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第3話 ぐちゃぐちゃの手料理

 料理というのは不思議なものである。


「いっちゃんの誕生日は、私が手料理を振舞ってあげるね」


 彩香の言葉に、樹は顔をしかめた。

 小さい頃からずっと彩香のことを見てきた樹は嫌な予感しかしない。


 もう高校生にもなるのに、家事は全滅。

 得意料理はゆで卵とカップラーメンと得意げに言う奴なのだ。


 ちなみにゆで卵は破裂するか、ほぼ生状態のどちらかにかならない。


「いや、遠慮しておく」

「えー、なんで? いっちゃん、私の誕生日にごちそう作ってくれたじゃん。そのお返しだよ」

「マジで、料理だけは止めてくれ。いつも通りでいい」

「いつも私からはプレゼントを渡すのってワンパターンでしょ? ほら、たまには変化が欲しくない?」

「お前、そんなこと言って、単にプレゼントを買う金がないだけだろ」

「……」


 図星のようだった。

 彩香は口を尖らせて、フーフーと息を吐いている。

 おそらく、口笛を吹いているつもりなのだろう。


「今年はプレゼントもいらん。大体、高校生にもなって幼馴染からプレゼントを貰うって言うのはどうかと思うからな」

「やだ! それは絶対に止めない!」

「……お前、俺からのプレゼントを貰いたいだけだろ?」

「そ、そんなことないよ」


 図星のようだった。

 今度は汗を噴き出し、目をそらしている。


「俺からのプレゼントはやるから。それでいいだろ?」

「それだとなんか負けた気がする」


 面倒くさい奴だな。

 樹は心の中でチッと舌打ちをした。


 そして、結局、彩香に押し切られる形で、手料理をご馳走になることになったのだった。



 樹の誕生日。

 約束の時間に彩香の家に行く。


「あれ? いっちゃん、もう来たの? 早くない?」

「……」


 彩香の顔には色々な食材の欠片がくっ付いている。

 そして、この言い分だと料理は出来ていないことがうかがえる。


「……出直そうか?」

「う、ううん。大丈夫。リビングで待ってて」


 かなりの不安を感じながら、樹はソファーに座って料理が来るのを待つ。

 だが、キッチンからは……。


「あっ! ダメ!」

「ちょっ! 待てよ!」

「いやいやいや、ないわー!」


 およそ、料理をしているときに出てきそうにない言葉が聞こえてくる。


 仕方ない。手伝ってやるか。


 そう思い、樹はキッチンに向う。

 だが、キッチンに入ると、樹は来たことを後悔した。


 散乱した食材。

 床に転がっている調理器具。

 そして、彩香の顔は……いや、全身は食材まみれになっている。


 文字通り、大惨事だ。

 どうやったら、料理をしていて、ここまでの状況を作れるのだろうか。


「彩香、どけ。あとは俺がやる」

「ちょっと! いっちゃん、来ちゃダメだって!」

「……お前に任せると、食べられるものが出来そうにない」


 粉々にされた玉ねぎとにんじんとにんにく。

 何個か、床に落下して割れている卵とぶちまけられた牛乳。


 どう想像してもちゃんとした料理にならないとわかる。


「へっへーん! そんなことないもんねー! 今回は自信作だよ、じ、し、ん、さ、く!」


 本当に嫌な予感しかしない。


「いいか、彩香。料理は見た目も重要だぞ」

「え? そうなの?」

「……まあ、お前にそこまで求めるのは酷か」

「まあまあ、とにかく私に任せておきなさいって!」


 彩香が樹の背中を押して、キッチンから追い出す。

 そして、再びキッチンに向う彩香。


 ボールを出し、砕いた食材と冷蔵庫から出した肉を入れる。

 それをなんとすりこぎ棒ですり潰し始めた。


「……」


 樹はリビングに戻ると、ポケットの中に入れていた胃薬を飲んだ。



 ――数時間後。


「おっまたせー!」


 ニコニコしながら彩香が皿を持ってやってきた。

 樹は深呼吸をして、目の前に置かれた皿の中を見た。


「え?」


まともだった。

 逆に少し、美味しそうだった。


 食材をぐちゃぐちゃに混ぜ、すり潰していたのに。


「彩香特製ハンバーグでーす!」


 樹は恐る恐るハンバーグを一切れ、口に運んだ。


「美味い!」

「でしょ!」


 正直、ビックリした。

 あの状態からここまで持ち直すとは。

 料理は不思議なものである。


「これはブロッコリーか」


 樹は付け合わせのブロッコリーを食べる。


 ――不味かった。


「なんでだよ! 茹でるだけだろ! なんでここまで不味くできるんだよ!」


 料理は本当に不思議なものである。

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