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第107話◇この世界での最後の仕上げ◇

「陵辱ゲーの主人公だぁ? 別ゲーから転生してきたってのか?」

「【セントビーナス女学院の陵辱授業】ってゲーム知ってますか?」


「ああ、名前は知ってる。陵辱ゲーの中じゃ伝説になってるヒット作だ」


「その主人公の名前は?」


「知らん。俺陵辱ゲーは大嫌いなんだ。さくさくの同人誌を集める過程で陵辱ものは見ているが、ゲームとして能動的に摂取したい成分じゃないしな」


「まあそうですよね。あいつはあっちの世界の主人公なんですよ」


「え、セントビーナス女学院ってまさか……」

「そうです。こっちの世界に、似た名前の施設があると思いません?」


「あるな。俺達の通っているセントビーナス学園がそれだ……。え、まさか……いや、そんなこと言わないよね?」


「……」


 目蓋を閉じて、「すみません、それが理由です」と訴えているかのようだ。


「セントビーナス女学院の陵辱授業の主人公……。まさか霧島亮二って名前なの?」


「そうです。そして、さっきも言ったとおり本来さくさくには霧島亮二なんてキャラクターは存在しないんです」


「でも彩葉の幼馴染みとして存在してるだろ」


「存在だけはしてるんです。でも、存在してるだけなんです。この世界を荒らし回った霧島とは別人です」


「つまり、奴がこの世界に干渉したことで、俺の知ってる霧島亮二というキャラクターが誕生したと?」


「そうです。クソの霧島がこの世界に干渉したせいで、本来の姿が失われてゲームのような世界になっちゃいました。亮二さんは思ったことありませんか? さくさくの主人公さんの性格の悪さ」


「ああ、俺は好きになれなかったな」


「さっきも言ったとおり、本来はああじゃないんです。彼は本当はちゃんとした誠実な青年だったんですよ。でもクソの霧島に何度もヒロインを奪われて、陵辱される姿を見せつけられて、魂が壊れちゃったんです」


「そこが分からん。やっぱりこの世界ってループしてるのか?」

「そうです」


「さっきループさせたのはお前の意志だって言ってたな。そうすると、ループする前の世界はどうなる?」


「消滅します。すべて無かったことになり、もう一度ゲームスタートの時期である今年の4月頭に戻るんです。でも、味わった慟哭の感情は覚えているんです。記憶はなくなっても、壊れた心は元に戻りません」


「なるほど……。少なからずそれがこの世界の在り方に影響を受けてたのか。ヒロイン達の性癖が壊れ気味なのも、その影響か?」


「そうです。主人公さんと接することで、その影響を受けてます。でも、順番が違います。あれは全部亮二さんに心を救ってもらったからああなっただけです。本当の自分をさらけ出せるくらい、心を明け渡しているからこそできたんですよ」


「そうか。もしかしてラッキーちゃ~んす☆とかいって色々させたのは、彼女達のトラウマ解消のためか?」


「そうです。ふざけ倒してたからそんな風には見えなかったでしょ」


「まあな。俺は楽しんでいただけだし」


「それが良かったんです。亮二さんが心からの意志でヒロイン達と接してくれたから救えたんです」




「なんかアレだな。最終回付近になって急激に話のスケールがでかくなるって展開によく似てる感じがするな」



「実際今まで説明する機会ありませんでしたからね。まあそれはこの際どうだっていいんです。大事なのは、そういう色んな世界が存在していて、たまに別の世界にリソースが洩れることがあるんです」


「なるほど。それが俺の住んでいた地球じゃゲームって形で、霧島は自分の世界から別のゲーム世界に流れ出したってことか」


「端的にいうとそうなります」


「なるほどな。この世界はループしている。そしてゲームのバッドエンドは野郎が介入した本来有り得てはいけない未来の暗示。いや、お前からのSOS信号か」


「そうです。この花咲く季節と桜色の乙女と名付けられた世界で幸せになる筈だった女の子達が、一人の冒涜的な男の魂の為に穢され続けてきたんです。助けてほしかった。救ってほしかったんです。だからあなたを、向こうの地球で私の世界を一番愛してくださったあなたの魂を呼んだんです」



「なるほどねぇ。そんでよ、さっき霧島亮二はその陵辱ゲーの主人公で、しかも亡霊だって言ってたよな? それはどういうこった?」


「文字通りです。クソの霧島は向こうの世界で死んで、魂だけになりました。んで、もっと女を犯したいから、亡霊になって別の世界に迷い込んだんです。奇しくも向こうとよく似た要素を持った、このさくさくの世界にね」


「……。なるほど……。マジでくっっっっっだらない理由だな」


「でしょ? 実はセントビーナス女学院の陵辱授業ってゲーム、何の因果かこの世界の設定とよく似てるんです。ヒロインの名前は加藤優奈、宮増舞佳、百島初音、白船小雪」


「おいおいマジかよ……。じゃあ、本当にその運命的ともいえる似通った世界に迷い込んで、本来あるはずのなかったバッドエンドが出来ちまうくらい暴れ回ったってことなのか」


「そうです。奴はこの世界で散々暴れ周り、全てのヒロインを何度も何度も不幸にし尽くしました。主人公さんの慟哭がこの世界をリセットさせるスイッチになってしまった。最後の手段として、向こうのあなたと奴の魂を入れ替えたんですよ。壊されて霧島の器にされてしまった主人公さんからヒロイン達を救うために」


「つまり、俺がいなかったらこの体の霧島にまた陵辱されるか、魂とやらが壊れちまった主人公によって、ヒロイン達が確実に不幸になってたってことか」


「はい。ループする前の記憶はみんなにはありません。でも魂はその慟哭を覚えてるんです。皆が皆、もう限界だったんです。これ以上もてあそばれたら、壊れてしまうくらいに」


 なんだか、考えている以上にヘビーな理由だったな。

 俺が転生した理由なんて正直どうだってよかったんだが、ヒロイン達の不幸を見過ごすことはできない。


「そういえば、野郎の魂は結局どうなったんだ? さっき取り出してただろ」


「ええ、ここにありますよ。ちゃんと輪廻の流れに返して転生をしてもらわないといけませんから」


「まだあったのかよ」


「ええ、だからこれで終わりです」


 蘭華が何やら魂を捏ねくり回して手品のように手の平の中へと押し込んでいく。


 すると淀んだ色をしていた魂が光の粒となって霧散していき、どこかへと消えてしまった。


「はい、これで終わりです。これで霧島はもうこの世界に迷い込むことはないでしょう。行く先は間違いなく地獄ですね」


「随分とあっけない終わり方だな」


「物語だったらこっからしぶとく復活してもう一度山場が来るところなんでしょうけど、あいつは物語の外からきた異物ですからね」


「俺もそうなんだが?」


「あなたは私が呼んだゲストですからね。それに、実は亮二さんの元いた世界じゃちょっと面白い動きが始まってるんですよ」


「なんだそりゃ。何が始まってるって?」


「それはまた後でお話しましょう。それより、もう一つ大事なお話があります」


「おい待て。もう一つ聞かせろ」


「なんですか?」


「主人公はこれからどうなる? 流石にそんな経緯があるんじゃ自業自得でざまあ見ろなんて哀れに過ぎるぞ」


「彼は今後心が回復するまで療養してもらうしかありません。私の最後の役目として、さっき別の世界でもう一度やり直しができるように調整しておきました」


「どういうこった?」


「今後の人生で彼が私達に関与することはなくなります。彼には次の人生で、もう一度この『花咲く季節と桜色の乙女』という新しく作られた世界に戻します」


「なるほど。それが奴の救えなかったお前のせめてもの精一杯ってことか」


「はい……。それが私の力の限界なんです。すぐに戻すと同じ事の繰り返しですから。クソの霧島がいない分だけ多少はマシという程度にしかなりません」


 ぶっちゃけ俺は主人公を哀れには思うが、正直それだけだ。救ってやろうなんて高尚な考えはもっていない。


 だが、本来あるべきヒロイン達を幸せにできる主人公だったのなら、ちゃんとしたやり直しのチャンスがあるのは救いになると思える。


「なるほどな。これで主人公と関わることもなくなるのか。ザマアは無いのかって声が聞こえてきそうだが」

「まあ、主人公さんのこれからの人生を考えると、これ以上は死体蹴りになっちゃいますよ。やってきた事が事なんで、幸せを掴むまでには大分時間がかかります」


 たとえ霧島に心を壊されて暴走した結果とはいえ、自分自身で選択してやったことの報いは受けないといけない。


「実際何人かヤンキーをボコっちゃったみたいなんで、今頃血眼になって探し回ってるヤンキー達から逃げ回ってるでしょう」


 と、蘭華はそのように語った。


 まあ俺としてもアイツ自身に別段思うところはないし、一番最初、俺がこの世界に転生してきた時に決めた通り、これからは俺達と無関係な人生を歩んでくれればそれでいい。


「そうか、分かった。それで、もう一つの大事な話ってのは、美砂のことだな」


「さすがですね。亮二さん、今から私とエッチしてください」


「それは構わないけど、美砂の事とどう関係するんだ? もしかして妖精さんパワーで二人を分離させるとか?」


「いいえ、それはできないんです」


「じゃあ意識的に入れ替えができるようにするとか?」


「それもできません。美砂の人格はあくまで私が抜けて抜け殻になった後にできたものです」


「ならどうするんだよ」



「その前にもう一つ、亮二さんに聞いておかないといけないことがあります」


「なんだ?」


「元の世界に未練はありますか?」


「ない」


「そ、即答なんですね」


「どっちの世界で暮らすのかを決めろってならこっちだ。例えどんな制限が掛かったとしても、既に俺の女になったヒロイン達を置いて帰れるわけねぇだろ」


「それを聞いて安心しました。話を元に戻します。私は自分と美砂を分離することはできません。でも、一つだけ方法があるんです」


「それは?」


「それは……」


「亮二さん、あなたがこの世界の管理者になればいいんです」


「はあっ⁉ どういうこったそりゃ?」


「妖精さんパワーでできないことはほとんどありません。でも私が自分に対しては結構制限があるんです。理由は色々ですけど、この際それは重要じゃないので省きます。ようするに何がいいたいのかというと」


「つまり、お前とエッチするって理由がそれなのか?」



「そうです! 私の妖精さんパワーの全てを、亮二さんにお渡しします」


「ほほう。なるほどな。よし、ヤルか」


 俺はそのまま蘭華を抱きしめて客間のベッドに押し倒す。


「ひゃああんっ! も、もうちょっと躊躇とかムードとか」


「今更お前がそれを言うのか?」


「ふへへ、美砂の体の記憶はありますけど、蘭華としての私は初体験なんですから」


「そういえば蘭華にはバッドエンドはなかったな。お前は霧島の被害には遭わなかったのか」


「はい、汚されていくヒロインさんたちを思うと、全部代わりに引き受けてあげたかった。でもそれじゃ救えないですし、いずれにしても時間の問題になっちゃいます」


「お前自身が被害者になるとマズい理由があったってことだな」


「そうです。私は、どうあっても穢されるわけにはいかなかったんです。私の心が霧島に屈服しちゃうと、この力を全部奪われちゃう可能性があったから」


「なるほど。お前が力を失えば、ループして救済の道を探す事もできなくなってしまうってわけか」


「そうです……。本当に苦しかったです。申し訳なくて申し訳なくて……だから普通の現実では絶対に味わえない幸せを味わってほしかったんです」


「ははあ、なるほどな。お前のシチュエーションがやたらと現実離れしてたのもそのせいか。興奮って奴は非現実を混ぜるほど強くなるしな」


「そうです。それと、これが一番大事なことなんです」


「なんだ?」


「亮二さんがこの世界の管理者になれば、この世界が唯一の現実になります。そうすればもう二度と彼女達が傷付くことはありません」


「そうだな」


「彼女達の過去のループが全てリセットされる。この意味が分かりますか?」


「つまり、霧島にされてきたこと全部が無かったことになるってことか?」


「そうです。この結論に至るまで、本当に長かったです」


「ご苦労さんだったな。それなら後は俺に任せろ」



「お願いします。亮二さんが妖精さんパワーを手に入れたら、もっと色んなことができるようになりますよ」


「よーし、そんならありがたくいただくとしようか」


 とにもかくにも蘭華とエッチだ。

 俺がこの世界に転生してきた最後の目標。


 いよいよ達成する時がやってきたぜ。


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