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『ギウマニールの豚骨ラーメン』4

 リプイが店主に軽く会釈をして挨拶する。


「大きな鍋と麺料理を入れるどんぶりを探しているんですけど……」


 リプイが全部言う前に店主は素早く移動し、鍋がずらりと並んだコーナーのイチオシ商品を紹介し始める。


「ここにある三つの鍋は魔術鍋シークサミンでございます!」


 店主が指す先には金、銀、古そうな茶色の鍋がある。


「先程、麺料理とおうかがいしましたが、魔術鍋は蓋を閉めてくだされば一瞬で水を沸騰させられます!

 特に最新の魔術鍋である、この金の鍋と銀の鍋は蓋をして具材を入れると、たった三十分で八時間煮込んだのと同じ状態になりますよ!」


 説明を聞いて疑問に思った龍拓はすかさず質問する。


「そんな煮込む性能が高いと、スープの味を調節しにくくないか?

 ちょっとの時間で煮立たせ過ぎて、味が濃くなりすぎたりすると思うんだが……」


 リプイの時同様、店主は最後まで聞くことなく龍拓の疑問に答えていく。


「お客様、その心配はございません!

 何故なら……」


 すると、店主は金の鍋の蓋を持ち上げて三人に見せた。

 蓋を見ると、取っ手の近くに小さなスピーカーと目盛りが付いたダイヤルがある。


「何だ?

 この目盛り……」


 シュリルの一言を待っていたかのように店主は笑みを浮かべると、再び流暢りゅうちょうに話し出す。


「右のダイヤルは時間になっています!

 そして、左のダイヤルは水量で、中にある目盛りのどこまでの水位で止めたいのかで設定していただければ、その水位になったときにアラームが鳴る仕組みになっています!」


 鍋の中にも目盛りがあり、上から数えて一から六まである。


「先ほどの例ですと右の目盛りを30に設定し、左の目盛りを6に設定した時の場合です。

 料理によって調整していただければ、長い調理時時間があっという間で済みますよ!」


 店主の熱がこもった説明にシュリルは感心して金の鍋をキラキラした表情で見つめる。


「コイツはつまり凄い鍋なんだな!

 リプイ、これにしよう!」


 シュリルの声にリプイは金の鍋の値札を確認して絶句する。


「120000ケッセフ……」

「店主よ、この鍋を買う」

「まいどあり!」

「ちょっとまった!」


 店内にリプイの声が響き渡り、一同が注目する。

 店主はリプイの顔を注意深く見つめた。


「ちゃんと値札見た?

 120000ケッセフなんてどうやって払うのよ!」

「そうなのか?

 んー。でも、龍拓には最高のラーメン作ってもらいたいしなぁ……」


 すると、龍拓は古そうな茶色の鍋の前に移動して値札を確認する。


「これ60000って書いてあるけど、その金と銀の鍋と機能は何が違うんですか?」


 店主は龍拓の疑問に対して頭をポリポリときながら答える。


「それは、全体的に旧型なので機能が大きく劣りますね。

 先程、紹介した金と銀の魔術鍋は最大出力だと三十分で八時間煮込んだのと同じ状態に出来ますが、こちらだと一時間で五時間が最大になります。

 それに、先ほどは説明に出していませんでしたが、金と銀の鍋には保温機能が備わっておりますが、こちらにはそれがございません」

「なんだ、そんな違いしか無いのか。

 問題無いな」


 シュリルと店主がポカンとしている中、龍拓はリプイの方を見る。


「予算はいくらくらいなんだ?」

「そうね……。

 他の買い物があるから50000ケッセフに抑えたいわね」


 そう言うとリプイは店主の方をジロっと見る。


「いきなり10000ケッセフの値下げですか!

 それはちょっと……」

「良いじゃない!

 だって売れずに残っているんでしょ、この鍋」


 店主は俯き、腕を組んで考え込むと顔を上げる。


「わ、分かりました……。

 今回のお題は50000ケッセフで結構です」

「やったね!」


 リプイは鍋代が安く済んだことで満面の笑みを浮かべた。


「あとは、ラーメン用のどんぶりだな」


 店主は龍拓の声を聞き、素早く三人を食器があるコーナーまで案内する。


「ここには、色々な職人から仕入れた食器が揃っております!

 是非、勇者様御一行には一流の……」

「いや、安いので大丈夫」


 リプイが言い終わる前に返すと店主は眉を下げて明らかにテンションを落とした。


「じゃあ、こっちです……」


 そう言うと、食器コーナーの中でも乱雑に陳列された棚を指さす。


「ここの食器は全部300ケッセフです」

「本当! 安くて良いじゃない!」


 黙々と食器を探す三人を店主はさげすんだ目で眺める。


 コイツら、こんなんで本当に国王が認めた勇者なのかよ。


 すると、それぞれがお気に入りのシュリルが赤、リプイが緑、龍拓が黒のどんぶりを見つけて店主に渡す。


「では、合計50900ケッセフになります」


 リプイが財布から硬貨を出して会計をすると、商品をアイテムボックスにしまって三人は満足そうに店を後にする。


「ありがとうございました」


 すると、店主は無線の様なデバイスを取り出して操作する。


「シファ様。

 奴らは旧型の魔術鍋と麺料理用のどんぶりを買って行きました。

 あのシュリルという勇者は金もあまり持ってないようで、値切らないと買い物が出来ない程に財布の余裕が無かった……。

 とても我が国家の・・・・・勇者・・代表・・になる器には思えません!」


 店主が話しかけるとシファの笑う声がデバイスから聞こえてくる。


「フフフ……。

 わかったわ。じゃあ一旦、後回しでも良さそうね。

 ご苦労様♡」


 店主はシファに褒められた喜びからニタニタと笑みを浮かべる。


「シファ様の頼みとあれば何でもやりますよ!」



 アミルたち三人は町の外れにある荒野に居た。

 シファはデバイスをしまうとアミルに笑みを向ける。


「アミルが目の敵にしているシュリル君はお金も無いみたいだし、あんまり実力は無さそうよ」

「誰があんな原人を目の敵にするか。

 ただ、国の代表になれる勇者は一人だけ。近いうちに行われる大会・・のためにも不安要素は取り除きたいのだ」

「ふーん。

 けど、この国にアミルより強い勇者なんているの?」

「オレモソウオモウ」

「それもそうだな。

 今、俺と対等に渡り合えるのは東の国メディナミズのゼマスくらいだろう」

「じゃあさ。

 村長から依頼されたギウマニール討伐クエストは後回しにして、ゼマス用にワイバーンを倒しに行かない?

 どうせ、誰もギウマニールのクエストなんか受けないでしょ」

「オレタチノジツリョクナラ、ユウガタニハココヘモドッテコレル」

「わかった。ではワイバーンを狩りにいくぞ。

 今のうちにヤツの魔術を攻略しておきたい」


 そう言うと再び移動魔法を使い、三人は何処かへ去って行った。



To Be Continued…

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