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『デッド・ワイズ・サーキット』9

[翌日]




 強い日差しが照りつけ、レース券を持って砂漠に建てられた会場の客たちはざわめいている。

 そこには、出場者たちの機体が一列に並んでいた。観客がざわめいている理由は、そこにシャリダンの姿が無いからだった。

 戸惑いながらもハイテンションで、男性アナウンサーが各機体の紹介を始める。


「で、では出場選手の紹介を行いまぁーす! 

 エントリーナンバー一番! レブス選手!」


 ジェットエンジンが取り付けられたホバーバイクに跨る髭面のレブスは名前を呼ばれると、観客に景気よく手を振る。


「エントリーナンバー二番! サリブル選手!」


 リュカはリビオン機内で、古びたウォークマンにイヤホンを挿して、音漏れする程の音量で音楽を聴いている。


「エントリーナンバー三番! フォルマ選手!」

『Mötley Crüe Kickstart My Heart』


 ウォークマンの割れた画面に歌詞が流れる。

 そして、リュカは自分の緊張を落ち着かせるように、小刻みにヘッドバッキングをしていた。

 次々と選手紹介をするアナウンサーの声が響き渡る中、静かにリュカのリビオンを深く帽子を被り、アロハシャツを着てサングラス姿に変装したシュライがじっと見つめる。


 リュウジの妹。一体どんなテクニックを使うんだ……。


 リュカが乗るリビオンはかなりの旧型で、他の選手の乗る機体とは明らかに性能差があった。


 ライムたちは外にテントで設営された司令基地でリュカを静かに見守る。

 すると、ライムが無線に電源を入れる。


「リュカ、そろそろだ」

『了解!』


 リュカの返事を聞き、ライムは微笑む。


「派手にぶちかまして来い! ここに戻ってくる時は、お前がチャンピオンだ!」

『おう!』


 アナウンサーの並んでいる選手の紹介が終わり、観客たちの罵声が徐々に目立ち始める。


「おい! シャリダンが来て無ぇじゃんか!」

「こっちは金賭けてんだぞ!」

「シャリダンのヤツ! 一体何処にいるんだ!」


 運営は荒ぶる観客たちに戸惑い、あたふたしている。

 そんな中、ライムがシャリダン陣営の方を見ると、司令基地は不気味な程に落ち着いていた。


「アイツら一体、何を企んでやがる?」


 その時だった。

——バァァァン!

 一発の花火が場外から上がり、観客が上空に注目する。

 そこには、菱形の胴体で、リュカのリビオンより一回り大きい機体……。

 黄金に塗装された最新鋭リビオンが太陽光に照らされて、神々しく佇んでいた。


「あれは、RE-33かよ……」


 ライムたちは目を疑う。

 このRE-33は今年開発された機体で、一機だけ地球防衛軍から盗まれたとニュースになっていたのだ。

 シュライは黄金のリビオンを軽蔑した目で見つめる。


「全く、クソみたいな趣味してるな」


 そして、ポケットから携帯型のデバイスを取り出すと写真を撮り、メールを打ち始める。


『探していたリビオンは悪趣味な姿で見つかりました……』


 シュライは写真を添えて司令官に送信する。

 シャリダンは機内で葉巻を吸いながらリュカのリビオンをニヤニヤと見つめる。


「その、ちっぽけなマシンで精々抗うがいい!」


 操縦桿を操作し、シャリダンはスタート位置へ着地する。


「エントリーナンバー十一番! この大会の前チャンピオンで優勝候補、シャリダァァァン!」

「「「「「「ワァァァァァッ!」」」」」」


 アナウンサーの紹介に観客たちは他の選手とは明らかに大きな歓声を上げて盛り上がる。


『リュカ、きっとスタートと同時にヤツは何か仕掛けてくる。気をつけろ』


 デイヴの声が無線機から聞こえ、リュカはコントロールパネルの緑色のボタンを見つめる。


「了解。スタートと同時に発動させる」


 会場内の巨大なモニターには数字が表示され、カウントダウンが始まる。


「レース開始五秒前、四……」


 リュカは左手で操縦桿を握ると、右手は緑色のボタンに添えて前を見つめる。


「「「「「「三、二、一……」」」」」」

「スタァァァァトォォォッ!」


 アナウンサーの雄叫びと共にリュカは緑色のボタンを押す。

 黄金のリビオンの胴体が開き、そこから電磁パルス爆弾が四方八方に発射される。

——ウォォォォアン!

 電子音と共に、次々と選手たちの機体が火花を散らしながらショートして動かなくなる。


「畜生が!」

「こんなのアリかよ!」


 シャリダンはニヤリと笑みを浮かべる。


 このレースに卑怯もクソも無ぇ! 勝ったヤツが讃えられる!

 それがデッド・ワイズ・サーキットだ!


 リュカとホバーバイクに乗るレブス。反重力で宙を浮く装甲車に乗るバリムと巨大なドローンの様な機体を運転するパイルはレーザーバリアを張り、電磁パルス攻撃を防ぐ。そして、攻撃に耐えた選手たちは一斉に発進する。


「なんと! 一気に六名の選手が脱落してしまった! これもデッド・ワイズ・サーキットの醍醐味! 何でもアリのレースに、一体誰が今回勝ち抜くのか!

 残っている選手は、エントリーナンバー一番のレブス選手! 三番のバリム選手! 六番のパイル選手! 九番のリュカ選手! そして、十一番シャリダン選手となっています!」


 同時にスタートしたリュカたちだか、シャリダンが乗るリビオンは、最新鋭のスペックを見せつけるかのようにスタートダッシュの時点で他の機体に大きな差をつける。

 レブスはホバーバイクのハンドルを操作すると、機体の両サイドが変形し、レーザーガトリング砲が現れる。


「よくも初っ端からやりやがったな! 死ねぇ、クソ野郎!」


 バリムもハンドルに付けられたコントロールパネルを操作し、装甲車の天井に付けられた機関銃を操作する。


「お前は先に消す!」


——ドドドドドドドッ!

——バババババババッ!

 ガトリング砲と機関銃の重く鈍い高速の発射音が鳴り響く。


「雑魚が……その程度の攻撃、この最新リビオンには何の意味も無いわ!」


 シャリダンがコントロールパネルを操作すると、リビオンの背中が変形し、紫色の甲羅のようなシールドが現れる。

 そして、ガトリング砲と機関銃の攻撃はシールドに当たるが、かすり傷すら付かない。


「何だ、あれは!」


 レブスが驚きを隠せずに硬直している。


「じゃあ、これならどうだ!」


……何か来る!


 リュカは危険を察知して操縦桿を引き、上空へ飛ぶ。

 それに着いていくように、パイルも上空へ登った。


「ショータイムだぜ!」


 シャリダンのホログラムで表示された画面には、背後に居る全ての機体をロックオンしていた。


「吹っ飛べぇ!」


 目を見開いて、満面の笑みでシャリダンは操縦桿の発射ボタンを押す。

 すると、黄金のリビオンの肩パーツが開き、そこから無数のミサイルが顔を出す。

——シュアァァァァァァッ!

 ミサイルは一斉に飛び出し、各々を追いかけるように飛んでいく。


「うわぁぁぁぁあ!」

「こんなところで……」


——ドガァァァァアン!


 二人の機体は激しい爆風で粉々に吹き飛ぶ。

 そして、爆発の衝撃で砂漠に大きな流砂が出来る。

 追尾して迫り来るミサイルたちに対して、リュカは旋回しながら飛ぶ。


「フレア発射!」


 リュカのリビオン後部から発射されたフレアは左右に分かれるように飛んでいき、ミサイルが逸れると次々に誤爆していく。

 パイルはドローンの独特で不規則な動きをしながらフレアで誤爆させる。


「やはり、デイヴの弟子は簡単には潰せないか……まぁ、それもいつまで続くかな?」


 シャリダンは不適な笑みを浮かべると、操縦桿を操作する。

 そして、黄金のリビオンは振り向くと、両腕に付けられたレーザーガンを向ける。


「食らいなぁ!」


——ガガガガガガガガァァ!

 赤紫のレーザーがリュカのリビオンへ一斉に発射される。

 リュカは左右に回転しながらスレスレで避けていく。

 そして、避けながらリュカはある事に気付く。


 何故、アイツは俺しか狙わないんだ?


 リュカは窓からパイルを見ると、こちらに向かって機体の先端に付けられたマシンガンを向けている。

 さっき、ミサイルを回避した時の動きを思い出すと、予めに攻撃内容を知っていたからこそ出来る動きだった。


「アイツら! 組んでやがるな!」



 リュカの声でライムたちは焦る。


「チーミングか!」

「じゃあ、運営に言わないと!」


 運営の方を見るバッカスにデイヴは悔しそうに俯く。


「だが、証拠が無い……さっき、ミサイルはパイルにも撃たれていた。チーミングと証明するには難しいだろう」


 ライムはじっと画面を見つめる。


 無事に乗り切ってくれよ……。



——ガガガガガガガガァァ!

——ドドドドドドドォォ!

 リュカは同時にシャリダンとパイルから放たれる猛攻を辛うじて避けていた。


「チッ……どっちかを早く倒さないと」


 操縦桿を巧みに操作し、リュカのリビオンは宙返りをして地面スレスレになるまで下降する。


「スモーク弾発射!」


 リュカが発射ボタンを押す。

 すると、地面に向かってリビオンの腹部から円柱型の物体が三発発射される。そして、着弾と同時に辺りは黒くて濃い煙に包まれる。

 シャリダンは画面を食い入る様に確認する。


「クソ! あの煙、温度感知に対応してやがる!」


 リュカが発生させた煙は特殊な煙で、索敵に使うレーダー等の感知を出来なくするものだった。


「どこに行きやがった?」


 シャリダンは備え付けられたトランシーバーを取ると、コントロールパネルを操作してパイルに連絡を取る。


「アイツは煙の中に居る! お前も俺と一緒に撃て!」

『二人ともレースせずに一緒になってこれ以上続けると明らかに不自然だ!

 チーミングがバレるぞ! 目的はレースの優勝だ! 殺しじゃ無い』


 パイルの声を聞き、シャリダンは躊躇する。

 そして、攻撃を止めて二人はゴールに向かって飛行を始める。


『手筈通り、アンタが優勝して俺が金を受け取る。 約束は守ってもらうぞ』

「分かっている」


 リュカは煙の中で二人が飛行を始めるのを待っていた。


「二人の位置は大体どこら辺だ?」

『十秒後、北西、四十五度って所だ……』


 冷静なライムの声を聞くと、リュカは操縦桿の発射ボタンを押さえる。

 そして、心の中でカウントダウンを始め、コントロールパネルを操作すると、リビオンの腹部から二本の正四角柱が出てくると、間から蒼い雷が現れる。


 五秒前、四、三、二、一……。


「食らえ! 雷撃サンダー・拡散波スプラッシュ!」


——バシュュュウゥゥゥン!

 轟音と共に雷は拡散しながら、シャリダンとパイルの方へ放たれる。



To be continued…

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