今度は理央が右を向く前に、目の前に小柄な少女が飛び出してきた。少女はせわしげに体を手でこすりながら、神官に唾を飛ばす勢いで話しかけている。
(え? いったい何人召喚したの?)
欲張りすぎじゃない?と身を乗りだして美女たちの周りをチェックすると、どうやら理央を入れて四人も召喚したようだ。一度にそれだけ召喚するなんて、どれほどの魔力がいるのだろうか。ローブの男たちが具合が悪そうなのもそのあたりが原因だろうか、と理央は眉をしかめる。
(聖女とか言っていたけど、こんなに呼んで何をさせるつもり?)
本当になんてことをしてくれるんだと怒りを覚えながら理央が前を向くと、少女は寒さを訴えていたようだ。神官の隣の男が持っていたローブをひったくっていた。
(もしかして、海から来ちゃったの?)
少女は見ているこちらが震えそうな露出度の高い格好をしていた。Tシャツとハーフパンツからのぞく肌は、日に焼けた小麦色で健康そのもの。プリッとした小さいお尻やボロボロなビーチサンダルには砂がついているので、召喚される直前まで浜辺にいたようだ。茶色いくせ毛のショートカットと茶色い瞳。そばかすの浮いた童顔と背の小ささから、理央より若そうに見える。
(ビーチ娘は南半球から来たのかな?)
季節が真逆だからその可能性が高そうだと思いながら、彼女がどこの言葉を話しているのかわからずに理央はあれ?と思った。
(翻訳、されてない?)
こういう異世界召喚物だと、たいていは異世界の言語がすんなり理解できる展開がお約束である。召喚されたショックで気づいていなかったが、神官の言葉は難なく理解できた。声が届く前にぼぅんと何か膜を挟むような違和感はあるが、神官の会話からは意味の解る言葉が拾える。
しかし、同じ地球から来たビーチ娘含む他の女性の言語は解らない。だから彼女たちが何を言っているのか、理央にはさっぱり理解できない。
(おおお、翻訳機能、中途半端だなあ)
どうせなら、地球の言語も全部解るようにしてほしかった、と言ってももう仕方ないだろう。せっかく同じ境遇のお仲間がいるのに、意思疎通が難しいとはなんとも心細い。
(ああ~、このつらさ、分かち合えるだろうか……)
理央が溜息をついている間に、ビーチ娘が震えながらローブにくるまるのを見て、神官が左右の男に指示を出した。セレブ美女とおっとり美人にもローブを渡そうと、男たちが二人に向かう。
(ん? わたしの分は?)
完全防寒スタイルの理央は寒くはないのだが、つい自分の分は?と思うのも当然だろう。だって、勝手に呼ばれたのだから、もてなされるのは四人とも平等のはずだ。しかし、用意されたローブは三枚しかないようだ。
(どういうこと?)
疑問を感じて隣のセレブ美女にローブを渡す男を見上げた理央は、思わず息を飲んだ。
(こおぉぉおぉぉおぉれはっ!)
ささいな疑問などどうでも良くなるほど、理央のテンションが一気に高まった。
ローブから見え隠れするのは、ゲームに出てきそうなイケメンの横顔。
まるでアイドルに会ったかのように、鼓動が爆上がりする理央だった。