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第13話 今年の目標

 目標こそが人を成長させる。


 それが駿介の、人生のモットーだった。

 というより、祖父の受け売りだ。


「お前はなにをやってもすぐ投げ出すな」


 駿介が5歳の頃、祖父にそう言われた。

 なんでも興味を持ち始めて、すぐに冷める年頃。


 あれをやりたい、これをやりたいと両親に言っては、すぐに止めていた。

 そんな駿介に祖父が言う。


「いいか、駿介。目標を持たないからすぐにやる気をなくしてしまう。だからまずは目標を立てるんだ。そして、その目標に向って進む。そうすれば、やる気を出し続けられるんだ」


 その祖父の言う通り、駿介は何をやるにしてもまずは目標を立てるようにした。

 すると飽きることがあまりなくなった。


 勉強も、スポーツも、遊びも、まずは目標を立てる。

 そうすれば、割といい成績をとれることに駿介は気づいたのだ。


 それ以来、駿介は目標を立てることが癖になっていた。


 だが、逆に言うと目標がなかったり、達成すると途端にモチベーションが下がってやる気がなくなってしまう。

 そのことから、駿介は必ず、達成できるかどうかギリギリの難易度で目標を立てるようにしているのだった。



「駿介、いつまで寝てるのよ!」


 そう言って、いきなり部屋に入ってきたのは真下和美だ。

 中学の頃に同じクラスで、席が隣になったことを切っ掛けに、仲良くなった。

 高校も同じで、今も交流が続いているというわけだ。


 いつの間にか駿介の母親とも仲良くなっていて、今のように普通に、部屋に通してしまう。

 プライベートも何もあったもんじゃないと、いつも駿介は頭を抱えている。


「……ああ、明けましておめでとう」


 まだ眠い目をこすりながら起き上がる駿介。


「おめでとう。……って、もう昼だよ」

「いいじゃん、別に。休みなんだから」

「あのねぇ。初詣に行こうって約束したでしょ?」

「……あっ! そうだった!」


 慌てて飛び起きる駿介。

 すぐに着替えて、和美と一緒に神社へと向かう。


「ふわぁ~」


 神社に到着し、お参りするための行列に並んでいる途中、思わず欠伸をしてしまう駿介。


「眠そうね。昨日は夜更かししたの?」

「宿題やってたんだよ、冬休みの」

「ええ? もうやり始めたの? 早くない?」

「3日までに終わらせるって目標だからな」

「ふーん。相変わらず、目標バカね」

「なんだよ、目標バカって」


 もう一度、欠伸をしたところで駿介たちの番が来た。

 奮発して500円を賽銭箱に投げ入れる。


 ここでしっかりと1年間の目標を立てる。

 ここでの目標がまさにこの1年を決めると言っていい。


 その願掛けも含めて、賽銭は奮発しているというわけである。


 以前、初詣に行かなかった年があったが、その年は自分でも呆れるくらいダラダラと過ごしてしまった。

 またあんな1年を過ごすわけにはいかない、と決した駿介。


 そして、今年は少し遠かったが、願いが叶うということで有名なこの神社を初詣の場所に選んだ。


 手を叩いて、1年の目標を立て、その目標が達成できるようにと祈る。


(彼女ができますように)


 駿介にとって考えに考え抜いた目標だった。

 もちろん、駿介もお年頃なので、彼女というものに興味はある。

 ただ、むやみやたらに彼女が欲しいと神頼みしているわけではない。


 彼女を作るためには自分を磨かないとならないと知っている。

 勉強も、スポーツもおしゃれも、しゃべりも頑張らないとならない。


 実にいい目標だと思う、駿介。


(彼女なんてそう簡単にできないからな。これでこの1年は頑張れそうだ)


 境内を降りながら、満足そうに笑みを浮かべる駿介を見て、和美が聞いてきた。


「なにをお願いしたの?」

「え? ああ、いや、内緒」

「ええー! 教えてよー」

「ダメダメ。言ったら、叶わないっていうからな」

「ケチー」

「そういう和美はなんてお願いしたんだ?」

「え?」


 和美が駿介の顔を見た後、顔を真っ赤にして俯く。


「内緒……」

「なんだよ。人に聞いておいて、自分は内緒かよ」

「だって、言ったら、叶わないんでしょ?」

「まあ、な。あ、出店出てる。なんか食ってこうぜ。腹減った」

「うん」


 和美と一緒に、色々と出店を回っていく。

 すると、和美がポツリと言う。


「なんかさ、デートみたい……だよね」

「え?」


 その言葉に駿介は思う。


(デートか。彼女を作るなら、デートの仕方とかも勉強しないとな)


 何気にやることが増えたことに、逆に喜びを感じる駿介。

 ハードルが高ければ高いほど、超えた時の喜びは大きいのだ。


「和美はデートしたことあるのか?」

「へ? な、ないよ! あるわけないじゃん!」


 なぜか急に起こり始める和美。


(こういうところもわからないんだよなぁ。女の子って難しいよなぁ)


 そう思いながら、じっと和美を見る駿介。

 その視線に気づいたのか、今度は顔を真っ赤にさせる和美。


「すごい、顔真っ赤だな」

「うるさいわね」

「酒でも飲んだのかってくらい、赤いな」

「えー? お酒飲んで顔を赤くするのは駿介の方でしょ」

「いや、あれはたまたまだって。あれから俺、酒、強くなったし」


 以前、駿介はお正月のお神酒を一口飲んだだけで、泥酔したことがあった。

 駿介の中で軽くトラウマになっている。


「ホントにぃ?」

「ああ」

「あ、あそこで甘酒配ってるよ? 飲んでく?」

「うっ! い、いいぞ」

「あはは。無理しなくていいって」


 その和美の言葉に少しだけカチンときた駿介は和美の手を引いて、甘酒を貰いに行く。


 そして、一気に甘酒を飲み干してしまう。


「ちょっと、駿介大丈夫なの?」


 和美の心配通り、みるみる駿介の顔が真っ赤になり、意識が朦朧となる。


「だだだだ大丈夫だって」

「もう、酔ってるじゃん」

「酔ってねえって!」

「酔ってる」

「酔ってにゃい!」

「ホントに?」

「ホントに!」

「じゃあさ」

「なんだ?」

「……私と付き合ってよ」


 駿介は酔って頭が回らなくなっている。

 だが、意地になって、答えてしまう。


「いいぞ!」

「いいの!?」

「もちろんだ!」


 こうして、駿介と和美の願いは、1時間もしないうちに叶ってしまったのであった。


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