ある日の放課後。
真人は化学準備室の掃除を終えて、カバンを取りに教室に戻ろうとしていた。
「わかる。やっぱり、大事なのは内面だよね」
真人はその声が桃城美那子のものだと、一瞬でわかった。
すぐに教室のドアの前で聞き耳を立てる。
どうやら美那子は同じくクラスメイトの坂下保奈美と話しているようだ。
「顔が良くても、性格が終わってるとホント、ガッカリだし」
坂下の方がため息交じりで言う。
「だよねー。やっぱり、付き合うならさー」
美那子の言葉に、真人はゴクリと生唾を飲み込む。
「筋肉ある人がいいなぁ」
「え? 美那子、筋肉好きなの?」
「だって、カッコよくない?」
「あー、まあ、なんとなくわかる。じゃあ、筋肉質な男から告白されたらどうする?」
「えー? 付き合っちゃうかも」
真人はその言葉を聞いて、目を見開いた。
(きたーーーーーーー!)
そう。その日、真人は決意した。
マッチョになることを。
真人の特訓は常軌を逸した。
試せることは全て試していく。
筋肉をつけるためのトレーニングや、食べ物にも気を付けた。
母親に半年分のお小遣いを前借して、鉄アレイとプロテインを買った。
酷い筋肉痛に悩まされても、決してトレーニングをサボることはなかった。
正直、ここまで頑張ったことは生まれて初めてだった。
すべては美那子と付き合うため。
毎日、鏡を見るが全然、筋肉が付く様子が見られない。
それでも筋肉が付くのには時間がかかると言い聞かせて必死に頑張った。
それから半年が経過し、秋になった。
真人が若いということと、筋肉が付きやすいというのもあったのかもしれない。
真人の体はムキムキのマッチョになっていた。
(――やり遂げた)
そして、真人は美那子を呼び出した。
「付き合ってくれ」
「無理」
「え? なんで?」
「私、赤坂くんみたいな人が好きなの」
赤坂。
それはタレントモデルだ。
瘦せ型のイケメン。
真人は思った。
――結局、顔かよ!