シュリルたちはアゴーラの市場に戻ると、買い物を始める。
「じゃあ、まずは龍拓に必要な物から買おうか」
リプイの提案にシュリルは笑みで答える。
「そうだな!
龍拓には旨いラーメンを作ってもらわないと困るからな!」
龍拓は二人に向かって深くお辞儀をした。
「二人共、ありがとう」
「そんな、かしこまらなくて良いのよ。
だって、もうパーティーのメンバーでしょ」
リプイの言葉に思わず龍拓は笑みを溢す。
「そうだな」
龍拓たちは市場の調理器具や食器が並ぶ店のある通りまで移動していた。
「何から買う?」
「まずはスープ用の大きな鍋が欲しいな。
次にラーメン用どんぶりを買う。
その後は麺の材料を買いたい」
「麺はシシュールじゃダメなのか?」
「ああ。
アレも旨いがラーメンには色々な種類があって、それぞれのスープによって麺も変えるんだ。
ラーメンの麺は、極細麺・細麺・中細麺・中太麺・太麺・極太麺の大きく六種類に分けられる。
極細麺や細麺は、ツルっとした喉越しや歯切れの良さが特徴でスープと良く絡むから、あっさりとしたラーメンにぴったり合うんだ。
太麺や極太麺は、コシのあるモチモチとした食感が特徴で濃厚なスープや、コッテリ系のスープと良く合う。
この世界で作るラーメンは味が未知数だからこそ、自分で色んな種類の麺を作りたいんだ」
話を聞くとリプイはキラキラした目でリプイは龍拓を見つめる。
「じゃあ、もうシシュールは食べないのね!」
「あ、ああ……」
「やったぁぁぁ!」
両腕を突き上げて喜ぶリプイに対してシュリルは不思議そうに首を傾げる。
「どうして喜んでいるんだ?
あんなに美味しそうに食べていたじゃないか」
「味は美味しくても、その……。
倫理的に問題があるのよ!」
「んー。旨ければ良くないか?」
「良くないわよ!」
「リプイの好みは難しいな」
「アンタが普通じゃないのよ」
リプイはふと思い出したように龍拓の顔を見る。
「そのラーメンの麺はどうやって作るの?
異世界の麺だから、もしかしたら材料が無いかもよ」
龍拓はハッとした表情を浮かべる。
「確かに!
今から材料を言うから、手に入るか教えてくれないか?」
「ええ。いいわよ」
「まずは強力粉と薄力粉が無いと麺が作れない」
リプイは龍拓の説明に困惑する。
「そっちの言葉だと、やっぱり材料が分からないわね……。
此処だとケッマハザークとケッマフーガっていう粉を混ぜて麺を作るから、あとで市場に行ったら確認しよう」
「分かった。じゃあ、とりあえずこの世界でも麺を作る材料はあるんだな」
龍拓は安心したように胸を
「次は塩と鶏の卵だな……。
塩はアイテムボックスで確認したから、この世界に鶏っているのか?」
「鶏?
それはどんなの?」
「えっと、鳥なんだけど赤いトサカが生えていて……」
「もしかしてアレ?」
リプイが龍拓の背後にある農園を指さす。
『コケコッコーッ!』
この声は!
龍拓はすかさず振り向くと、そこには養鶏場があった。
「この世界ではアレをボーフって言うの。
卵は市場で売っているわ」
「ボーフか。覚えておく。
あとは……」
すると、龍拓の表情が少し曇る。
「どうしたの?」
「この世界に
麺に歯ごたえやコシを出すために入れるものなんだが……」
「えっと……。
あ! 私の実家ではよく麺料理作っていたけど、アブッカッツォっていうのを入れていたわ。
確か、さっき言ったような理由だった思う」
「そうか! 良かった!
これで麺は作れるぞ!」
シュリルは不思議そうに龍拓を見つめる。
「龍拓が言ってた麺に入れるヤツはどうやってその触感を作っているんだ?」
「説明すると重曹を入れて麺をゆでることで水がアルカリ性になるんだ。
このアルカリ性の水が麺に含まれる小麦粉のグルテンに作用して麺にコシが生まれ、もちもちとした食感になる。
かんすいは炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸を含む食品添加物。
重曹は炭酸水素ナトリウムから出来ているから、かんすいを使って茹でたような食感になるんだ」
淡々と説明する龍拓を眺めながらシュリルは口を開けてポカンとしていた。
「炭酸水素……」
『プシュゥゥゥ……』
シュリルに龍拓の説明を理解出来る脳内スペックなどあるワケが無く、容量オーバーで頭のてっぺんから煙が出る。
そんなシュリルにリプイが気付くと、背中を軽く右手で叩く。
「アンタは難しいことを考えないで良いの!」
「はっ!」
リプイのツッコミで正気を取り戻したシュリルは汗だくで過呼吸になる。
「危ないところだった。
リプイが居なかったら俺はどうなっていたんだ……」
そんなシュリルに龍拓が困惑していると、リプイがシュリルに向かってため息を吐く。
「どんだけ単細胞なのよ……」
「まぁ、俺は大概のものなら食えるからよくわかんなくても大丈夫だな!」
シュリルは二人に向かってニッコリ笑顔を浮かべる。
そう喋っている間に調理器具が店前に並んだ煉瓦造りの店舗『レイニーズ・バッハ』に着いていた。
店内に入ると、モブ顔でこれといった特徴の無い店主のおじさんが三人を見て少し不気味な笑みを浮かべる。
「いらっしゃいませ」
To Be Continued…