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第2話

 翌日。アキは下宿の安いアパートで目を覚ます。

「朝は苦手なんだわ」

 アキは夜に「屋台営業しているため」普段は起きる時間は割と遅い。

 起きて共用の洗面台、冷たい水で顔を洗う。

「都市レーベル」は水道や魔法ガス等のインフラ設備が日本水準並み、場所によっては日本より良い場所もある。都市は砂漠地帯に存在するが、地下に途方もない量の水脈があり、水道で綺麗な水が飲める。

「とりあえず、さっさと出かける支度をするか」

 アキが準備が整えるとノックが聞こえた。

「おーい。起きているか?」

 リリィの言葉に「起きてます」と返事。

 アキがバッグを持って扉を開くとリリィの姿。

 アパートの近くに屋台を置かせてもらっている倉庫がある。

 倉庫には冷蔵庫やら、あるいは屋台の整備用の清掃用具等が収まっている。もっとも冷蔵のシステムは氷の魔法であったりと、動力源や細かい作りは日本とは異なっている。だが、その実用性については似たようなものだ。昼間は「魔法鍵」をかける。

 当然ながら屋台の衛生にも気遣っている。


 アキとリリィは朝の都市部を歩く。

「朝日が眩しい」

「夜中心の生活だとそうなるよね」

 二人はすぐ不気味な存在に出会す。

「出た「マギー」だ」

「マギー」とは都市部の謎の一つだ。

 この頃になって都市レーベルに現れた正体不明の人の影。都市部を徘徊しているが、特に悪さもせず無言でさまよっている。

「一体なんなんだ。あいつらは?」

 リリィはマギーが苦手だという表情。

 幽霊のような存在はこの世界に居るが、それはマギーとは違う。

 お化けや幽霊、いわゆる「GHOST」は、魔力を持つものが見れば「正体」が分かる。ただマギーを見てもその正体が分からない。話も通じなく「そもそも意志を持っていないのでは」と憶測されているが、真相は未だに不明のままだった。

 ただ「黒い人影が街をさまよっている」という状況が残っている。


 都市を歩くと露店商が多く見られる。

 売っているものは様々だが「本」はよく売られている。この世界で「本」というものが商業として普及している都市はレーベルくらいなものだ。都市に印刷工が居て、街中に様々な本屋や本の露天販売もある。

 アキが露天商に話しかけられる。

『お兄さん。どれもこの都市レーベルでしか扱ってない本ばかりだ。希少価値という意味ではこの上ない。記念に何か買っていきなよ』

 アキは〈何度同じ言葉を聞いただろうか〉と思う。

 アキがスルーして立ち去る時に捨て台詞を吐かれる。

『知識欲の薄い浅はかな冒険者め』

「本を読むために都市へ来たわけではないんだけどね」


 アキもこの世界の本は読めたら楽しそうだと思う時もある。

 この世界で、アキの日本語が「通じる理由」をアキは知っている。それでも文字を読むことは無理だった。それは、言語統一魔法と呼ばれる魔法のおかげであることも。


 アキとリリィがたどり着く都市の中心の図書館。

「いつ見ても、古くて立派だよな」

 外壁は赤レンガで出来ていて見上げるように高く、広い。建築美というべき細かい装飾と古き良きゴシックな作りだった。ここには、都市レーベルのまつわる重要書物が収められている。建物の壁に伝う植物の蔦。

「都市の中央図書館」の建設は大昔まで遡る。

 巨大で美しいこの建物の中に重要書物が収められているということくらいしかアキは知らない。普段、アキが来るような場所でない。

 建物の中に入ると、壁一面が全て本棚になっていて、本が収めれている。二階も同じく。建物の中央部が開けていて、知識層であろう人々が、そこで書物を開き調べものをしている。机や椅子というものも洗練されている。

 リリィが図書館内を見て言う。

「ここに居るだけで何か偉い人になったような気分だ」


 受付で「冒険者のアキです」と伝えると「しばらくお待ちください」と言われて、二人は待つ。しばらくすると、警備員と共に半獣人の男が現れる。その顔は獅子のようだ。

「私が市長の「グルナッシュ」です。座って下さい」

 アキとリリィが椅子に座るとすぐに契約書を出された。

「それではこちらにサインを」

 アキはサインを渋った。

 まず、詳しい話を求めることに決めていた。

「今回の仕事は「調査」とだけ聞いています。まず詳しい話を聞こうと思いましてここへ来ました。まだ仕事を受けるかどうかは決めていなくて「仕事の内容と賃金次第」です。それらを聞いてから総合的に判断したいと思います」

 その言葉に市長グルナッシュの表情が少し動いた。

「先日、ようやく今年度の市政の予算会議が終わったところです」

「あ、はい。お仕事お疲れ様です」

「この図書館の管理に当てられる予算も決まりました」

「はあ、そうなんですか?」

「その予算の中に「特別なもの」があるのですよ。それは、我々が話しているこの場所「中央図書館の調査費」という予算です」

「中央図書館の調査費、ですか?」


 言葉の意味が分からずにいたアキとリリィに、市長グルナッシュは「着いてきてください」と言って立ち上がる。受付へ行き「鍵」を受け取ると、一般には解放されていない図書館の裏通路へ。そこから古い木の扉を鍵で開けると、そこに地下へ続く階段が見えた。

「これは、つい先日まで魔法で隠されていた扉です」


 階段を下ってたどり着いた狭い地下室。

 石の床に「入口の扉」が見える。

「そして新しく見つかったダンジョンの入り口です」

 市長は「これが調査を依頼するダンジョンです」と言う。

「どうやら、このダンジョンが「マギー」という正体不明の存在に関係している可能性があるらしいのです。この中央図書館は多く謎がある場所です。もしかすると、この都市レーベルについて書かれた「重要な本」が眠っているかもしれません」

 その後で市長は地図らしき紙を取り出す。

「地下16階までの地図は見つけましたが、全貌が見えてこないため、冒険者へと調査を依頼する運びになりこのようにお話しています」

 アキは複製と思われる16枚の地図を受け取った。

「この仕事を引き受けてもらえるかどうか。報酬の話に移りましょう」


 * * * * *


 夜の暗黒屋台、おでん屋に元気のないアキとリリィ。

「だってさ。賃金が低いんだもの」

「15万ゴールドじゃあ割に合わないよな」

 リリィが期待ハズレという表情で愚痴る。

 結局、市長の持ってきた仕事は合意に至らなかった。

「俺も納得したよランクの高い冒険者たちは、安い賃金で働いてくれない。となると「ランクDの冒険者を安くこき使おう」という思惑だ。それも役所的に「問題行動なしの冒険者の方がいい」という算段さ。この世界で、俺の扱いなんてそんなものよ」

 アキの手元に返しそびれた16枚の地図。それでも「地図を返せ」と言ってこないことを見ると「あのダンジョンも、特に重要視はされていないようだ」とアキも分かった。

「冴えない日。月の夜に飲む酒とおでんの旨さが救いだ」

 リリィはそう言っておでんで酒を飲む。

「アキ。明日「バイト」に来るかい?」

 リリィがそうアキに聞いた。

「あー、行こうかな。異世界に来て生活費に困るなんてな。まあ、どの世界でも生きていくっていうことは、難しいのかもしれんね」

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