そんなこんなひと悶着あって、少し予定を繰り上げてジュラルバームを出たスゥとプリデールは次の目的地『ビッグスカボロウ』へと向かっていた。
しかし急な予定変更はやはり無理があったらしく、スケジュールがズレてしまったので、この日は野宿で夜を越す事になった。
そんな時の為のキャンピングカーなのだが、野生動物や野盗が跋扈する街の外で夜を越すのは危険が多い……なので今回は仕方なくといった形だ。
しかし余程自分の強さに自信があるのか、二人に緊張した様子は全く見られない。
シャワーを浴び終えてすっきりした様子のプリデールがパジャマ姿でキャビンに戻ってくると、直後に続けてスゥがキャビンに戻って来た。
「はぁ~……獣避け、やっと終わったぜ」
「おつかれさま」
「今回はアタシのミスだからな、気にしなくていいさ」
「それにしても準備が良いわね、貴方に依頼して正解だったかも」
「前金だけであんだけ貰ったんだ、そりゃ入念に準備もするだろ」
「だからってシャワールームも丸ごと一つキャスターに携帯してるなんて思わないじゃない?」
「商売柄かねえ、普段から色々揃えてんのさ……文字通りなんでもやる商売だから、いつ何を使う必要が出てくるか予想出来ねえし、どんなトラブルに出くわすかも知れねえしよ」
・・・
亜空間収納デバイス 通称『キャスター』
物体を亜空間へと収納し持ち運べるという技術である。
デバイスの大きさは非常にコンパクト、大体装飾品位の大きさに収まる。
アクセサリーにして身に付けたりするのが主流で、しかもキャスターには生物以外は何でも仕舞っておける為、人々の生活の利便性を飛躍的に向上させた。
収納できる量はものによって様々だが、護身用の武器、貴重品等を入れて持ち歩くヒトが多い。
・・・
今しがたプリデールが使用したシャワーはスゥが予めキャスターに携帯してきたものだ。
キャスターが一般化してるとは言え、一般的なキャスターの容量は精々リュックサック程で、シャワールームとそれに付随する貯水タンクが丸ごと入るような大容量の物は未だに一般人では手が出ない程の高級品だ。
「そうでなくても旅に不測の事態は付き物だからな。他にもやりすぎってぐらい色々準備してきたぜ」
「頼りにさせてもらうわ」
「……今回のは自分のケツを拭いただけだが、そこはこれからで挽回していくさ」
口ではそう言いつつも、スゥはどこか満更では無い様子だった。
しばらくしてスゥが見張りの為に部屋を出て行くと、プリデールはベッドにごろんと横になり読みかけの本を開いた。
それほど疲れていた訳でもなかったが、いつの間にか眠っていたようで、気が付くと夜が明けていた。
「…………」
カーテンの隙間から差し込む朝日で目を覚ますと、丁度スゥが朝食の準備を始める所だった。
プリデールは身体を起こして背伸びをすると、それに気付いたスゥが声を掛けてきた。
「おはよう……今からパンでも焼いて食おうかと思ってたんだけど、アンタも食うかい?」
「お願いするわ……バターと……あと、サラダみたいなのがあればそれで」
「あいよ……そういえばアンタ、食べ物の好みはあるかい?なんとなく肉料理とか苦手そうなイメージがあるんだが……」
「イメージって何よそれ……普通に肉料理も好きよ。そんな事言ったら貴女だって、ジャンクフードばっかり食べてそうじゃない?」
「ハハッ、確かにな。目つきが悪いのは自覚しちゃいるが、そんなに不健康そうに見えるか?」
「ふふふ……お互い様ね」
そうこう話している内に朝食が二人分テーブルに並んだ。
プリデールにはトーストとバター、それとさっぱりとしたコールスロー、スゥには同じくトーストと熱々の目玉焼きとカリカリのベーコン。
シンプルでありきたりな朝食ではあるが、朝っぱらから凝った食事なんて用意する気になれない彼女達には、これくらいが丁度いいのかも知れない。
「さて、食おうぜ」
「いただきます」