「…………」
野盗達によって車を止められたスゥは両手を挙げたままの状態で『一応』野盗達を下手に刺激しない様に心掛けて運転席から降りた。
しかしそれを見てビビってると勘違いした野盗達は増長し始める。
「ヘヘヘ……積荷と身ぐるみ、全部置いてきゃ命だけは助けてやってもいいぜェ?」
顔面に星型のタトゥーを入れたモヒカン頭の男がベロを大きく出して挑発するようにスゥに言った。
野盗達はスゥがどうやら人数差に観念して降伏したと思い込んでいるようだ。
「ま、そんときゃ素っ裸で歩いて帰る事になるだろうがよ!」
「帰り道でヒト買いの連中に見つからねえように気ぃ付けろよ!」
「アイツらは俺らみてぇな紳士じゃねえからなあ!?」
「「「ギャハハハハハハ!」」」」
油断しきっている野盗達は勝ち誇り、下卑たジョークで盛り上がっていた。
野盗達のうるさい笑い声を聞き流しつつ、その間もスゥは周囲の状況を注意深く観察した。
さっきモヒカンが言っていた様に野盗は結構数が居るらしく、スゥが立っている運転席から降りた場所からでは、車の反対側に何人居るのか見えない為その数を正確には把握できない。
スゥから目視で確認出来るのは7人だが、少な目に見積もっても大体2、30人位は居そうだ。
というかそれ位の人数が居なければ野盗達は襲撃の成功率を担保出来ないだろう。
スゥが抵抗をしないのを見ると、先程から十分に五月蠅かったモヒカンの男は益々調子付いて、にやにやと下品な笑みを浮かべながら今度はスゥのカラダの値踏みを始めた。
「おぉいテメェ!ツラ見せなァ!」
モヒカンはそう言うと強引にスゥのフードを下ろした。
スゥは特に抵抗する事は無く、ただ少し眩しそうに目を細めた。
「ヒュ~ゥ……案外悪くねぇ、なかなか上玉だ」
「あ~ん?ちぃとばかり目つきがキツ過ぎやしねえか?」
「わかってねぇなぁ……こういうのを組み敷いて屈服させるのが男の醍醐味ってもんよ!」
「俺は癒しが欲しいんだよ!」
「ママだ!ママ以外認めねえ!!!」
自分達の勝ちを確信してる野盗達は、もうすっかり獲物を獲った気になっていて上機嫌だ。
ついでに自分達の性癖を声高に曝け出している。
頭の中で『この女をどうしてやろうか?』なんて下衆な事を考えているのは表情からして丸わかりだったが、それを勝利者の権利だと言わんばかりに隠そうともしない。
「…………」
一方、車の後ろからキャビンの方に回った別の野盗がドアを乱暴に開け放つ……が、そこには机の上に栞の挟まった本が置いてあるだけでキャビンには『誰も居なかった』
しかし野盗のすぐ近く、遠くとも2メートル以内のどこかから抑揚を感じない女の声がした。
いくらなんでも近すぎる、少なくともキャビンには隠れる様な場所は無かったし、それならば侵入した時点で存在に気付けた筈だ。
「……行儀が悪い」
辟易した様な溜息の後の突然、野盗は何も無い空間から顔面に強い衝撃を受けて勢いよく後方に吹き飛ばされ、そのまま車外まで吹っ飛んだ。
「ぐべえっ!?」
情けない悲鳴を上げながら吹っ飛んだ野盗の体は、いつの間にか首が切断されていて、さらに不気味な事に切断面からは血の一滴も出ていなかった。
物音に気付いた他の野盗が仲間に死体に気付くと車の後ろ側に居た野盗達が騒ぎ始めた。
「うわあ!な、なんだ!?し、死んでる!?」
「一体なにが……?」
「見えねえが、何かいやがるぞ!」
後ろの騒がしさに気が付いた車の前側にいた、つまりスゥの付近の野盗達が様子を窺おうと確認の為に声を張り上げる。
「おぉい!そっちはどうだぁ!」
「…………」
しかし仲間達からの返事は無い。
何故か先程までざわついていた車の後ろあたりに居た連中が今は妙に静かだ。
野盗が違和感を感じて狼狽え始めている隙をスゥは逃さなかった。
「おおい!なんとかいえ……グハァ!」
喋ってる野盗の顎に、いつの間にかスゥの右手に装着されていたごっついメリケンサックによる強烈なアッパーカットがクリーンヒットした。
「おっと悪ィ、手が滑った」