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第105話◇復活!桜木蘭華!!◇


 花咲く季節と桜色の乙女には、一つの裏設定が存在する。


 優奈のお弁当デートの時に話した内容を思い出してほしい。

 この町の丘にぽつんと生えている一本の古木。


 それは花を付けることのない幻の桜の木と呼ばれ、この町の伝説の一つになっていた。


 それは以前に話したから大事な話にフォーカスしよう。


 桜の木には精霊が宿っている、というフレーズだ。


 ゲームのエンディングでヒロインの誰かと結ばれると、桜が花を付ける。


 優奈が言っていた桜の木に宿る精霊さんの正体は、桜木蘭華ではないかという匂わせがゲーム内のシナリオに存在するんだ。


 彼女の記憶が失われるのは桜の精霊が体から抜けてしまったからであり、精霊の力がなくなったから髪の色が変わる。


 蘭華は人の笑顔が好きなのだ。だからアイドルとなって多くの笑顔を生み出したいとインタビューで答えている。


 そしてここからが重要。実際にその通りであり、桜木蘭華の正体は、桜の木に宿っている精霊そのものである。


「ご苦労様でした転生した亮二さんっ。このクソ主人公とクソの霧島をとっ捕まえる為に色々と動いてもらって助かりましたよっ♪」


「はぁ……。まさかまさかとは思っていたが、こればっかりは当たってほしくなかったよ」


 そう、俺にとって最悪のケースとは、まさかと思っていた『桜の精霊=妖精さん説』である。


 これまで絶対に認めたくなかったので、意識的に言わなかったのであるが、蘭華と妖精さんって性格というか……ゲーム内のセリフテキストと喋り方がそっくりなんだ。



「ら、蘭華……? どういうことだ? なんでイベント回収してないのに記憶が蘇って……」


「それは色々とありますけど、今から消えるあなたには説明する必要がないですね。とりあえずこっちの霧島亮二さんは主人公さんに体を返してあげてください、ねっとっ!」


「ぐはっ⁉」


 妖精さんこと蘭華は主人公霧島の倒れている体に手を突っ込んだ。


 そう、手を突っ込んだ。バトル漫画でもあるまいし、いきなりそんなことをするとは思っていなかった。


「く、くそぉお、あ、あと少しだったのにっ、くそぉ、くっそぉおおっ」


「中々抜けませんねぇ。フンンヌッ」


「ぐはっ⁉」


 ポコォンという軽快な音と共に、主人公の体から何かを抜き取る。


 しかし血が噴き出すわけではなく、淀んだ鈍い光を帯びた玉っころを取り出したではないか。


「そ、それひょっとして霧島の魂とかそういうやつ?」


「そうです。私はこいつをとっ捕まえるため、あなたにこの世界に来て貰ったんですよ」



「ど、どういうことだ? そいつ元の霧島は元々この世界の住人じゃなかったのか? 話が見えないぞ?」


 まさかループものとかタイムパラドクスがどうのとか言い出すんじゃなかろうな。


「そうですねぇ。そんじゃあお話しましょっか。あ、人が集まってきたんで琴葉ちゃん家にいきません? なんか喉渇いちゃいましたよ。はっはっは」


「そうだな、とりあえず聞きたいことが山ほどあるしな……ところでコイツはどうするんだ?」


「あ、主人公さんはほっといて平気ですよ。超能力はもう抜いておいたんで」


 まあ、そうであるならもう無害か。ほっといても問題無いだろう。


 呆けた顔の主人公をその場に放置し、皆の待つ飯倉家へと足を運んだ。


◇◇◇


「ら、蘭華ちゃんっ⁉」

「ほ、本当だっ! 蘭華ちゃんだっ!」


 飯倉家に集まったハーレムメンバー。


 まず最初に上がった声は驚愕だった。当然だろう。美砂を保護するから集まれといったのに、やってきたのが行方不明になっていた桜木蘭華なのだから。



「せ、先輩、どういうことですか? 美砂ちゃんを保護して帰るって話だったんじゃ……」


「みーたん、どこ?」


 優奈と小雪の疑問も当然である。俺は事の経緯を順を追って説明しなければならなかった。


「みんな、信じられないかもしれないが、ここにいる桜木蘭華と美砂は同一人物なんだ。美砂は記憶を失っていた」


「で、でも髪の色が……」



「そうだな。だが事実なんだ。顔をよく見てくれ。今まで接していた美砂そのもののはずだ」



「た、確かに……でも、じゃあ美砂ちゃんは……? 美砂ちゃんはどうなったんですか?」


「……」


 蘭華は悲しそうな顔をする優奈の手を取った。


「ゆうな……大丈夫、美砂、ここにいる」


「ッ、美砂ちゃん……」


「そうです。美砂っていうのは、私、桜木蘭華の本名なんです。私が美砂であるあいだ、皆さんには本当によくしてもらいました。そのことに感謝してもしきれません」


「つまりそういうわけだ。蘭華は記憶を失い、桜木美砂として過ごしていた。俺はある事情からそのことを知っていて、皆に好摩から守ってほしかったんだ」


「そうだったんですね……。だから……。でも分からないことがあるんです。どうして先輩はそのことを知っていたんですか? それに、ラクトから守ってほしいって……確かにアイツは碌でもないですけど、なんで?」


 ふーむ、そのことを説明するためにはどうしたものか。

 ここにきて誤魔化す事も可能だが、そろそろ全てを明らかにしても良い頃かも……。


 いやだめだ。彩葉が傷付く。


「それは追い追い話していこう。みんなも混乱していることだろうし、俺も彼女には確かめたいことが数多くある。すまないが少しの間、俺達2人だけで話させてくれないか。情報の整理をしたいんだ」


「それでは客間をご用意いたします。桃華、ご案内を」


「かしこまりました、こちらへどうぞ」


 皆の了解を得て、改めて蘭華……いや、妖精さんと初めてのまともな会話をすることになった。


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