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第5話 紡がれる無双のアリア、第二曲

 同刻、第二闘技場。

 本来はリファインコード育成機関として設置された鉄製の無骨な特別闘技場。

 常に闘志に燃えている空間だが今回は特に凶暴な空気で場は埋め尽くされていた。


「戦いはゲームじゃないって……あの魔人ちゃんは言っていたがなっちまうとはな。戦いがゲームに」


 完全なるアウェー、全方位から投げつけられる眼差し達はシリウスの隅々を凝視する。 


「おいおい、マジなのか? ナイン・ナイツの腹心があの例の不審者と戦うって」


「そうみたいだぞ、何でもレヴダ本人の要請で急遽フォルトゥナゲームが決まったらしい。まぁだが……ゲームって言っても結果は見せしめの蹂躙だろうな」


「婚約者にセクハラしたって話でしょ? そりゃ殺されて当然でしょ。気の毒だけど」


「まぁいいじゃねぇか、面白いものが見れるなら何だってさッ!」


 ナイン・ナイツの腹心と突如学園へと現れた謎大き不審者、異質ではあるが人を呼ぶには充分過ぎる対戦カード。

 この状況でも全く萎縮しないのは図太い性格であるシリウスだからこそだろう。

 寧ろ何処か楽しむように笑みを浮かべていると共に手元は武者震いに支配される。


「ちょっと……アンタ本気でやる気なの?」


 反面、ついさっきまで悪い夢であってくれと願っていたリズは頭を抱えながら正気なのかとシリウスに心配の眼差しを向けた。

 たった一言でも「あれは嘘だった」と言えば彼女は即座に彼を逃がすだろう。


「男に二言はないってね〜? これ以上、君に迷惑を掛けるつもりはない」


「私のことはどうだって……! 私はアンタのことが!」


「こんなかわい子ちゃんに心配されるなんて最高だね〜! なんて冗談言ってる場合じゃなく、ここは任せてくれ。このゲーム絶対に勝つからさ」


 相変わらずの独特なテンションに呑まれたリズはこれ以上、咎めの言葉を発することは出来なかった。

 軽快ながらも何を言おうが揺るがない意志を感じた彼女は渋々ながら彼を尊重するしかない。

 何処までも謎めいた男だがリズは彼から放たれたあの名前が脳裏に引っ掛かっていた。


(この男、自分のことをシリウス・アークって……クロニクル・ウォーの英雄、ヴィルドの白薔薇と同じ名前?)


 シリウス・アーク。

 学園配布の教本にも僅かに記載がなされていた歴史に名を刻む英雄に位置する人物。

 内乱によって今は亡きヴィルド帝国のリファインコード最高戦力として『ヴィルドの白薔薇』と崇められていたとされる存在。

 だが百年前のクロニクル・ウォーの戦闘にて消息不明、内乱も重なって今では名前以外の大半のデータが残されていない謎多き存在でもある。


(いやいやまさか……そんな訳が)


 同じく彼もまた謎めいてるのもあって百年前の英雄がこの学園に現れた、という考察がふと過るが即座にリズは自らで否定する。  

 何を馬鹿馬鹿しいことをと自らを律しているとけたたましい声が会場に沈黙を与えた。


「これよりナイン・ナイツ、レヴダ・ワイルズを審判とし、フォルトゥナゲームを開催するッ! 両者、同意の意志を」


「同意致します」


「同意」


 レヴダの宣言に会場はしきりに歓声が上がり始め、地鳴らしのように空間は揺れる。

 ケララとシリウス、両者が睨み合いの牽制を行い火花が散る中、劇のような動きと共にゲームの詳細は明かされていく。


「フォルトゥナゲームは学園に存在する対戦型のゲームだ。個人複数に関わらず両者の同意があればゲームは行われ会場は如何なる場所でも自由、五分の制限時間の中で相手を戦闘不能にしたプレイヤーが勝利、タイムオーバーの場合は引き分けとして獲得ポイントを奪い合う」


「へぇ、シンプルでいいなそのゲーム!」


「黙っていろ、そしてこのゲーム最大にしてこの学園の理念を反映化されたシステム! フォルトゥナゲームに敗北した者は学園からの脱落、強制的なリタイアとなることだ」


 フォルトゥナゲームの真髄。

 それは誰だろうとゲームに敗北した相手を学園から脱落させる夢のゲーム。

 ナイン・ナイツだろうと関係はなく誰もが蹴落とされる、逆に言えば誰だろうと蹴落とす事が出来るゲームこそが学園を支配し、実力主義を生み出す最大のシステムであった。


「負けたら平等に終わり……ってか。面白そうだなリズちゃん!」


「何で楽しそうなのよ!? 言っとくけどこのゲームはそんなフェアじゃない」


「えっ違うの?」


「一般生徒同士ならまだしも、ナイン・ナイツ、もしくはその側近達は裏ルートで高性能なリファインコードを有している。絶対に……自分達が負けることのないようにね」


 魅惑に溢れたゲームに潜む現実をリズは苦虫を噛み締めたような顔で吐露する。

 時に、このゲームは勝者と敗者が決まり切った出来レースと化すことを。


「この学園はナイン・ナイツの強権が支配しているも同然、故に不満解消で設置されたのがこのフォルトゥナゲーム。でも実態はナイン・ナイツ達の技術アピールの場でしかない」


「挑んだ奴らは貴族様の出汁ってか?」


「その通り、このゲームは平等感があるだけの不平等なゲーム。だから言ってるのよ無謀なことをしてるってッ! そもそもアンタはリファインコード適正者なの……!?」


 彼女の不安は加速していくが時間は無情にも過ぎ去っていき、開始のアナウンスにリズもその場から離れざるを得なくなる。

 同時にボルテージは最高潮に達すると戦いの予兆を知らせる熱い空気が場へと蔓延していく。

 シリウスと相まみえるケララにもまた歯茎を見せるほどの笑みを見せながらこれからの蹂躙タイムに胸を躍らせていた。  


「両者、構え」


 刻々と、開戦の時間は接近を始めている。

 嵐の前の静けさを暗示するように空間には場違いな優しいそよ風が吹く。


『全く……また貴方は死に急ぐようにこういう面倒事に首を突っ込んで』


「とか言って、今回もちゃんと俺についてきてくれんだろカリバーちゃん?」


『武器誑しめ……我々は別次元の影響によって能力も体力も真価を発揮するのにはまだ時間を要します。それでも宜しいですね?』


「あぁ、恋も戦いも逆境あってだろ?」


 天へと掲げられていくレウダの拳。

 これが振り下ろされた瞬間、戦いの火蓋は切って落とされる。

 勝利への鍵は自らが掴む、そう覚悟したシリウスを包み込むのは一陣の風。


「最高の戦いを演じよ、バトルスタートッ!」


 開幕の合図は優雅に奏でられた。

 同時に舞台の上に立つ猛獣は獲物を食い殺さんと牙を向く。

 刹那、ケララの瞳には赤い閃光が走ると手元には火炎を纏う大斧が顕現を始める。


「は〜い、蹂躙タイムの始まりで〜すッ!」


 迷いなしに振り下ろされた一撃は地面をかち割ると紅に染まる業火の火柱を生み出した。

 弧月を描くように繰り出されたのは必殺の一撃、大斧から生み出された焔と熱気は彼を呑み込むように強襲する。 


「速っ!?」


 驚きを表情へと表すシリウス。

 腑抜けた彼の声に確実に当たったとケララは確信するが紅に染まった陽炎からは掠り傷程度のシリウスが姿を現した。

 かつての最高戦力としての本能か、思考は驚きつつも肉体は反射的に回避行動を取り、紙一重のタイミングで直撃を免れる。


「避けた……悪運の良いことッ!」


 一振りで空気をも焦がし切る一撃は常人の目なら確実に捉えることは出来ないだろう。

 ギリギリとは言えど容赦のない猛攻の軌道を肉眼で見切ることが出来るのは彼に染み付いた潜在的な技術を物語っている。


「あっつ!?」


 だが、完全に避けられた訳ではない故に肩口に焼き付くような痛みに表情を顰めていた。 

 生々しい赤黒い鮮血は衣服へと付着し、予想通りの展開に観衆は大いに盛り上がる。

 すこぶる好調な腹心の状態に臨んだ展開が見れるとレヴダもまた悦楽に包まれていく。


(グッ……ケララのラ・エルシェフ……いつにも増して出力の調子がいい。このままじゃ間違いなく直ぐにやられる)


 唯一顔を歪めたリズはケララの有するリファインコード、ラ・エルシェフがよりにもよって調子が良いことに苦悩していた。

 炎の属性を有する故の火力と繊細さを兼ね備える搦手なくとも高品質な性能はナイン・ナイツの腹心に相応しいと言えるだろう。


(何だあの速度と火力……あんなスペックの高いリファインコード見たことない。おもしれぇッ!)


 今の攻撃がどれ程の脅威か改めて理解した彼はただ闘争心に呼応するように笑みを強めていく。

 萎縮するどころか寧ろ余計に燃え上がったシリウスは口元に溜まった血液を吐いた。


 場は瞬時にケララ一色に染まりゆく。

 この時点でシリウスの勝利を確信する者など誰一人としていない、いるならば予知能力者か博打好きのイカれた者だけ。

 それほどまでにゲームは僅かに数十秒で決着の時を迎えようとするが当の本人であるケララは不満を露わにしている。


「違いますね……私は貴方の不屈な顔を見たいのではない。己の無力を実感し、真の強者に踏み躙られるその泣き顔が見たいのですよ」


 全く闘争心の消えないシリウスの表情。

 早く崩れた顔を見せろと思いつつ、中々しぶとい彼に苛立ちを募らせていく。

 望む表情ではないと一方的過ぎる願いが当たり前のように奏でられる中、微笑を見せたシリウスは逆に挑発的な言動を繰り返す。


「泣き顔ね……少なくとも君に見せる涙は俺にはないかな?」  


「あっ?」


「俺はかわい子ちゃん好きなんでね。王子様が涙を流すのは子猫達の前って決めてんだよ」


 鼻につくキザな言動に眉間にはシワが寄り始めるケララへとシリウスは構えを整える。

 これまで遊ばれたことを返すかのようにふざけた言葉とは裏腹に彼には闘志が漲りを始めた。


「カリバーちゃん、行けるか?」


『通常形態のみならば。化身や神速の力はまだ少し時間を要します』


「十分だ、今はそれだけでも」


 瞬間、周囲には戦慄が走る__。

 誰も予期せぬ展開故の衝撃は急速に広がった。


「はっ?」


「えっ?」


「「「なっ!?」」」


 シリウスの瞳にはケララと同じリファインコードの使い手を意味する赤い閃光が疾駆を始める。

 魔力解放によって生み出されるリファインコード適正者特有の瞳に宿る赤き閃光。

 相手が力を有する存在なのか否かを判別するには最も適した瞳の変化は動揺を走らせた。


「アイツ、リファインコードが使えるの!?」


 身を乗り出して驚くリズ、だが同時にこれまでにあった彼の自信に対する疑問も解消される。

 同様の力に選ばれし存在、ただの凡夫と貶していたレヴダと配下の生徒達は目をかっぴらく。


「その力を使えるならこの閃光が何を意味してるかは分かるよな?」


「まさか……リファインコードの適正者?」


「御名答、そして同時にお披露目さッ!」


 顕現した魔法陣からは強烈に靡く風圧と共に幾何学模様を象る光刃が姿を現す。

 白銀に包まれる美しき武具はグリップが握られると盛大に引き抜かれていく。

 自身の等身にも迫る長剣は神々しい佇まいで空気を振動させた。


「カリバーちゃん、降臨ってな?」


 唯一無二の相棒の登場に感情が昂るシリウスは自信に塗れた表情を盛大に表す。

 仮にも世界を救った伝説のリファインコード、周囲は凄まじい歓声に包まれ……。 


「な、何だあのリファインコード……?」


「えっ、ガチ?」


「どういう……こと?」


 思っているのと違った。

 いや驚かれてはいる、だがシリウスが予想した歓声というよりは「何でそんなもん使ってんだ?」との声が聞こえるような困惑の驚き。


「……あれ?」


 勢いに乗っていたケララやレヴダもまた顕現されたリファインコードに困惑を抱く。

 全く予期しない反応に焦りが募り、振り返った先にいるリズもまた状況理解が追いついてない。

 思わず目が点になる展開は歯がゆい沈黙を誘うがやがてそれは蔑みを込めた大笑いへ変わる。


「プッ……アッハハハハハハッ! なんだよあのリファインコード! 馬鹿なのかあの男!」


「あんなもんでナイン・ナイツの腹心に挑もうとしてたとか哀れ過ぎるだろ!」


「あ〜あ、何が来ると思えばこんな肩透かしか」


(あれぇぇぇぇっ!? なんか思ってたのと全然違うんだけどぉ

!?)


 観客の盛大な反応に納得がいかないシリウス。

 歓声どころか罵倒までされている現状に困惑を抱くしかない中でケララもまた手を叩きながら蔑み塗れの爆笑を木霊させていく。


「ププッ……! そんなで私に勝てると思っていたのですか? やはり弱者というのは愚かで面白い」


 全方位から向けられる蔑みの瞳。

 心からの見下しを抱くケララの視線は放たれた旧式という言葉と共にシリウスへと痛烈に焼き付くのだった。


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