目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第106話◇転生した理由◇

 皆には後で説明することを約束し、ひとまず別室を用意してもらいそこに移動した。


「いやぁ、改めまして亮二さん。こうしてまともに言葉を交わすのは初めてですね。初めまして! 桜木蘭華でーす☆」


 きゃぴ☆とでも擬音が飛びそうな可愛いポーズをとっておちゃらけてみせる妖精さん。


 格好が桜木蘭華であり、性格も彼女そのもの。


 蘭華大好きな俺としては複雑怪奇な気持ちと言わざるを得ない。


「俺としては極めて複雑な気持ちだ。だが今まで聞きたかったことがようやく聞ける良い機会だろう」


「うんうん。分かりますよ。蘭華ちゃんがなんでも答えてあげましょう。まずスリーサイズは」

「それは知ってるからいい」


「おっふっ、流石ですね」


「まず一つ目だ。お前は、この花咲く季節と桜色の乙女の隠しヒロイン、桜木蘭華で間違いないんだな」


「いえーす。そのとーりっ! 紛うことなき蘭華ちゃんですよ~」


 えっへん☆と両腕を腰に当ててどや顔をする蘭華のパイ肉がブルンと揺れる。


 こいつも初音ほどではないが、優奈以上の巨乳だ。

 そのバストサイズは91㎝。挟んでもらうのにベストなパイである。


 いや、先ほどまでの美砂の時より僅かに大きい。俺の見立てでは94㎝はありそうだ。


「そのとーり♡ 妖精さんとして復活した蘭華ちゃんは公式よりも大っきい94.5㎝の爆乳ですよ」


「心を読むんじゃねぇよ」


「だって亮二さんおっぱいに話しかけてるじゃないですか」



「むぅ、まあいい。俺をこの世界に転生させた張本人はお前ということでいいんだな」

「そうです。亮二さんには色々と骨を折ってもらって助かりました」


「そうか。なんで俺だったのか、それはあるのか?」


「ええもちろんです。あなたがこのゲームの世界を愛してやまない最高の人材だったからに他なりません。私の生み出した愛すべき世界を守っていただけるのは、あなたをおいて他はいませんとも」


 はにかんだ笑顔は照れ笑いを浮かべているように見える。

 それはゲームのエンディングにおいて魅せる最高の笑顔と同じか、それ以上の想いが込められているように思えた。


「確かに生前の俺は生活時間のほとんどをこのさくさくのゲームプレイに費やしていた。一つ聞く。この世界は本当にゲームの世界なのか?」


「そうですね。そういう言い方もできるし、本当は違うとも言えます」


「どういうことだ? いや待て……もしかして、この体の本来の持ち主、霧島亮二の影響か?」


「ほへぇ、なんで分かるんですか? どうしてそう思ったんです?」


「考えてみれば簡単な話だ。この霧島亮二は、さくさくというゲームにおいて違和感の塊だからな」


 考えてみれば簡単なことだった。


 この目の前にいる妖精さんが、何故さくさくに人生を捧げていたといっても過言ではない俺をこの世界に呼び寄せたのか。


 そして霧島亮二という、どう考えても恋愛シミュレーションゲームには似つかわしくない不吉な人物の存在。


 ゲームの世界に転生させるなんて離れ業をされて混乱していたが、それらの要素を分解して推理すれば、その答えはおのずと見えてくる。


 もちろん推理は推理。物的な証拠があるわけじゃない。


 転生なんてとんでも現象を引き起こしてしまう超常的な存在に物理証明なんて意味をなすとは思えない。


 だがその心情をおもんぱかることはできる。


「元の霧島亮二こそが、この世界に入り込んだ最初の異物なんだな?」


「その通りです」


 それまでのおちゃらけた空気感が消え失せ、真剣な面持ちで語り始める蘭華。


「亮二さん、このさくさくのゲーム世界の外側はどうなっているかご存じですか?」


「外側? 隣町とかそういうことか?」


「そうです。例えば県外に出ようとしたらどうなっているか」


「うーん、アレじゃないか。普通の日本と同じ光景が広がっているんじゃないか?」


「いいえ、この世界は、この桜ヶ丘の町一つで完結しているんです。外へ出ようと思っても出られません。もし仮に出られたとしたら、それはゲーム世界からの離脱を意味します」


「なんだと?」


「ただし、概念だけは存在しているんです。例えばみんなアメリカという国を知っているし、富士山という山を知っています。でも、実際にそこへ行こうとしても、行くことはできません。なんらかの事情で必ずいけなくなります」


「外から来る人間はどうなんだ?」


「来ることはできます。そして来た人は出て行くことはできます。でも、少なくとも亮二さん本人がこの町から出て行くことはできません」


「なるほどな。今までヒロイン達の攻略に夢中だったから、町の外に出ようなんて考えもしなかった。夏辺りに海にでもいこうと思ってはいたが」


「それは大丈夫です。ゲームにも海水浴とかレジャープールがあったでしょ? ゲーム内で行ける場所にはいけるんですよ」


「なるほどな。話を元に戻すぞ。この世界に入り込んだ最初の異物。それが霧島亮二。そこは間違いないんだな」


「そうです」


「俺の推論だが、霧島亮二が介入することで狂ってしまった世界。それが俺の知っているさくさくというゲームの内容で、本来は不純な要素を含まない本当の純愛ゲームのはずだった……とか?」


「素晴らしいです。まったくもってその通り」


「なるほどな」


「どうして正解を言い当てることができたんです?」


「正解を言い当てるというより、願望に近いな。不思議だったんだ。どうにもあの霧島亮二という存在はあの世界観にそぐわなすぎる。基本的に明るい作風の純愛ゲームに突然重たいバッドエンドがあるのもそうだが」


 あの霧島亮二という存在は、とにかくゲームの中で不純物でしかないのだ。


 以前も推理したように、あのゲームのエンディングをバッドエンドだとはひと言も表示がない。


 解釈の仕方次第ではバッドではないと受け取れるものもある。


 ただし、主人公と結ばれることなくゲームが終わるという意味では、やはり主人公視点だとバッドエンドと言わざるを得ないだろう。


「そのバッドエンドのほとんどに現われる霧島亮二という男。役割は違っても必ず関わってくる謎の人物。セリフのテキストもない。顔もハッキリしない。ヒロインの肩を抱いているCGイラストが一枚だけ。設定資料にも顔のイラスト以外載っていない。こんなのどう考えたっておかしいだろ」


「ですよね。そうなんです。さくさくは本来、バッドエンドは誰とも結ばれなかった1パターンのみ。それ以外は、本来存在しないんです」


「やっぱりそうか。霧島が登場しないバッドエンドでも、なんらかの形で関わっていたんだな?」


「その通りです。例えば初音ちゃんのバッドエンドでは、卒業前に芸能界入りした彼女がグラビアアイドルになりますよね?」


「ああ。初音の水着姿のDVDジャケット写真を見ながら哀愁を漂わせてデッキにセットするところで終わるな」


「あれ、本当はAVデビューなんです。全年齢向けにレーティングが掛かって、ボカした表現になってるだけなんですよ。主人公さんが他のヒロインの攻略に取りかかるのと同時に、霧島に犯されてビッチ化します」


「なんだそりゃ……巫山戯るにもほどがあるだろ」


「そうです。他にも舞佳ちゃんは霧島にちょっかいを出されて暴力事件を起こしてしまい、お父さんがその責任をとって道場が閉鎖の危機に追い込まれます。被害届を出さない代わりに霧島は舞佳ちゃんの体を要求するんです」


「クソだな……」


「ええ。優奈ちゃんに至っては本当に酷いものですよ」


 優奈のバッドエンドは例の霧島亮二とのツーショット肩抱き写真が代表的だが、その後の顛末は語られない。


「優奈ちゃんは霧島にセックス漬けにされて風俗で働き始めます。最後は薬物中毒で外国行きの船に乗ってそのまま行方不明」


「それがレーティングされてない状態そのままのエンディングの顛末か?」


「そうです。さくさくのハッピーエンド以外のエンディングを、ゲーム内でバッドエンドとはひと言も言っていません。しかし、幸せになったヒロインも一人もいないんです」


「あの主人公の自宅に届くDVDは?」


「ご想像の通りです。主人公さんはアレで決定的に壊れてしまいました……」


「壊れた? どういうことだ?」


「不思議に思ったことはありませんか? 主人公さんの性格の悪さ、いや、歪みについて」


「確かにいい性格とはいえないだろうが」


「もともとあんな利己的で排他主義な性格ではなく、本当は優しくて、普通の青年だったんです。まともにヒロインと結ばれれば、本当に誰も彼も幸せになれるんです」


「どういうことだ? 俺が知ってるゲームの主人公の性格は、この世界で見た主人公と大差なかった。いや、あそこまで酷くはなかったが」


「ええそうです。DVDエンドを迎えたことによって、主人公さんの心は完全に破壊されてしまったんです。あなたがプレイしたゲームは、まさしくその直前の世界を描いたものなんですよ」


 そうか、それで主人公は寝取られ性癖に傾倒してしまうのか。


 つまり……この世界はループしている? いや、していたのか?


 そして……。


「ループしている原因はあるのか?」

「ループは私の意志です。どうにかあいつをこの世界から追い出そうとしていましたが、どれだけ繰り返しても私だけでは無理でした……そこで」


「俺を転生させることした。……このさくさくの世界を壊した霧島亮二を排除するために」


「そうです」


「そもそも霧島は何者なんだ? 異物だとしたら、アイツはどこから来た?」


 それを問われた蘭華は、まるで言いたくないと言わんばかりに溜息を付く。


「正直言って、亮二さん的にはもの凄くくだらない理由と思うかもしれませんよ」


「もったい付けるなよ。ここまできたら全部知りたい」


 そして蘭華の口から語られた理由は、本当にくだらないものだった。


「あいつ、【とある陵辱ゲー】で死亡した主人公の亡霊なんです」


「はぁ?」


 絶句を言う感情を久しぶりに味わった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?