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第3話 囚われの王子様

(いってぇ……何が起きたんだ?)


 肌を伝う冷たい空気。

 頬には未だに痛烈な痛みが残り続けるが朦朧としていた意識は回復の兆しを見せる。

 五感は段々と鮮明さを取り戻し始め、シリウスは真っ白に染まっていた思考の理性を復活させていく。


(確かカリバーちゃんとグランドブレイクに突っ込んで……そっから色々と彷徨って……いきなり飛び出したと思ったら……平手打ち)


「ッ! そうだ、おっぱい!」


 あの顔に残る温かく甘美な匂いに包まれていたおっぱいで遂に意識は完全に目覚める。

 反射的に身を乗り出そうとするがガチャッと手元から鳴った金属音と共に己の身体は強制的に引き戻された。


「あだっ!? って……手枷か?」


 漆黒に塗りたくられた石造りの壁に位置する鎖と繋がる頑丈な鋼鉄の手枷。

 両手を上げられている形で存在する拘束具は少し肉体を動かした所でびくともしない。

 辺りを見回せばベットすらない僅かに小窓があるだけの牢屋という人扱いされてない状況にシリウスは顔を歪ます。


(捕まってる……で良いよな。ここは何処なんだ? 俺は何処に行き着いた?)


 必死に思考を巡らせていると前方からは鉄格子を挟んで甲高い声がヒソヒソと響き、やがては大きさを増していく。


「ちょいちょい目覚ましたよアレ! あのダイナミックセクハラ男!」


「嘘マジ!? うわっガチじゃん……これレウダ様に報告しとくべきよね……? 報告したら絶対にただでは済まないけど」


 監視役であろう制服を身に纏う二人は物珍しそうに恐る恐るシリウスを凝視する。

 互いに目を合わせながらダイナミックセクハラ男と真っ直ぐ過ぎる蔑称を吐く二人へと果敢にシリウスは会話を試みた。


「えっと……そこの綺麗なお嬢さん達? 少しだけ俺ちゃんの話を聞いてくれると」


「うわっ喋ってきた!?」


「ど、どどどどうするの!?」


「報告報告! 早くしないと私達もセクハラされるわよ!?」


「「キャァァァァァァァァッ!」」


「ちょっとお嬢さん達ッ!?」


 噛み合わないどころか最早会話にすらならないまま少女二人は慌ててその場から退散していく。

 幾らかわい子ちゃんでもここまで問答無用に拒絶させるのは流石のシリウスも応え、深くため息を吐いた。


「ったく……俺は珍獣かよ」


『仕方ありませんね。いきなりレディの胸に飛び込んだ変態男には妥当の評価です』


「いやそ〜だけどさ……って、ん?」


 一人呟いた独り言に反応した透き通る声は彼が最も聞き慣れている相棒の声。


「カリバーちゃん!? そこにいるのか?」


 彼にとっての精神的支柱であり、バランサーでもある武器カリバーリベレイター。

 持ち主に反した紳士さと冷静さを兼ね備える唯一言語を司るリファインコードは優しい声をシリウスへと掛けていく。


『えぇマスター、私は常に貴方のもとに。今は別次元への介入を原因とした一時的な魔力喪失によってまだ姿を現せません。今この声は貴方だけに聞こえるようこちらで調整してあります』


「よく分かんねぇけど……君も俺も生きてるってことでいいんだよな?」


『それで構いませんよマスター』


 混乱していた思考は相棒の言葉で落ち着きを取り戻す。

 冷静さを蘇らせたシリウスは自身が置かれている現状の分析をカリバーと共に始めた。


「一体ここは何処なんだ? 俺と同じような人間がいるようだが」


『本能的な勘に過ぎませんがこの建物の高度な建築技術、及び我々と同じ力を使う者がいる……結論から言えばここは我々が元いた世界の未来、ざっとでしょう』


「へぇ……えっ、百年ッ!?」


 時間差でとんでもない事実を理解したシリウスは声を荒げるしかない。  


『別次元へと干渉するジ・ローゼンブリッジのリファインバーストの影響です。別次元へと介入した際の時空の歪みにより、我々は未来の世界に降り立つことになった』


 神速の力をフルに使うことで別次元へと介入を行うジ・ローゼンブリッジ。

 グランドブレイクすらも消失出来る程の効果を持つが代償として使用者は時空の歪みにより、未来や過去へと弾き飛ばされる禁断の技。

 何が来ても覚悟はしていたつもりだが飛ばされるや否やの事故は流石にシリウスも唖然とする。


「マジか……それであのかわい子ちゃんのおっぱいに事故で突っ込んだってのか?」


『えぇ、まさかあんな場所に降り立ってしまうとは私も想定していませんでしたが』


「マジそれな……てか待て、元いた世界で人間が生きてるって……エクリプスのグランドブレイクを俺達は封じ込めれたのか?」


『フフッ……お察しが良いこと。人類が生存している……即ちあのエクリプスの破滅を無事に我々は封じ込めたという裏付けになります』


 優しさに包まれるカリバーの答えを聞き、シリウスはまたも深いため息を吐いた。

 しかしそれは諦めでも絶望でもなく、希望と安堵を意味するため息で彼の顔は脱力した深い喜びに包まれている。


「良かった……守れたんだな俺達は。この世界と推しだったかわい子ちゃんを」


 身体や呼吸の小さな震えは彼に内在していた重圧をこれでもかと表している。

 最高の結末にシリウスは上機嫌となるが釘を差すようにカリバーは冷静な言葉を吐いた。


『ですが困りましたね。不可抗力とは言えども我々はこの場所で不審者の扱いを受けている。策を打たねば罪人行きですよ』


「あぁそうだった!? いやでも待て、ここが元の世界なら一応世界救ったんだし俺の名を出せば話聞いてくれたりとか!?」


『無駄でしょう、百年前の英雄が現れたと言われてあっさり信じる者は中々いません。そもそも我々のデータが残されているかどうかも』


「うっ……それもそうか」


 パッと思いついた起死回生の策もカリバーの冷静なツッコミで直ぐ様に無意味と化す。


『とにかく苦しかろうとこちらの言い分は伝えなくてはなりませんマスター。特に……貴方の被害を被ったあのレディには』


 と、どうにかこの絶望的状況を打破しようと必死に策を模索する二人だが。


 コツ__コツ__。


 会話を遮断するように高たらな足音が監獄には鮮明に鳴り響いていく。

 何事かと身構えた無防備な彼らの前に現れたのは秀麗な黒髪を靡かす存在。

 噂をすれば何とやら、見下される形で凍てつく視線を向ける少女の姿はシリウスの瞳へと焼き付いた。


「えっ……あの時のかわい子ちゃん?」


『そのようですね……間違いありません』


 その姿を忘れることはないだろう。

 事故とは言え、自分自身が豊満なおっぱいへと飛び込んだことで平手打ちを食らい気絶させられた相手なのだから。

 黒と白のコントラストが秀逸な制服を身に纏う勝ち気な雰囲気の美少女は徐々にシリウスへと接近を始めていく。


「えっと何か御用かな? あの件はごめんなさいとしか」


 反省の弁を垂れるシリウスを無視して周囲を警戒しながら鉄格子の鍵を強引に外す。

 ハーフグローブの嵌められた手で髪を掻き上げながらつま先から脳天までを見下ろす形で睨むように彼を凝視していくのだった。


「あの……死ねとかブタ野郎とかの罵倒でもいいから何かしら言ってもらえると」


 無言の状況に冷や汗が溢れるシリウスへはスッと華奢な右手が挙げられていく。

 瞬時にこれはまた「あの強烈なビンタの流れではないか!?」と血の気が引いた彼は咄嗟に歯を食いしばりながら目を潰る。


「……ん?」


 だが、まだ痛みが滲む頬に再び平手打ちが襲い掛かることはなかった。

 カチャカチャとした金属音によって再び目を開くとそこには複雑な手枷を巧みに解除する乙女の姿が瞳を包み込む。

 腑抜けた顔で呆然と見つめていると遂には手枷が外れ、肉体は完全に自由となった。


「早く立って、ここにいたら間違いなく殺される。いや惨殺される」


「惨殺される!?」


「まだ死にたくないって思うのなら大人しく私についてきて、不思議な不審者さん」


 理解がまだ追いつかないがかなり不味い状況にいる彼らにとって彼女の提案に従うに越したことはない。

 一拍の末にシリウスは意を決すると差し出された手を力強く掴んだ。

 地獄にも似た牢屋を抜け出した二人は幻想的に窓から日が差し込む人気のない豪華絢爛な廊下を渡り歩いていく。

 暫くの末に一度立ち止まった彼女は周囲の警戒を終えると付近の壁へと寄りかかった。


「えっとお嬢さん? 何で君のおっぱいを触っちまった俺みたいな奴を助けて」


「リズよ。私の名はリズ・セフィラム、それより一体どうやったの?」


「どうやったって?」


「この学園一帯には学生以外は介入不能な防御魔法陣が敷かれている。並の人間じゃ触れることすら出来ない。なのに何故貴方はここの……ましてやあのゲーム会場まで入り込めたと言うの」


 当然と言えば当然の疑問。

 だがどう言おうとも馬鹿馬鹿しい内容にしかならないシリウスは苦悩しながら頭を掻く。


「あぁいや……何故って言われても中から偶然そこに入っちゃったというか? 過去からあの場所に飛ばされたというか?」


「はっ?」


「いやふざけてると思うけどそうとしか言いようないんだって!? 信用できないと思うけど俺を信用して「分かった」」


「そうだよな信用してくれな……ん?」


 あっさりと、いやあっさりとし過ぎな返答に思わず自分の耳を疑う。

 心を許してはいないが敵意もない彼女の姿にシリアスは困惑に包まれた。


「えっ信じてくれんの!?」


「否定をする材料もないから今はそういうことにしてあげる。別に私はアンタの味方になる訳じゃないし胸触られたことは怒ってる。けど……一応はアンタのお陰で助かった」


「助かった?」


「アンタの乱入があったからフォルトゥナゲームは無効となって結果的に私は命拾いをさせられた。あのまま続けてたら……きっと負けてたから」


(ゲーム……あの闘技場みたいな場所のやつか?) 


 平手打ちの刺激が強すぎるが記憶を巡らせると模擬戦の場に降り立っていたことをシリウスは思い出す。

 助けたつもりはなかったがかわい子ちゃんを助けられた事にシリウスは内心口角が上がる中、話は続けられていく。


「アンタが何処から来て何者かは知らないけど今ので何となく分かった。あの時は驚いて引っ叩いちゃったけどアンタには私への悪意を感じない。何か事情があるのかしら?」


「事情ってか事情だらけしかないっていうか! 君に恥をかかせたのは本当に申し訳ない、けど仮に胸に埋まりたかっただけならこんな大掛かりでハイリスクな事はしないだろ?」


「まぁ……それもそうか、なら借りの返しとして白黒ハッキリするまではアンタを守る。この場所にいたらまともな審判もなく首を掻っ切られるわ」


 リズから放たれる首を掻っ切る物騒なジェスチャーに思わずシリウスも息を呑む。

 優雅ながらも何処か不気味な雰囲気漂うこの空間で彼女の声は奏でられた。


「ここは神聖レザヴィクス魔法学園。ヴィルド帝国のに誕生したレヴィーランズ新王国の中核を担う学園国家であり……リファインコード適正者のゲームが支配する育成機関よ」

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