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『デッド・ワイズ・サーキット』4

 デイヴたちは部屋に入ると布団を畳み、壁に寄せる。すると、黒ずんでいる腐った床が現れる。

 バッカスは隠すように部屋の隅に置かれたバールを持って来ると床をずらし始める。

——ギコッ……。

 板を退けると深い穴が出て来きて、リュカは興味深そうに覗く。


「これは!」


 そこには、ホバーボードを改造して子供が三人乗れるように作られたそりが二台あった。橇の後方にはモーターエンジンが付けられている。


「どうだ! ホバースレイだぜ!」


 バッカスは驚くリュカに対して自慢げに笑みを溢す。リュカはホバースレイを凝視すると、あることに気が付く。


「これ、インジェクションが未完成だよ。高圧ポンプが付いてないもん」


 バッカスとテリーはリュカが放った一言に目を見開く。


「見ただけなのに気付いたのか?」


 すると、後方からデイヴがリュカに歩み寄り、肩に手を回す。


「流石、A+判定は伊達じゃなさそうだな!」


 バッカスは頭に付けたゴーグルを目に付けると穴に降りる。


「そう。高圧ポンプは明日、工場に届くから勤務時に調達する」


 リュカはホバースレイの近くに置かれた埃まみれの肩掛けバッグを指さす。


「アレは?」


 バッカスはバッグを持つとデイヴに向かって放り投げる。

 その途端、デイヴ、テリー、マイカは血の気が引いた表情になる。


「おい、馬鹿が!」


 デイヴはリュカを払い除けると、バッグを慎重にキャッチする。

 安心したように三人はため息を吐くと、慎重にバッグを地面に降ろす。


「バッカス! テメェ何考えてやがる!」


 リュカはバッグを興味深そうに見ると、チャックを開ける。


「!?」


 バッグの中身を見てリュカは言葉を失った。

 中には、ぎっしりとダイナマイトが敷き詰められている。


「だいじょーぶ。火を付けなかったら爆発しないから」


 一同はあっけらかんとしたバッカスを睨む。


「何で、こんな物持ってんの!」


 怒るリュカにバッカスは上機嫌に答える。


「工場を守るセキュリティの武器庫からコッソリ拝借したのさ!」


 リュカはダイナマイトを凝視する。


「一体、何に使うの?」

「それは、ライムが帰ってきてからのお楽しみさ!」


 すると、リュカの表情が曇る。


「ライムは大丈夫かな……」


——ピンポンパンポン。

 建物全体に響くようなチャイムが鳴り、スピーカーからパロメの声が響き渡る。


『テリィー! マイカァ! 至急、懲罰室前へ来いぃ!』


 デイヴは不穏な空気を察し、スピーカーを見つめる。


「一体、何があったんだ……」


 放送が終わると、テリーとマイカは震えて俯く。


「懲罰室前だと! 一体、俺らが何をしたってんだ!」


 マイカは恐怖心から涙目になっている。


「で、でもライムの状況は確認できる……」


 霞むような声のマイカはテリーを見る。


「迎えに行こう!」


 テリーはマイカに対して頷く。

 そんな二人をリュカたちは只々見つめることしか出来なかった。



 マイカとテリーは懲罰室に続く薄暗い廊下を歩く。


「ライムが無事だと良いけど……」

「おい! アイツの強さは俺らが身に染みて知っている筈だろ! 大丈夫に決まってる!」

「そ、そうだよね……」


 二人は歩みをピタリと止め、目の前の光景に絶句する。


「来たなぁ……」


 そこには、不気味な笑みを浮かべて佇むパロメと、ピクリとも動かずにその場で倒れ込むライムの姿がある。額からは出血していて、眼は白目をむいていた。


「ひどい……」


 マイカはショックから口を手で覆う。


「お前たち! コイツを早く運び出せ!」 


 テリーは震えながらも口を開く。


「し、死んでいるのか……」


 すると、パロメはゴミのようにライムを見る。


「いや、まだ息はある。だが、一刻も早く応急処置をしないとなぁ」


 テリーとマイカはライムに駆け寄ると傷口を確認する。


 そこまで傷は深くなさそうね……。


 マイカはひとまず安心すると、息を深く吐く。

 テリーは震えながら、パロメに尋ねる。


「彼女は一体、何をしたのですか?」


 テリーの問いに対してパロメは舌打ちをして、動かないライムを睨みつける。


「そのガキは、俺様に口答えしやがった! 身寄りのないゴミの分際で!」


 そんなことで……。


 テリーは悔しさから拳を握りしめる。


「明日までにそいつを動けるようにしておけ!」


 そう言うと、悠々と出口を出ていくパロメを鬼の様な形相でテリーは睨みつける。 


 アイツ! 人を何だと思ってやがる!


「テリー! 早く救急箱を!」

「あ、ああ……」


 マイカの声で我に返ったテリーは救急箱を取りに走った。



 リュカは心配そうに部屋の引き戸を見つめる。


「おそいね……みんな」


 デイヴとバッカスは黙々と穴から取り出したホバースレイの整備を行う。


「リュカ、そこにあるペンチを取ってくれ」


 バッカスの視線の先には工具箱があり、リュカはペンチを取ると持っていく。


「ありがとう」


 不安なリュカの顔を見るとデイヴが微笑む。


「心配すんなって! アイツらは大丈夫。信じよう」

「うん」


——ピンポンパンポン。


 再びチャイムが鳴り響き、スピーカーに注目するリュカたち。


『あぁ……本日、ライムは怪我をしたため、午後の勤務は休みとする! 

 しかし、明日からは復帰させる! 以上だ! お前ら午後もしっかり働くように!』


 怒鳴るようなパロメの声が鳴り響く。

——ブツッ……。

 放送が終わり、デイヴとバッカスは顔を見合わす。


「ライムが怪我したって……」

「で、でもマイカとテリーの名前は出なかったぞ……」


 リュカはホバースレイを見つめる。


「怪我は大丈夫なのかな……」


 リュカの一言でデイヴとバッカスは作業を止め、部屋を飛び出る。

 リュカも二人に続くように部屋を出る。

 すると、廊下で嬉しそうにデイヴとバッカスが手を振っている。リュカは二人の隙間から覗き込むと、テリーとマイカに肩を担がれたライムの姿がある。

 ライムの頭には包帯が巻かれ、血が滲んでいる。うっすら目を開いているライムは三人に向かってゆっくりと手を振る。


「ライム!」


 三人はライムたちに駆け寄るとテリーとマイカの補助をして、部屋まで連れていく。そして、デイヴが畳んであった敷布団を部屋の端に敷くとテリーたちは布団にライムを寝かす。


「おい一体、何があったんだよ?」


 すると、テリーが怒りを隠せない表情でボソッと呟く。


「ただの八つ当たりだよ……」

「許せねぇ……」


 デイヴたちは話を聞き、怒りで顔が歪む。


「ホバースレイは?」


 心配そうにライムはバッカスを見る。


「大丈夫! 整備は順調だ! 明日、パーツがそろえば問題ない」


 そう聞くと、安心したようにライムの表情は和む。


「それより、計画実行は明日の夜中だ……その怪我で動けるのか?」


 ライムはニコッと笑う。 


「無理にでもどうにかするさ。明日を過ぎたらもう、俺らに時間は無い・・・・・・・・……」


 すると、ライムはリュカを見る。


「明日、俺は運転出来ないかもしれない。その時はリュカ、お前に頼んだ」


 リュカは答えるようにライムの手を握る。


「分かった。だから、ライムは安静にして」

「ありがとう。あと、休憩は何分だ?」


 デイヴは部屋に掛けられた時計を確認する。


「あと十五分ってところだな……」

「じゃあ、残り時間で明日の作戦会議をする」


 すると、ライムは頭を押さえながら座ろうとする。


「おいおい! 大丈夫か?寝ていた方が良い!」


 心配するテリーにライムは首を振る。


「俺を囲むように皆んな座ってくれ」


 号令を聞き、リュカたちはライムを中心に半円を描くように座る。


「お前らは今日の夜、寮から戻って来られないから、リュカのためにもざっくりと作戦を確認する」


 リュカはライムの言葉を一期一句聞き逃さないために集中する。


「まず、明日工場に着いたら、職員に気付かれないよう発電機に電磁パルス、スクラップ置き場にプラスチック爆弾を設置する」


 すると、バッグの前ポケットから長方形の機器とアンテナが付いた白いテープでぐるぐる巻きの四角い物体をバッカスが取り出す。


「任せて! 貼り付ける場所は今日の視察で完璧だよ」


 ライムはバッカスに頷くと話を続ける。


「次に、部品を回収したら昼休みに組み立てを行い、運転方法をリュカにデイヴが教えてやってくれ」

「了解」

「ここまで無事に完了すれば、あとは実行するだけだ。

 十一時に電磁パルスで停電を起こす。それで、警備アラームが作動しなくなったら、復旧される前にダイナマイトで施設の中央制御ルームと玄関を塞ぐ鉄格子を爆破する。

 そうすれば他の奴らが脱出しようと部屋を飛び出るだろう」

「俺とバッカスがホバースレイに乗って制御ルームへ向かい、爆破を行う。テリーとマイカは鉄格子の爆破とアイツらを逃がして撹乱かくらんを頼む」

「任せて!」


 マイカが返事をするとデイヴは頷く。


「状況を見て俺が工場のスクラップ置き場に仕掛けた爆弾を起動させる。それで、ここの存在意義は無くなる。

 そしたら、リュカと俺は正門に行き、ダイナマイトで爆破を行う。恐らく、工場の爆破でセキュリティたちは対応できっと手一杯になる筈だ。あとは、俺とリュカでパロメたちが邪魔出来ないようにしないと……」

「え、私が?」


 リュカは不安になり、聞き返す。


「ああ。アイツらに捕まらないように運転を頼む」

「う、うん」


 心配そうに返事をするリュカを茶化すようにデイヴが笑う。


「A+判定なんだろ?大丈夫さ」


 リュカはむすっとした表情をデイヴに向ける。


「さっきから判定のこと言って来るけど何?」

「いやいや、すげーなって思ってよ。俺なんかB判定だぜ?」

「え?」

「だから、明日は頼んだぞ! 未来のパイロット」


 デイヴは笑顔でリュカを見つめる。辺りを見ると他の皆もリュカを見て微笑む。

 リュカは作戦を聞き、責任感にリュカは押し潰されそうになり、俯いてしまう。


 どうして今日会ったばかりの私をそんなに信用できるの?


 心配したライムはリュカの肩に触れる。

 そして、リュカが抱いた疑問はすぐにライムの言葉で払拭される。


「リュカ。もう、お前は俺の仲間だが今日知り合ったばかりでこんな事を頼む方がおかしい。

 もし、この作戦を降りたいなら降りても良い。ここに居る誰も責めはしない。

 でも、俺はこの施設を出た後もお前と一緒につるんでいたい」


 リュカは涙目になって顔を上げる。


「私も皆んなと一緒に居たい!」


 ライムはリュカを優しく抱きしめる。


「ありがとな……」


 リュカはライムの温もりを感じると泣き出してしまう。


「よしよし」


——ピンポンパンポン。

 チャイムが鳴り、ライムは凛とした表示を浮かべる。


「作戦会議は以上! 明日は皆んなでこんな場所から出よう」

「「「「「「オォォォォォォ!」」」」」」


 元気良くライムに向かって皆は返事をすると立ち上がると、協力して速やかにホバースレイとバッグを慎重に入れると、床を元に戻す。


「じゃあ行って来る。リュカ、ライムの事は頼んだぞ」


 リュカがデイヴたちに頷くと、一同は部屋を後にする。



To Be Continued...

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