やらないで後悔するよりもやった方がいい。
宝くじを買わなければ当たらない。
明けない朝はない。
どれも行動を起こせという言葉だ。
だが、中にはなにをやっても上手くいかないという人間が存在する。
それが俺だ。
良かれと思ってやったことが、裏目に出る。
そして、やらなきゃよかったと後悔する。
それの繰り返しだ。
だから俺は、この恋も諦めるべきだと思っていた。
「ほら、当たって砕けろって言うだろ?」
昼休み。
一緒に弁当を食べているときに、達也が頬にご飯を詰め込みながら言ってきた。
「お前は砕ける痛みを知らないからそんなこと言えるんだよ」
「颯太はそうやっていっつも、すぐに諦めるじゃん。そんなことだと彼女できねーぞ」
「……いいんだよ。傷つくくらいなら彼女なんていらないし」
「ほら、万が一っていうのがあるだろ? 幸田さん、お前のこと好きかもしれねーじゃん」
「あり得ないって。ほとんど話したこともないんだぞ」
「けどさ、努力くらいはした方がいいんじゃね?」
「無駄な努力でもか?」
「世の中に無駄な努力なんてないんだよ。努力したことは身になる! ……って、偉い人が言ってた気がする」
「受け売りかよ」
「お前さー、何もしないで幸田さんを諦めれるのか?」
「……」
正直、達也の言葉は心に刺さった。
ダメだったとしても、努力はした方がいいんじゃないのだろうか。
たとえ、裏目に出たとしても。
それに、俺は諦めることに飽きてきていたのだ。
とりあえず、俺は体を鍛えることから始めた。
少し太り気味だったから、健康的にもいいことだし。
毎日、筋トレをしていたら結構マッチョになった。
これならビフォーアフターで比べると劇的変化だと思う。
――だが。
「あんまり筋肉質な人は苦手かな。……ほら、鏡の前でポーズ取ってるのとか見たら、引いちゃうかも」
幸田さんが友達としゃべっていた内容だ。
そして、俺も鏡の前でポーズを取ったりしている。
いや、だって、筋肉ついてきたら嬉しいんだよ。
……やっぱり、筋トレじゃなくて単にダイエットだけにすればよかった。
今回も完璧に裏目だ。
「最近さ、変な人に後をつけられてるかも……」
「ええー。それってストーカー?」
「……わかんない」
「警察とかに相談したの?」
「ううん。だって、気のせいかもしれないし……」
この話を聞いて俺は決意した。
幸田さんを見守ろうと。
幸田さんの様子を遠くから見守るようになってから1週間が経った。
そして、わかったのが、幸田さんの気のせいではなかったこと。
幸田さんはストーカーに狙われている。
ずっと後を付け回していた。
それに家の周りをウロウロして、どこか入れる場所がないかを探しているようだった。
そこで俺が声を掛けたら、すぐに逃げて行った。
放っておいたら幸田さんに危害が加えられるかもしれない。
俺はずっと幸田さんのことを見守り続けた。
そんなある日、ストーカーが幸田さんの家から捨てられたゴミを漁っているのを見つけた。
中から下着が出てきて、喜んでいる。
それを見て、俺はカッとなりストーカーに掴みかかった。
「な、なんだよ、お前!」
「お前こそ、なんなんだよ! 幸田さんのことストーカーしやがって」
「お、俺はストーカーなんかじゃないぞ!」
「いや、どう見てもストーカーだろ」
「ふざけるなー」
ストーカーがいきなり殴りかかってきた。
不意を突かれて、一発殴られてしまったが、反撃するとストーカーは情けない声を出した。
「い、いたい……。なにするんだよぉ」
「これ以上、幸田さんをストーカーするなら、こんなんじゃ済まさないぞ」
「う、うわーーー!」
泣きながら逃げていくストーカー。
俺は荒らされたゴミを片付けようとゴミを拾っていた。
「……なにしてるの?」
いきなり後ろから声を掛けられた。
振り返るとそこには幸田さんが立っていた。
「そ、それ……私の下着」
俺は片付けるために、幸田さんの下着を拾いあげていた。
それを幸田さんはごみを漁って下着を取ったように見えたのだろう。
「あんたが、ストーカーだったのね!」
「ち、違う!」
「最低!」
パチンと頬を叩かれた。
そのあと、通報されそうになり、もう二度としないと誓わされることで事なきを得た。
見守るなんてことをしなければこんなことにはならなかった。
やっぱり、俺が行動すると裏目に出る。
「聖槍伝承3、楽しみだなー。早く23日にならないかな」
「へー、ゲームやるんだ?」
「うん。結構、やるよ。格闘ゲームとかも。いつも弟にボコられるけどね」
あの事件から、幸田さんは教室で俺を見る目が冷たい物に変わった。
完全に嫌われてしまったようだ。
それでも念のため、遠くから幸田さんを見守っているが、あれからストーカーは現れなくなった。
多分、もう大丈夫だろう。
これで安心して幸田さんを諦められる。
だから、最後に幸田さんが好きだというゲームでもやろうと思った。
同じゲームをやってるという繋がりを持っておきたいというくだらない理由で。
そして23日に俺は朝一でゲーム屋に行った。
そのゲームはかなり人気だったみたいで、既に長蛇の列が出来ていた。
うわっと思ったがせっかくここまで来たので並ぶことにした。
3時間後。
無事にゲームを買うことができた。
ラッキーなことに、俺で最後だったみたいだ。
たまにはラッキーなことがあるものだ。
こんなことは初めてかもしれない。
思わず嬉しくなり、ウキウキしながら帰ろうとしたときだった。
「俺のゲーム、取った!」
いきなり変なガキに絡まれた。
「いや、これ、俺のだし」
「違う! 俺のだ! 返せ!」
おそらく、ゲームを買えなかったんだろう。
だから、買えたやつに因縁をつけて、ゲームを取ろうと考えたのだろう。
ガキが騒いだことで人が集まってきた。
「君、この子からゲーム取ったのかい?」
「違いますよ。これは俺が買ったゲームです」
「違う! 俺のゲームだよ!」
俺はため息をついて、ポケットからレシートを出した。
「これが俺が買った証拠です」
「……君はレシート持ってるかい?」
俺に詰め寄っていた男が、今度はガキの方へ顔を向ける。
「……」
ガキは何も言えない。
買えなかったのだから、レシートもないはずだ。
「君、嘘つくなんて最低だな!」
男に怒鳴られ、涙ぐむガキ。
「警察に行った方がいいよ」
今度は男が俺にそう言ってくる。
騙されたことに気恥ずかしさもあるのだろう。
ガキに対して、俺よりも怒りを覚えているようだ。
「いや、いいですよ。相手は子供ですし」
「……あんたがそういうなら」
男はそそくさと去っていく。
周りにいた野次馬も散っていった。
子供はというと、その場で泣き続けていた。
その姿を見ると、なんだか馬鹿々々しくなった。
「ほら、持って帰れ」
俺はゲームをガキに渡した。
「え? いいの?」
「もう、こんなことすんじゃねーぞ」
そう言って、俺は歩き出した。
考えてみれば、定価で譲ればよかった。
これじゃ俺は見知らぬガキにゲームを買ってやったことになる。
結局、買えたこと自体が裏目に出た。
やっぱり、行動なんてするもんじゃない。
「颯太くん、弟が迷惑かけちゃったみたいでごめんね」
学校の校門前でいきなり幸田さんに声を掛けられた。
その隣には俺に絡んできたガキが立っていた。
どうやら、このガキは幸田さんの弟だったらしい。
「いや、いいんだよ。そこまであのゲームが欲しかったわけじゃないし」
「お金、払うよ」
「いいって、別に。あのゲームはあげたものだから」
そう言って、俺は幸田さんに背を向けて歩き出した。
嫌われているのはわかってる。
でも、最後に格好をつけたかったのだ。
「……あとさ、颯太くん、ストーカーじゃなくて、ストーカーを追っ払ってくれたんだね」
「え?」
幸田さんにそう言われて振り返る。
「お隣さんに聞いたの。私のごみを漁ってる人を注意してくれたって」
「ああ……いや、その」
「ごめんなさい」
ぺこりと幸田さんが頭を下げた。
「いや、いいんだよ。頭を上げて」
「……なんか、お詫びできないかな?」
「気にしないでいいよ」
「お兄ちゃん、一緒にゲームしようよ」
幸田さんの隣にいたガキ……いや、弟さんがいきなり驚くことを言ってきた。
「あ、いいね。颯太くん、ゲーム好き?」
「う、うん……」
「じゃあ、うちに来てゲームしよ。お菓子も出すから」
「……いいの?」
「もちろん」
いつも俺はやることが裏目に出る。
アンラッキーなことばかりだ。
だけど、アンラッキーでも3つ揃うと当たりになるらしい。
終わり。