「おーい、水玉。大丈夫か?」
はっと気がつくと、何と真崎くんが私の顔をのぞき込んでいる。思い出した。真崎くんは水泳部だったんだ。
「真崎、助けたついでに保健室まで連れてってやれや」
若干保身気味の体育教師が呼びかける。
私は真崎くんに付き添われて保健室に行った。
保健室の女の先生は優しい。
「体調が悪いのに、あの体育教師、無理やりプールに入らせたんだって?」
「俺、あの教師、訴えますよ。酷すぎる」
真崎くんは本気で怒っている。嫌な奴だと思ってたけど、実はいいところもやっぱりあったんだ。私は頬が熱くなる。
「それにしても、真崎くんよく気がついてくれたわね。おかげで大事に至らずに済んだわ」
「だって、水玉……薫は真っ青な顔してたんですよ。体調悪そうだなって俺も思ってたから」
本当はみんなのアレを見て、胸が悪くなっていたとはいえない。
オクテの私には刺激が強すぎたんだ。
「しばらく休んでていいからね」
真崎くんが外に出て、保健室の先生が机に向かうと、私はふと、サクランボをいくつ食べたか思い出そうとした。でも、正確には覚えていない。今は少しだけ、こういうふうにもう少しだけ、真崎くんとつき合いたいな、という気持ちになっていた。
その日、真崎くんは私のことが心配だから家まで送っていくと言ってくれた。
「大丈夫だよ」
「でも」
そう言うのであえて強くは拒まず、おとなしく送ってもらうことにした。真崎くんの降りる駅は私の降りる駅より少し先。だから、真崎くんは途中下車して私を家まで送り届けてくれるということだ。
どきどきした。たとえ姿が男になっていても、心は女の子だったときのまま。
電車のなかで、真崎くんは空いた席を見つけて私を座らせてくれ、自分は私の前に立っていた。私は電車のなかでずっと真崎くんに見下ろされている。こんなシチュエーション、考えたこともなかった。電車のなかや電車を降りたときにたまに真崎くんを見かけるだけでどきどきしていた私なのに。まるで夢みたい。
電車を降りて歩きはじめる。私の家は駅から十五分くらいの住宅街にある。
途中で人気のない公園があった。
「お、タコの滑り台なんて、懐かしいな」
真崎くんが言うので、私たちは公園の中に入った。
「子どもの頃は遊んだよ」
笑いながら私が言うと、真崎くんは急に真面目な顔になって、なおかつその顔をずいっと私に近づけた。
えっ? 何々?
「薫、実はさ、俺、前から薫のこと、ずっと気になってて」
ええええ? それって。
「恥ずかしいし、びっくりすると思うけど、俺は薫が好きだ」
唖然としたが、それは真崎くんに対してというよりも、自分に対してだった。
え、ええー??
これって、ぶ、ぼ、ぼ……き?
いや! 恥ずかしい。私は自分の顔が真っ赤になっているのを感じて、かつ何とか股間を隠そうとした。
「薫」
「ま、真崎くん、わ、私も。でも、これって想定外」
タヌキさん、いい加減もとに戻して―。
あのタヌキさんの小ずるい目が遠い空に浮かぶ。
私は、どうしたらいいの!?