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第4話 ナイン・ナイツ

「えっ、滅亡?」


「魔人エクリプス消滅をキッカケとしたクロニクル・ウォーの勝利後、度重なる内乱で帝国は滅んで今の国家が存在しこの学園はその中核機関よ」


(ヴィルド帝国いつの間にか滅亡したの……!? ここはその後釜になった国ってことか)


 カリバーから明かされた百年後という事実。

 何処か信じ難い話だったが帝国の滅亡という言葉に一気に信憑性は格上げしていく。

 この現実を受け入れるしかないとシリウスは改めて自らに言い聞かせた。

 彼自身も空気感などの違いから薄々これまでとの違いを把握してはおり、深呼吸を重ねることで気を落ち着かせる。


「マジかよ……って待て、何で学園なのに首切られなきゃならないの!?」


 だが落ち着けば落ち着くほど今度は学園という場で首を切られるというあり得ない状況に新たな困惑が募り始めた。


「アンタは……怒らせたら危険な存在を怒らせてるからよ。絶対的な存在達の一人をね、でもそれは私の立場が原因でもある」  


「君のせい?」


「アイツは恐らく怒り心頭、アンタも調査が終わるまで身を隠してなければ何の事情があろうとアンタは問答無用で」


 神妙な面持ちで明かされていく実態にシリウスは興味深そうにリズを凝視していく。

 同時に意味深な言葉を口にした彼女に質問を投げかけようとするが。


「貴様ァァァァァァァァッ!」


「うぉ何!?」


 荒々しさを極める激情の喧しい叫びが強制的に会話を終了させる。

 身をビクつくかせ咄嗟に振り返った先には大量の部下らしき生徒を引き連れた黄金髪の男が一途に迫っていた。

 形相は今にも人を殺す勢いで血管が浮き出る程の憤怒を纏った存在は張り詰めた空気を演出していく。


「なっレヴダッ!? 何故ここが」


「ボクは君のフィアンセだ、君の行動パターンくらい容易く読める……何故君がこのような事をしているのか疑問だが、それよりッ!」


 誰が見ても平常ではない普段の美顔を崩しながらレヴダはシリウスを力強く指差す。


「貴様だな……その顔を見れば分かる、ボクだけが好きにできる麗しき薔薇を穢した輩はッ!」


「麗しき薔薇?」


「万死、万死万死万死ッ! 万死に値するぞ、貴様はボクのプライドを傷つけた、今直ぐここで千切りしてやるゥゥゥゥッ!」


 狂気の域に達する叫びの連続。

 身を揺らしながら一つ許可の言葉を囁けば直ぐにも虐殺に走りそうな姿に理性はない。

 最早、ただ欲と本能の為に殺戮を行う魔導生物と変わりはなかった。


『気をつけてくださいマスター、彼からは最低限の理性すらも感じられません。戦闘のご準備を』


「分かってるよカリバーちゃん、でも待て、あの坊っちゃんの雰囲気……何処かで既視感が」


『既視感……ですか?』


 小声のやり取りで警戒心を直ぐに強めたシリウスは交戦の体勢を取り始めた。

 同時に目の前の激情的に包まれるレヴダに何処か既視感のような物を覚える中、割って入るようにリズは前へと飛び出す。


「待ってレヴダッ! 容疑を掛けられた者でも学園での調査を終えるまでは如何なる危害を加えてはならない、学園条項にもそう記載されているはずよ!」


「知らないねぇ、そいつは公の場でボクの所有物に手を掛けプライドに傷をつけた。それだけでも殺すに値する、そこを退けッ!」


「アンタ……ルールの一つも守れないの?」


「黙れッ! 奴隷王の娘の分際でボクに偉そうな口を聞くんじゃないッ!」


 互いに全く引く気のない対立。

 学園と言うには殺伐としてる空気は着実に蔓延を始めていく。

 一触即発へと進む状況にしばらくは静観を続けていたシリウスだが次に響いた言葉は彼の思考を激しく揺れ動かした。


「ボクにルールなどは通じない、のボクには無意味なんだよッ!」


「……はっ?」


『何……?』


 鼓膜に響いたその言葉はシリウスとカリバーの思考回路を一瞬にして停止させる。

 何処か享楽的だった形相は瞬く間に引き締まり、表情を大きく変化させていく。


「ナイン……ナイツだと……?」


『何故……またその名前が』


 聞き間違いならどれ程良かったか。

 ナイン・ナイツ、その言葉が何故目の前の男から紡がれている?

 だが、理解は追いつかないが心の何処かにあった違和感と既視感は一気に結びつくと一つの結論へと彼を導いていく。


「さぁフィアンセ、そこを退き給え。妻の君だろうとこれ以上は君に傷を刻むことも辞さないぞ」


「くっ……いいわよ、この人をアンタの暴走から逃がせるって言うのならここでフォルトゥナゲームの再戦をしたって」


 最高潮に達する殺伐の空気。

 両者共に瞳に魔力解放を意味する赤い閃光を灯らせ、手元には魔法陣を経由したリファインコードが握られる。

 部下もまたリファインコードを顕現し、誰かが合図をすれば直ぐにでも戦いが始まる瀬戸際まで状況は悪化していた。


「待て」


 だが、火蓋が切られかけた戦いの寸前には低音の声が響き渡る。

 後方から奏でられた声の後にリズの視界には入れ替わるように自身の前へと立つシリウスの姿が映った。


「なっ、アンタ何して!? 早く私の後ろに下がって!」


「ナイン・ナイツ」


「えっ?」


「かつてクロニクル・ウォーの軍需産業によってヴィルド帝国で圧倒的な権力を得た九つの貴族の総称……まさか百年後もその名を聞くことになるとは。あの時に滅ぼしたと思ったがまだしぶとく生きてたのか。俺にあった既視感はこれか」


 リズはこれ以上、彼に咎めの言葉を発することが出来なかった。

 先程の明るさとは打って変わり、まるで別人のような冷酷と称するべきものがシリウスを包み込むと場には緊張が走る。


「な、なんだコイツ……?」


「この心臓を掴まれる感覚は……?」


 彼女だけでなく配下の生徒達もまた空気感の変化に顔を強張らせ高圧的だったレヴダもまた言葉を無意識に詰まらせた。


「貴様なんだその目は……ボクに向かってそんな反抗的な目が許されるとでも」


「似てるな」


「はっ?」


「部下を沢山引き連れて少しでも腹が立てば粛清、やってること昔と全く変わんないな。その気性の荒さはワイルズ家の子孫か」


「さっきから何をゴチャゴチャと!? もういい、貴様が動くだけでも虫唾が走る。ここで断じて貴様の死に顔をとことんとッ!」


 握られたリファインコードのクォーツブラストは怒りと共にシリウスへと振りかぶられようとする、だがその瞬間。


「……いや、もっといい案があった」


 彼の動きは突如ピタッと制止する。

 画期的なアイデアが思いついた悪意に塗れた笑みと共に。   


「このままただ惨殺するのもつまらない。この学園らしくゲームと行こうじゃないか」


「はっ……? アンタ急に何言って」


 またもや空気感の一変、微笑を浮かべながら放たれた突発的な提案にリズ達は言葉を失いレヴダはシリウスへ挑発的な眼差しを向けた。

 冗談ではない言葉の節々から感じる確かな重みがプレッシャーを与え、全員が彼から目を離せなくなる。


「貴様ゲームは好きか? ならば一つだけチャンスをやろう。ケララッ!」


 刹那、彼の叫びに呼応するように一つの人影が跳躍と共に姿を現す。

 片目を隠した青髪は美しさと殺意が混じり合う存在は一途にシリウスを凝視する。


「レヴダ様の命を受け、ケララ・ファレス、ここに見参」


 【ケララ・ファレス】

 ・プレイヤーランキング21位__。

 ・獲得ポイント86000pt__。


 優雅なお辞儀を放ったケララの名を持つ美麗な少年は見下しの感情を全開にしながら口角を上げていくのだった。


「ッ! レヴダ派の右腕……!?」


「貴様、この男を一対一で倒してみろ、勝てば貴様を無罪放免にしてやる。いや、何ならこの学園に編入エントリーさせてやってもいい」


「なっ……なっ!?」


 激しい動揺による驚きの声。

 レヴダがシリウスへと持ち掛けたゲームの内容を耳にしたリズは馬鹿馬鹿しいにも程があると即座に割って入った。


「正気なのアンタ!? レヴダ派の右腕とフォルトゥナゲームで戦わせるなんてどうかしてるにも程があるわよッ!」


「この学園はゲームの勝者こそが正義、その理念に則っただけだが?」


「ゲームって……勝ち負けがハッキリしてる内容なんてゲームと言わないわよッ!」


「このボクのゲームに勝てば君が守ろうとする輩は助かる。悪い話ではないだろう? それとも今ここで殺そうかい? アッハハハハハハハッ! ウハハハハハハッ!」


「素直ではありませんね奴隷王の娘、とっとと我が君主の指示に従うのです。この男にはそれしか道がないでしょう?」


 嘲笑いを極めながらレヴダとケララの煽りにリズは大きく顔を歪ませた。


「ッ……ゲス共が」


 苦悩するしかない、彼の提案するゲームが如何に馬鹿馬鹿しく無理ゲーであることを理解しているからこそ。

 どちらの道を選ぼうと死に追いやろうとする最悪の選択肢にシリウスを守ろうとする彼女は徐々に追い詰められていく。


「アンタ、奴の提案に乗る必要はない。ここは私に任せて早く離脱を「ゲーム」」


「そのゲームに勝てば……俺は無罪か?」


「えっ?」


 だが彼女は見誤っていた、守ろうとする彼がただの凡人ではないということを。

 思わず見上げたリズの視界には不敵に口角を上げるシリウスの姿が鮮明に焼き付く。

 予想打にしなかった返答にレヴダとケララもまた豆鉄砲を食らった鳩のように表情は驚きに包まれていった。


「そうだが……まさか貴様、このゲームに勝てるとでも思っているのか?」


「思わなかったらとっくに逃げてるな。負け戦はしない性分なんでね」


「……本気か?」


「そっちからの提案だろ? そのゲームとやら乗ってやるよヴィルド家の坊っちゃん達、まさか今になって怖気付いたか?」


 ギラつく瞳はレヴダへと挑発を返す。

 恐れを知らない生意気な言動に青筋を浮かべるが、やがてそれは笑みへと変わる。

 無理に決まっている、いや寧ろ惨劇が見れるかもしれないという期待を込めながら。 


「ハッ、その威勢が恥辱に包まれるのが楽しみだな。ケララ準備は出来ているな?」


「えぇ勿論、たった一秒でも早くこの生意気な弱者を潰したくて……ウズウズが止まることを知りませんよッ!」


「フンッ……場所は第二闘技場だ。逃げようが貴様を地獄まで追い詰め惨殺する。ボクに歯向かった事を神に懺悔するがいいさ」


 不敵な笑みと共に怒号が響かせたレヴダ達は背を向けその場を去っていく。 

 残されたリズはただ蹌踉めき、驚天動地の展開に唖然とするしかなかった。


「なっ、アンタ何考えてんの!? ナイン・ナイツに喧嘩を売るどころかあいつの右腕と戦うなんてッ! お遊びじゃないのよ、奴らは本気でアンタを殺しにッ!」


「元は俺が巻いちまった種だ、そういうのは自分で方を付けんのがカッコいい男だろ? 大丈夫、俺結構強いから!」


「ッ……アンタは一体、何者なの?」


「シリウス・アーク」


「えっ……?」


「その名を君は知ってるか? リズちゃん」


 まるで閃光のような存在。

 偶然か必然、はたまた神の悪戯なのか。

 このイカれた世界の中、決して交わるはずのなかった二人は運命に導かれていく。

 何処か鬱屈としていた平和は爽快に現れたこの男によって崩されていくのだった。


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