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第3話

 真っ赤になって帰宅した私は、まっすぐに自分の部屋に駆け込んだ。

 真崎くんの告白で舞い上がる私を、「男」の私が必死に押さえつける。


 まてまて。頭を整理しよう。

 私は「女」なのに、あのサクランボをたらふく食べ尽くしてしまったおかげで、今は「男」。ということは、真崎くんは「男」が好きなの? でも、書き換えられてはいるけれど、皆、私という存在の記憶は持っている。真崎くんは「前から薫のことが気になって……」と言ってくれた。じゃあ、私が以前の「女」だったころから、気にしてくれていた? きゃあ、ほんと?


 いやいや、落ち着こう。

 たとえそうだとしても、今真崎くんが好きなのは「男」の私。それって……。要するに、だ。真崎くんは私が男だろうと女だろうと私が好き! ってことよね? きゃあ。


 でもでも、そうしたらどうなるの?

 男の子のアレを見ただけで胸が悪くなるオクテの私。自分にも、あのおぞましいものがついている気色悪さ。なのに、さっき真崎くんに対して「ぶっき」じゃなかった、「ぼっき」しちゃった私。


 どうしたらいいの? 

 この罰はいつまで続くの?

 これから真崎くんとどんな顔してつき合えばいい?


 朝。憂鬱な朝。なぜアレは、朝こんなに元気に反りかえっているんだろう。その姿、感触に朝からおぞけが走ってしまう。

 いきなりドアがあいた。お父さんが何の断りもなしに部屋のドアを開けて入ってきた。私はびくっと身を竦める。

「薫、何してんだぁ? 早く起きないと遅刻すっぞ」

「わかってるよ、いきなり開けないで! び、びっくりするじゃない」

「何をわけわかんないことを。お母さんが年頃の男の子の部屋に入るのは嫌だって言うから、おれが来たんじゃないか」

「……」

 お父さんの方を振り向きもせず、背を丸めてじっとしていると(本当は元気のありすぎるアレを見られたくない)、さらに言われた。

「とにかく急げ。人を待たすもんじゃないぞ」

「え?」

「真崎くんちゅう薫の友達が一緒に行こうと迎えにきてるぞ」

「うそっ!」

 私は思わず振り返った。その拍子にアレがびよんと揺れて、もっこり感が半端ない。私の頬はまたかーっと熱くなった。

「おちついて、おちついて」

 必死に私の股間についているアレをなだめて、制服に着替える。今日のパンツはストライプ模様。くすん、ほんとはレースとかお花のついてるものを履きたいよ。


 せっかく真崎くんが来てくれたのに、制服を着て髪を梳かしたら、やることない。おっと。髭剃りはしなきゃ。ほんとはピンクのリップくらい引いておきたいのに。

 バッグだってさ、味気ない規定の紺色のバッグだけって、さみしいな。前はうさちゃんの定期入れをぶら下げてたのに。

「薫ー」

 またお父さんの声が聞こえる。

「はーい、今行くー」

 苛立って返事をする。

 走っていくと、真崎くんは玄関のなかに入って待っていた。お母さん、にやにやを隠せない。イケメンの真崎くんを鑑賞してるのだ。

 私はわざとお母さんを無視して脇をすり抜け、真崎くんに向けてだけ、あいさつした。

「おはよう。わざわざ来てくれたの?」

「昨日調子悪そうだったから、ちょっと気になってさ」

「薫、いいお友だちね」

 にこにこ笑いのお母さんを再び無視して急いで真崎くんと外に出た

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