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リヴァイアサン
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猫宮よつ葉
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年01月18日
公開日
2.6万字
連載中
本の都市レーベルへ転移してきた主人公「アキ」が、都市の謎に迫る。王道ファンタジー。
主人公「アキ」は異世界に転移後、屋台のおでん屋を営みながら暮らしていた。そこに役所がやってきて「都市の調査」という似つかわしくない依頼が舞い込む。だが、その依頼は、冒険者ギルドに登録だけしている問題行動なしのアキに、低い報酬で仕事を任せようというお役所仕事であることが分かった。
一度は都市の調査の依頼を断ったアキだったが、都市にやってきた学者「シエン」のボディーガードという名の雑用で、都市の調査に関わることになる。おでん屋の常連、リザードのハーフ「リリィ」も加わる。その中で、記憶に残らない女の子「ルナ」と出会い、彼女が「騎士団」に追われていることを知る。そして、運命が交差し、アキは都市レーベルの謎に迫っていく。

第1話

「おでんが作れて本当に良かったよ」

 石畳の階段の見える都市に、日本風の屋台が一店。

 日の丸のはちまきをしている日本人の男の店主だ。


『またアキが同じこと言っているね』

 そう半人間のリザードの若い女性冒険者の客が言う。

 彼女は「リリィ」リザードのハーフ。

 女性にしては背が高く金髪でリザードの尻尾が生えている。比較的ラフな格好が好きなようで如何にも「冒険者」という風貌。布の服の上に軽装の防具、皮のマント。彼女は実際にこの世界の「冒険者ギルド」に属している。

「そりゃあ今俺の食い扶持を稼いでいるものだからね。誰だって突然知らない異世界に飛ばされたのなら、思うことは諸々あるわ」

 日本人の彼「宍戸秋敏」通称「アキ」は、ある日この異世界に飛んできた。アキはしばらくは日本に戻る方法も探したが、その手がかりさえ見つからずに、諦めてこの世界で生きていく覚悟を決めた。

「この世界「自転車」なんて需要がないからさぁ」

 アキはもともとは町の自転車屋だった。

 パソコンで二次元の図面を書いてフレーム切り出して溶接したりと、その町では腕の良い自転車屋さんだった。フレーム溶接に関しては自信があって、海外のビルダーもアキのラグを好んで使っていた。だが、この世界では「魔法や四大の力なんてもの」が普通に存在している。すると「自転車屋」なんてものは大したスキルにはならなかった。平々凡々な一般技師程度の能力で、この世界の技術に知らないことのあるアキは「技術者」としては生きていくことも出来なくなった。

「はぁ「CAD」で図面書きてえ」

 今でもアキはオリジナルの自転車を作りたいと思う時がある。


 この「都市レーベル」には様々な存在が集まっている。

 砂漠の中に巨大なメトロポリス、ここには水も緑も「太古から続く遺跡も」そして工学的なものも溢れている。その都市としてのレベルは水道などのインフラが安定していることから決して低くない。

 人口もざっと見積もって50万人は居る。

 その大都市、都市部の裏に存在する飲食街「暗黒屋台街」でアキはおでん屋を開いている。こっちの世界の材料で「日本のおでんの再現」をしている。食い扶持の足しになればと始めたがこれが思っていた以上に好評を得ていて、アキも何とか食いつないでいる。この屋台を「持っていた技術力」で作れたことが大きい。夜になると、こうして屋台を定位置に構えて常連客メインで商売している。

「誰かこの素晴らしい屋台のフレームのラグに気付いてくれ。というか俺は本当を言うと、今でも自転車屋がやりたいのよ」

「おでん屋に不満? アキのおでん、美味しいよ?」

「そう言ってもらえるのは何よりだけどさ」

 リリィはアキの店のおでんが気に入っている。


 アキもリリィも「冒険者」に登録されている。

 と言っても、酒屋に貼られている「多額の報酬あり」の仕事というものはロクでもないものが多く、彼らみたいな流れものは、金になることは犯罪でなければ雑務でもやる。それがこの世界の冒険者という存在だ。

 幸いなのが「都市レーベル」は安い賃金だが雑務の仕事は割と多くある。それが肉体労働や雑用であっても「まだマシ」だ。危険の多い冒険者の仕事を請け負うよりは、都市の中にある一般の仕事をする方がまだ現実的であるという二人の結論だ。

「はい「模擬ちくわぶ」サービス」

「前から思っていたけれど「模擬」ってことは本物とは違うわけ?」

「まあ、日本の材料ないからね」


「おでん屋」はそこそこ人気で賑わっている。

 屋台に座れるのは5人まで。

 砂漠地帯ということなのでほとんど雨の降らない地域になる。夜に屋台の周りにテーブルを置いておく。屋台に座れなかったお客さんはおでんをそこで食べる。アキのおでん屋は「多い時で10人くらいの客が居る時間帯がある」という規模の個人店だ。

 リリィは常連でアキの仲間、こうして話せる間柄でもある。

「アキ、何か面白いことはあった?」

「なーんにもないわ」

「はぁ、どこかに実りの良い仕事が落ちていないかな」

 愚痴を言いながらこの世界の月を見て、おでんと酒で、夜は更けていく。アキは「違う月を見ているとここは本当に異世界なんだな」と染み染み感じた。


 そうして夜に営業していると客とは思えない男がやって来る。

 政務官のようなきっちりとした服装で「お前がアキという冒険者か?」と問いかけてくる。アキは特に覚えはない。

「へい、いらっしゃい」

「客ではない。お前がアキという冒険者かの問いに答えよ」

「あ、はい。一応ギルドには登録はしています」

 男は一枚の書状を取り出してアキに告げる。

「喜びたまえ、君は「市の仕事」を任されることになった。詳しくは明日に中央図書館で市長から直々に聞くといい」

 そう言って書類を置くとさっさと帰っていく。


「えー? なんで私じゃなくてアキに仕事が回るの?」

 リリィが不満そうに言う。

「俺も、市の仕事をなんで俺宛に持ってきたのか不明なんだけど。あ、もしかすると「問題行動が一件もなし」だったはずだから、それかもな。役所の仕事だから、案外そういう基準で委任先を決めたんじゃないのか? 運転していないからゴールド免許的な。仕事をくれるっていうのはありがたいけれど、俺は冒険者として強いわけでもないから、こういうの躊躇うんだよな」

 当然ながら冒険者の仕事は命に関わるようなことが起こっても「自己責任」という契約書にサインする必要がある。アキは少し及び腰だ。

「まあ、でも話だけでも聞いてくるかな」

「私も行く」

「流石は金のない冒険者リリィ殿。美味しそうな話に乗ってくるね」

「「おでん屋の店主」に解決できない案件だったらどうするつもりかな? 一応は交渉の場に連れて行って損はないと思うよ?」

 リリィはそう言って不敵に笑う。

〈リリィの言うこともそうなんだよな〉

 彼女は「ランクB」の冒険者だ。

「ランクD」のアキより強い。もしも仕事内容がモンスター等の討伐になると、その場にリリィが居るのなら「二人で受けてもいいですか?」と提案することも出来る。実際にギルドのランクBは「戦闘力がある」というお墨付きだ。

「じゃあ、明日の朝、俺のアパートに来て」

「よっしゃ。じゃあ今日はこれで帰るから」

 おでんの代金を置くとリリィは上機嫌で帰路につく。

「今日はそろそろ店仕舞いするか。お客さんもリリィがラストだ。今夜はこれで屋台は撤収。俺も明日に備えてさっさと寝るか」

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