「オムライス、マヨネーズかけの兄ちゃん。お待ちど!」
食堂のおばちゃんが司がオーダーした通りのオムライスを出してくれる。
「あんがと!」
司がおばちゃんからオムライスの置いてあるお盆を受け取って食堂を見渡し、窓際の空いてる席に座る。
入学式はまだ先だが、学園長から"特別に"学生証もらえた。
そのおかげで食堂が使えるのでご飯は食べられる。
「学園長には感謝しかないなぁ」
そんなことを呟きながら司はオムライスを頬張る。
「あの、ここ空いてますか?」
司が半分くらいオムライス食べ終わったあたりで、女生徒から声をかけられる。
「あっ、はい。空いてます」
司は顔を見ずに答える。
オムライスを置いているお盆が邪魔にならないようになるべく自分の方へ寄せる。
「きゃっ!」
司の隣に座ろうとしていた女生徒は足を縺れさせて、体勢を崩す。
「おい!大丈夫かよ」
司はサッと立ち上がり転びそうになった女生徒の体を受け止める。
「はい、心配をお掛けしてすいません。ありがとうございます」
女生徒は体勢を戻し、司に微笑みかけて丁寧な礼をしてから司の隣の席に座る。
自分が食堂に来た時にはそんな人いなかったような気がするけど、いつの間にかそんなに混んでたのかと思い司は周りを見渡す。
だが、思っていた通り、司が食堂にきた時とほとんど変わらない人数しかいなかった。
当たり前だ。
全寮制とは言え、今は春休みである。
休みになれば寮に住んでようがほとんどの生徒が家に戻るだろう。
実家が金持ちなら尚更だ。
わざわざ見ず知らずの男の隣を選んで座らなくてもいいだろう。
そもそもこの学園の食堂は全校生徒が入っても問題ないくらいには広い。
自分の近くにわざわざ陣取る意味がわからなかった。
司は声をかけてきた女生徒をチラリと見る。
銀縁のフレームの細いタイプの丸眼鏡をかけて、長い黒髪を後ろ束ねている。
それだけではない、眼鏡を掛けている今の状態でもかなり整った顔をしており、食べる所作も美しい。
また、着物と袴は華美な装飾が入っていてかなりお金がかかってそうだ。
はぁ、良いとこのお嬢様かよと司は心の中で悪態をつき、食べかけのオムライスを食べ始める。
「あの」
女生徒は箸を置き、食事の皿から司の方へ視線を移し、司に話しかける。
「は、はい!?」
司は口に出てたかと思って、慌てて声が裏返る。
「何を驚いているんですか?」
司の慌てように女生徒は目を丸くしていた。
「い、いや声を掛けられると思ってなかったから」
司はフルに頭を回して咄嗟に嘘で誤魔化す。
「そうですよね」
女生徒は司から視線を持ってきたお盆に移す。
「あはは」
司はチラリと横目で女生徒の方を見ると女生徒は何かを言いたそうに、うずうずとしていた。
やべぇよ。
司は内心かなり焦っていた。
ここは日本皇国でも有数の聖ジャンヌ白百合学園。
国重鎮や軍の偉いさんのご息女がきている学校だ。
今年からはご子息も来るようになるが今は置いておく。
咄嗟に助ける為とは言え、嫁入り前の女子の体に触れたりしたら、責任取れとか怖いお兄さんが出てきて脅されるかも知れない。
よし逃げよう。
司は女生徒から何か言われる前に逃げようと決心し、残っているオムライスを口に掻きこむ。
そそくさとお盆を持って立ち上がり、早々とその場から離れようとする。
「あっ、待ってください!」
女生徒は慌ただしく去ろうとする司に声をかけ引き止める。
「ぐっ、なんでしょうか?」
司はこのまま部屋に帰りたかったが仕方なく女生徒の方へ振り向く。
「貴方、
「えっ・・・?」
外見が変わるタイプの
「
司を見る女生徒の目は確信に満ちていた。
「あはは!何言ってんすか!違いますって!僕が
司は笑いながら足早にその場から立ち去る。
「あぁ、行っちゃった・・・」
女生徒はがっかりと落ち込む。
「もう少し話してから聞いたらよかったのかなぁ。本人は否定してたけど、“視えた”から間違いないはずなんだけど・・・。はぁ、
女生徒は司の姿が見えなくなるまで目で追いかける。
一方、慌てて立ち去った司は自分の部屋に戻ってきていた。
後ろから誰も追ってきていないを確認してから部屋に入る。
扉をバタンと閉めてしっかりと鍵をかける。
「はぁ、はぁ、なんでバレたんだ?いや別にバレたからって何かあるわけじゃないけど・・・。こういう時はとりあえず好きな百合シチュエーションを思い浮かべて、落ち着きを取り戻すしかない」
「外ではしっかりしてる先輩が後輩と二人になった途端、甘えん坊になるシチュエーション!」
司は好きなシチュエーションの妄想を膨らませて、数分悶絶する。
「ふぅ!落ち着いた!だけど、どうするかなぁ。これから食堂に行ったら毎回話しかけられるかもしれないなぁ。いや別に
よくよく考えればあの学園長のことだ、今年は
だから、あの女生徒も適当に言ったんじゃないか?
ありえる。
「なら逃げる必要無いじゃん。はぁオムライス味わって食べればよかった」
掻きこんで食べてしまったので、最後の方味なんて覚えていない。
「はぁ、明日はゆっくりと食べるか。てか財布さえ返ってきたら、無理に食堂で食べる必要もないんだけどなぁ。汽車で爆睡かました自分が悪いから、どうしようもないけど」
明日はキョウト観光でもするかと決めて、今日は部屋で超能力の訓練をすることにする。