陸地は全部ぐちゃぐちゃに混ざってしまって、巨大な一つの大陸となった。

ユーラシアの一部、アフリカ、南北アメリカ、南極とその他全部……全部ひとつに纏まって出来たのが今のキメラ達が生きる地球の『ネオパンゲア大陸』だ。

その昔、人類が文明を持つよりも更に昔の超古代、元々地球の陸地は一つであり、それはパンゲア大陸と呼ばれていた。

幾度の地殻変動を経て、旧人類に馴染の深い地球の形になり……そして償いの日『ゲヘナ』の力にてまた一つの大陸に纏められた。

新しいパンゲア大陸だから、ネオパンゲアという訳だ。

陸地が混ざって、なんでそれで金の価値が無くなってしまったのかというと、お金の価値を保証するべき国家群が主権を喪失してしまったからだ。

領有権もぐちゃぐちゃ、国民だったヒト達もぐちゃぐちゃなので、当然経済もぐちゃぐちゃだ。

整ったインターネット環境、優れたインフラ、既存の通貨の上に成り立つ仮想通貨の類も全部価値を失ってしまった。

ブロックチェーンの仕組みはまだ生きてはいたけれど戦後はそもそもどこも物資不足が深刻で金より物の時代だった。

戦争が終わって5年程経過した頃、突如現れた『ゴールドマン財団』が蓄えた大量の物資と交換できる引換券を発行した。

それが現在セカイで最も流通している通貨『ゴールド』のハジマリである。

そのゴールドマン財団の本拠地が現在の七大都市の一つ『金融都市ビッグスカボロウ』だ。

セカイの金は全てここで産み出され、金によって生まれた力は全てここへと集約する。

その証が戦後唯一の煌びやかな摩天楼という訳だ。


・・・


「だぁ~!!!や~っと着いたぜビッグスカボロウ!!」


 疲労困憊といった様子のスゥがビックスカボロウの摩天楼を眺めながら大袈裟な溜息を吐いた。

それを聞いたプリデールが平坦な口調で言う。


「……別にそんなに急がなくてもいいって言ったじゃない」

「そうはいかねえよ、自分のケツは自分で拭くってのは自営業の基本だぜ……表の仕事も裏の仕事も信用が第一さ、そいつが無くなれば仕事にならねえ」

「そうね、言ってる事は分かるのだけど……私はいまいちピンと来ないわね」

「そうか?まあいいけどよ」


 それからしばらくしてビッグスカボロウの街に到着した二人は中心部の摩天楼には向かわず光量控えめな街の外縁部へと車を走らせた。


「依頼の時、特に宿の指定はなかったけどさ……スケジュールがズレたんでビジネスホテルしか取れなかった、重ねてすまない」

「問題ないわよ。別に私、高級志向という訳でもないし……」

「えっ、マジか??」

「ええマジよ」

「いつも派手な服着てるもんだからてっきり……」

「これは単なる個人的な趣味よ……可愛いでしょ?」

「そういうのはアタシにゃよくわかんねーなぁー」

「……そう」


ホテルの前に到着すると、スゥはキャスターを起動させて車を収納した。


「じゃあアタシはここまでだ……早速部屋で休ませてもらうぜ。街を出発する目途が立ったら、早めに連絡してくれると助かる」

「ええ、わかったわ」

「んじゃおつかれ~ぃ」


手早くチェックインを済ませると、スゥはヒラヒラと手を振りながらエレベーターへ向かって行った。

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