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第6話 旧式神速のリファインコード

「旧式……?」


「その品質を見ただけでも分かる、時代遅れの骨董品の集まり、ゼロシリーズのリファインコードでサードシリーズの私に挑むとは何ともお花畑な。オーディエンスを期待させた結果がこれとは」 


「ゼロシリーズだ?」


 聞き慣れない単語のオンパレードにシリウスは困惑を隠せない。

 ゼロシリーズとサードシリーズ、言葉の真意は分からないがかつて最強と称された相棒が旧式だと馬鹿にされているのだけは彼も理解できた。


『なるほど……薄々予想はしていましたが』


「どういうことカリバーちゃん?」


『冷静に考えましょうマスター、ここは百年後の世界であって人類の歴史は進化と共にある。リファインコードにも技術革新があったのでしょう』


「まさか……いやそういうことなら」


『サードシリーズとゼロシリーズ……ニュアンスから少なくとも我々が別次元にいた間に三度の革新が起きたと考えるのが妥当です。この未来では我々は骨董品と同等の旧式なのでしょう』


 小声でカリバーと会話するシリウスは悲しみや困惑を入り混じらせながらも自身を納得させる。

 たとえあの時代では最新鋭の最強だろうと百年後の未来では旧式のリファインコードと馬鹿にされるのも頷けると。 

 同時に肌身で感じていた相手が有するリファインコードの異常なスペックの真相が鮮明となり、ため息混じりにシリウスは微笑を浮かべた。


「ハッ、何が来るかと思えばそんな古いリファインコードを出すとはなッ! ケララ、この腑抜けた輩へと引導を渡せ」


「仰せのままに」


 刃には業火に燃え盛る炎が宿り、シリウスのゼロシリーズを嘲笑うかのように猛威を振るう。

 大斧から繰り出される一撃は紅蓮の炎を纏い、それは天高くまで昇る。

 太陽のように煌めく灼熱の業火は空へと舞い上がりながらシリウスとカリバーへ降り注いだ。


(スペック差は歴然か、一発が重てぇ……!)


 猛威を振るう連撃を受け止めるも一撃毎に吹き飛ぶシリウス。

 受け止める度に威力は上がり、その上受け流す隙も全くもって与えてくれない。

 巧みに相殺を続けていくが防戦一方な状況は双方のスペックを如実に表している。

 そんな様子に苦戦していると見抜きニヤついたケララは肉薄を始めるとゼロ距離からラ・エルシェフを振り下ろす。


「いいですねぇ……それこそ私が望んでいた表情、弱者に相応しい焦りに包まれた形相ッ!」


 甲高い金属音と共にカリバーで受け止めたシリウスを見下ろしながらケララは興奮に包まれた。

 最新鋭かつ腹心として強力なリファインコードからなるパワーは容易に相手に膝をつかせる。


「強者とは弱者を甚振る権利を持つ。私はそれが溜まらなく大好き、このリファインコードはまさにその願望を満たす最高の玩具ッ!」


 光悦に支配されていくケララの社交的な普段の敬語は無意識に崩されていく。

 同時に本性を惜しみなく表した表情は純粋なる闇に塗れた狂気を痛烈に演出した。


「いつにも増して勢いがありますね、右腕は」


「ケララは弱者を甚振るのが趣味だ。そういう純粋な戦闘狂はこの学園では扱いやすい。やはり彼はボクが持つ最高の手駒の一つだよ」


 ボルテージが上がり続けるケララの姿にレヴダは部下と共に満足な笑みで動向を見守る。

 あぁいう生意気かつ力の持たない弱者を潰す時こそ、彼は真価を発揮する。

 歪みながらも使い勝手のいい純粋な動機が彼を支配していると分かっているからこそレヴダは不届き者へとケララを選出したのだった。


「彼の下にいるのは最ッ高! 明確な強者の立場に付くことでより弱者蹂躙の快楽を味わえるッ! 弱者だ〜いすき! もっともっと私に貴方の無様な表情を見せなさい!」


「ぐっ……!」


「私は誠心誠意、弱者を甚振り続けるッ!」


 遂には最高潮へと達したケララはそのままの勢いでさらなる追撃を仕掛けていく。


「オーバーコード」


 圧倒的なパワーが絶大なる存在感を生み出す最中、彼は静かに詠唱する。

 刹那、ケララを包み込むように背後には火山を体現化したような二本の剛腕を備える化身がけたたましく咆哮を奏でた。

 完全に決めに来たケララへは歓声が上がり、リズからは「不味いッ!?」と声が漏れる。


「化身状態……ひでぇ追い討ちだなッ!」


 顕現した化身は大斧と共鳴しながら猛り狂う。

 ケララのリファインコードも呼応するように凝縮された紅蓮の業火を纏い始めた。  


「リファインバースト、イグニス・スコール」


 必殺の詠唱に周囲の空気は燃え上がる。 

 背後から放出される炎熱と大斧から繰り出される紅蓮の業火は膨大なエネルギーを孕みながらシリウスへと襲いかかった。

 更にはラ・エルシェフの剛腕からなる大振りの拳撃が上空から放たれていく。  

 まさしく業火と破壊の雨、容赦を知らない猛攻は遂にシリウスを弾き飛ばし激しく壁へと叩きつけたのだった。


「シリウスッ!?」


 壁へと追突した勢いにリズは血の気が引く。

 何かが折れた痛々しい音が舞い上がった埃の中から響き渡った。

 晴れた先には亀裂が入った壁へと押し付けられながら倒れるシリウスの姿が映る。


「そ……そんな」


 リズは膝から崩れ落ちる。

 あれほどの高火力をまともな防御も敷かずに至近距離から食らえば一溜まりもない。

 オーバーコードの全力の一撃にリズは最悪の展開が脳裏へと鮮明に過った。


「おいおい、あれは終わったんじゃないか?」


「そりゃそうでしょ、ケララのバルト・レベルをもろに食らったのよ? 負けて当然」


「これがナイン・ナイツを怒らせた者の末路……ってか。まっ順応な勝負結果か」


 薄ら笑みを浮かべる者達はケララの強烈な一撃に納得の意を示している。

 肩透かしのリファインコードを有する謎多き不審者がナイン・ナイツの腹心に蹂躙された。

 誰もが予想した展開が予定調和で起きたことに心の片隅で何処か番狂わせも期待していたオーディエンスは次第に興味を失っていく。


「アッハハハハハッ! 流石はボクの腹心、良い演舞だったぞケララ」


「君主の期待に添えられたのなら本望です。楯突く弱者を潰す環境さえ用意してくだされば私はいつだって力を発揮致しましょう」


 ケララから奏でられていく勝利宣言と埃まみれで倒れ伏せるシリウスを堪能しながらレヴダは気高く審判の声を放とうとする。  

 突如として始まったフォルトゥナゲームは彼の策略通りに物語を終えようとしていた。


「そこまでッ! 対戦相手を再起不能と判断。ルールに則りケララ・ファレスの勝利として「いってえぇぇぇぇぇぇ〜!」」


「ん……?」


 かに見えた気高き裁定の最中、突如として響いたのは痛烈かつ奇天烈な悲鳴。

 オーディエンスだけでなくレヴダも動きを止め、大声を放つ者は軽快に立ち上がると砂埃を落とす。


「ったく肋骨折れちまったか、全く最新鋭ってのは恐ろしいな〜流石に直撃は堪える」


「「「なっ……!?」」」


 誰もこの現実を理解できない。

 あれだけの一撃を諸に受ければ暫くは身体をまともに動かせなくなっても可笑しくない。

 だが目の前に立っているのだ、確実に潰したはずのシリウスは闘争に溢れる笑顔と共に。


「嘘でしょアレを食らって……!?」


「おっリズちゃん今の見た!? 俺のタフさにゾッコンでもしたかい?」 


 おまけに周囲と同じく唖然とするリズへと振り返りながら軽口を叩いている始末。 

 美しい口元や頭部から鮮血が零れ落ちる痛々しい姿とは裏腹にまるで元気な様子は驚きを超え、一種の恐怖を与える。


「馬鹿な……何故立ち上がっている? 君は弱者として私に蹂躙されたはず」


「悪いが俺は色々としぶとくてね。おかげで中々倒れない性分なのよ」


 再び相対した両者、ケララの瞳には明らかに動揺が浮かんでいる。

 どう考えてもまともな結論に至れない、己のリファインバーストを食らって立ち上がるその理由を。

 高揚していた感情は鎮火すると予測不可能な目の前の存在に焦りを覚え始める。


「スゲェな君のリファインコード、こいつは俺らが旧式だの言われて納得……まぁだが、このゲームに勝つのは俺だ」


「何なんだ……何なんだ貴様は? 死に損ないは死に損ないらしくとっとと屈服しろッ!」


 今度は焦燥感から口調が崩れていくケララは再び刃先へと業火を纏うと化身と共に肉薄する。

 次こそは確実に不気味なこの男を仕留めると純粋な殺意がシリウスへと迫りを始めていく。 


「カリバー更に行けるよな?」


『えぇマスター、貴方の粘りのお陰で神速の力を使える魔力が溜まりました。鉄槌を下すのは今しかありません』 


「オーケー……さぁ、俺に追いつけるか?」


 不敵さに染まるシリウスは肉体を揺らしながらカリバーを持ち直し構えを始める。

 腰を低くした独特のフォームで真っ向から迎え撃つシリウスは深呼吸の末に真っ直ぐ襲いかかるケララを凝視した。

 先程までの享楽的な一面は鳴りを潜め、不穏な静寂が彼へと纏われていく。


(正面から迎え撃つつもりか? 馬鹿なことを、私のパワーにそんな旧式で勝てるとでもッ!)


 所詮は少しばかりタフなだけ、ならばパワーで無理矢理にでも捻じ伏せればいいだけのこと。

 搦手を使うでもなく真っ向から挑む姿を嘲笑しながらケララは再び振り被りを行った。

 上段から放たれる斧と化身による剛腕の大振りは周囲の空気を焼き尽くす。


「くたばれ変態男ッ!」


 確信の雄叫びが宣言する。

 さぁ無惨に朽ちるがいいと高笑いと共に大斧を振り下ろそうとした矢先だった。


「えっ……?」


 ケララの視界から彼の姿が消失したのは。

 ここに来て幻覚でも見ているのかと瞬きを繰り返すが何度行おうがシリウスの姿がない。

 つい先程までその場で構えていたはずの存在が消えたことにケララの思考は停止する。


 その瞬間__。


「がぶぁッ!?」


 背後から襲いかかる強烈な衝撃。

 トドメを刺そうとした自らの肉体はいとも簡単に宙へと吹き飛ばされていた。

 激痛と浮遊感が同時に湧き上がり、思考へと響くのは絶大なる混乱。  

 全てがスローモーションとなる中で鼓膜には唖然を意味する周囲の声々が鮮明に響き渡る。


(何が起きた……何故私はここにいる? 何故無様に宙へと舞い上がっている……!?)


 答えを見出せぬまま肉体は地へと激しく叩きつけられるしかない。

 乱れた髪を直す余裕もなく、直ぐに立ち上がると周囲を我武者羅に見渡すが再びシリウスの姿は消失していた。


「クソッ何処に消えたッ!?」


 捉えられない恐怖は着実に理性を蝕み、ただ当てもなく攻撃を行うしか方法がない。

 そんな乱雑な抵抗が通じるはずもなく再びケララは幾度もの衝撃に宙へと投げ出される。

 全方位から神出鬼没に襲いかかる攻撃、餌食となったケララに打開する術は存在しなかった。


「あり得ない……こんな、弱者が私をッ!」


「大振りな攻撃」


「ッ……!」


「パワーは一級品だがそれが故にモーションは隙だらけ、軌道の予測は簡単に出来る」


 無残に膝をつくケララを見下ろすのは弱者として蹂躙していたはずの存在。

 欠点を既に見抜いたシリウスは憤怒の形相で睨みつけるケララを見下ろす。

 不敵に笑うその姿に最低限残されていた理性をブツッと破壊し、全てを怒りに包み込んだ。


「弱者ァ……弱者が私を穢すなどォ……足裏で踏み躙られる弱者が私を蔑むなどォォォッ!」


 半狂乱のままラ・エルシェフは振り下ろされるが癖を見抜かれた攻撃は容易く受け流される。

 嬲り殺そうと仕掛けた結果は悪鬼羅刹な相手へと大きな隙を至近距離で生んでしまう。


「ッ!?」


「どっちが弱者か、試してみるか?」


 身体を拗らせたシリウスは赤い閃光を走らせながらケララの脇腹を横薙ぎに切り裂く。

 赤い残像を残響させる神速使いは剣先を突き出し、その切先からは数多の連撃が強襲する。

 トドメと上空へ遥かに跳躍した謎多き存在をケララはただ呆然と見るしかなかった。


「ハァッ!」


 白銀の刀身は鮮明に煌めく。

 一途に目掛けた刺突からなる天からの一撃は鮮やかにケララを後方へ吹き飛ばす。


「ぐぼぁッ……!?」


 鈍い音を奏でたと同時にケララは嗚咽と共に白目を剥きながら地面へと崩れ落ちる。

 意識を手放した事を意味するようにラ・エルシェフは手元から離れ、化身は瞬く間に消失した。

 時間にして僅かに数秒、突如として覆った結末を周囲はただ沈黙という形で凝視する。


「俺の名はシリウス・アーク」


 華麗なる着地を決めた旧式と罵られた存在はその静けさを打ち破り、言葉を紡いでいく。

 何処までもイレギュラーを極める現代に蘇りしかつての最強は新世代へ不敵に笑うのだった。


「その時代遅れを、君達は知ってるか?」

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