第二章『ギウマニールの豚骨ラーメン』
森を抜けて、龍拓とシュリルとリプイは無事に町へ戻って来た。
目の前には人々の活気が溢れた市場があり、ありとあらゆる店が並んでいる。
龍拓は町の雰囲気に心が躍る。
此処ならきっと良い収穫がありそうだ!
リプイは町の事を知らない龍拓に自慢げに説明を始める。
「ここはアゴーラ。
私の故郷で、この辺では一番大きな市場があるの。
今日は月曜日だから新鮮な食材が揃っている筈(はず)よ」
「新鮮な食材……。
一体どんな物があるか気になるな」
「市場を見るのは後で。
その前にギルドへ納品に行くよ」
リプイの一言であからさまに龍拓はテンションが下がる。
「お金受け取らないと欲しいのがあっても買えないからな!
少し辛抱してくれ!」
「ああ。そうだな」
シュリルの言葉で納得すると龍拓は名残惜しそうに市場を眺め、ギルドに向かって歩く二人に渋々着いて行く。
町の脇にある巨大な石階段を上ると、茶色いレンガ造りの立派な建物が現れる。
「これがギルドか……」
龍拓は
それもギルドからは異様な冷たい冷気にも似た何かが出ているように感じた。
「龍拓。
ここに居るヤツらは良いヤツばかりじゃねぇ。
話しかけられても深入りはするな」
「そんな危険なのか?」
「ギルドのクエストには限りがある。
この構造から常に皆が商売敵になるから蹴落とし合いが日常茶飯事なのよ」
「そうなのか……」
「じゃあ行くぞ」
そう言うと大きなドアをシュリルが押し開ける。
『ギィィィィィィイ!』
ドアの掠(かす)れるような嫌な音が鳴り、中に居た者たちがシュリルたちを冷たい視線で一斉に見つめる。
「シュリルか」
「アイツのせいで収入が減った」
「チッ、酒が不味くなる」
「原人がこんな所に来るんじゃねぇよ」
ボソボソと聞こえる野次にシュリルは顔色を曇らせる。
また、ロビーの奥に居る魔法使いたちが
「リプイよ」
「アイツ、たまたま勇者とパーティー組んだからって調子乗ってるよな」
「回復魔法しか使えない小娘がいけしゃあしゃあとギルドに顔を出して恥ずかしくないのかしら」
酷い言われ様に二人の後ろに立っていた龍拓は怒りから小刻みに震え出した。
「あーあ。ギルドって聞いていたから凄い奴らがいっぱい居るのかと期待していたんだが、面と向かって意見も言えない小物ばっかりしか居ないのか。
何だか残念だな」
ため息を吐きながら喋る龍拓に殺気を込めた視線が集中する。
リプイは心配して
「何だアイツ!」
「デカい口叩くとどんな目に
すると、シュリルが龍拓に微笑む。
「ありがとな」
再びギルドロビーの方を向くシュリルは鬼の様な形相を浮かべていた。
「俺の事を何と言おうが構わない。
だが、俺の仲間を侮辱することは許さん!
俺ならいつでも相手してやる。
文句があるやつは掛かって来い!」
シュリルの気迫にロビーに居た者たちは静まり返る。
リプイは勇ましいシュリルの背中を見つめる。
「二人共、行くぞ」
「ええ」
「ああ」
シュリルの背中を追いかけるように二人はロビーを進むと、突き当たりにある階段を登って行った。
そんなシュリルたちを円卓に座り、ニヤつきながらフードを被った男二人と女一人が眺める。
「相変わらず、アイツは変わらんな」
「全く、いつになったら成長するのかしら」
「あの変わった服を着ていた男、中々肝が据わっている。
何者だ?」
「まぁ、いずれ分かることだ。
俺たちも納品しに行くぞ」
中央に座る男がそう言うと、三人は立ち上がってシュリルたちを追うように階段を登って行った。
シュリルたちが二階に着くと、赤いカーテンが付いた受付があり、顔に傷をつけた金髪の屈強な男が立っている。
「シュリルか!」
男の一言にシュリルは笑みを浮かべる。
「ミルコ、獲物は確保したぜ!」
「お疲れさん! リプイも、その顔の様子じゃあ今回もかなり苦労したみたいだな!」
ミルコは疲れからくたびれた表情を浮かべるリプイに笑顔を向ける。
「全くたまったもんじゃないわ! 森は危険な怪物だらけ。
グランドセントピード以外にも襲われて大変だったのよ!
しかも、シシュールなんかを食べる羽目になったし……」
「でも旨かっただろ?」
龍拓の一言で恥ずかしそうにリプイは俯く。
「ええ……。美味しかったわよ……」
ミルコは龍拓に気付くと凝視する。
「アンタ、その身なりからしてこの国の者じゃ無いな。
厄介事に巻き込まれる前に着替えた方が良いぞ」
「その忠告は少し遅かったみたいだな」
背後から男の声が聞こえ、シュリルたちが振り向くとフードを被った三人が立っている。
「お前たちは……」
『バサッ!』
勢い良くフードを脱ぐと、先頭には白銀に輝く鎧を着て、顔が整った金髪の男が姿を現す。
男の容姿はそう、理想の勇者そのものだった。
後ろに居た二人もフードを脱ぐと、黒紫色のエナンを着てスタイルが整った妖艶な女魔術師と漆黒のローブを着た身長二メートル超えの屈強な男が立っている。
「アミル……」
シュリルがボソッとこぼれる様に名前を言うと、白銀の鎧を着たアミルは満足そうに笑みを浮かべる。
「よう、シュリル。まだ、魔法をろくに使えない魔術師と組んでいるようだな。
それに異国の者を……」
アミルは興味深そうに龍拓を眺める。
「一応、お前も国王から勇者を名乗る資格を貰った一人だ。そんな身なりとパーティーでは民に示しが付かぬ。しっかり相応な人材を選んで決めろよ」
シュリルは薄ら笑いを浮かべる三人を睨みつける。
「俺が誰と組もうとお前には関係が無いだろ。それにリプイも龍拓も俺からしたら必要な仲間だ。それ以上の
アミルに勇ましく反論する様にリプイは頬を赤らめて見惚れていた。
「確かにリプイはあんまり役に立たない!」
「おい! 否定しろや!」
「でも、リョウマは料理が絶品で凄いんだぞ!
まだラーメンとやらは食ってないが、あんな短期間でレベルアップ出来る料理は初めてだ!
リプイと比べものにならないほど役に立つ!」
リプイは先ほどまでと打って変わり、怒りで小刻みに震えながら顔を赤くする。
「フッ、好きにしろ」
すると、重苦しい空気を察したミルコは無理やり笑みを作る。
「査定を始めるぞ! リプイ、アイテムボックスの準備を頼む」
「え、ええ……」
リプイがアイテムボックスを取り出すと、ミルコは受け取って自分の横にあるレ
バーを引く。
『ゴゴゴゴゴゴゴッ』
受付の台が音を立てながら横にずれると、目の前に階段が現れる。
「アンタらの獲物はデカいから、続きは地下の査定室で行うぞ」
アミルが階段を降りると一同も着いて行く。
巨大なドーム状の査定室にはありとあらゆる怪物がそれぞれにあった保管方法で貯蔵されていた。
その光景はまさに怪獣博物館だ。
龍拓は目を見開いて立ち尽くす。
目の前には紅い恐竜。
その姿はまさに絶滅したティラノサウルスの頭部にフサフサの髪の毛を生やしたようなものが大きな水槽にホルマリン漬けの様な状態で保存されていた。
「すげぇ……」
龍拓は自然と口から
一体、コイツはどんな出汁を出すんだろう……。
辺りを見回すと見たこともない怪獣が居る状況に胸を高鳴らせる。
この世界にはまだまだ未知の
今すぐにでも厨房で調理したい!
押さえられない興奮に龍拓の両手が
To Be Continued…