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『グランドセントピードのまぜそば』4

 妙に分かった風で頷くシュリルと驚きで顎が外れる程に口を開けるリプイ。


「ってことは、その謎の女性に異世界から飛ばされて来たってこと!

 そんな魔法、聞いたことも無い!

 それに、国全体を覆うバリアを突破出来る程の力なんて……」

「俺も聞いたこと無い! だが、一つ分かるのはその女性がとても強そうってことだ。

 一度手合わせしてみたいな」

「何考えてんのよ、この単細胞! そんな魔法使う奴なんか関わりたくない!」

「恐らく、彼女は神社の御祭神の……」


 龍拓はポケットからスマートフォンを取り出すと、電源ボタンを押すが圏外でマップが開かない。


「手鏡なんて急に出してどうしたんだ?」


 シュリルの質問に対してスマートフォンを指さしながら龍拓は答える。


「これはスマートフォンっていう物で、本来は色んな調べものや通話が出来て便利なんだけど……。

 この世界には電波が飛んでいないみたいで使えないんだ」


 すると、思い出したかのように龍拓は写真保存アプリを起動する。


「確か、昨日スクショした気が……」

「スクショ?」


 訳の分からない言葉が飛び出して二人は困惑する。


「あった!」


 龍拓はスマートフォンの画面を見せると、そこには狐を抱きかかえる白い着物を着た女神が描かれた絵が映し出されていた。


「何だ?この動物は」

「この女性がもしかして、神社っていうところで見た……」

「多分、祭られていた命婦白狐みょうぶびゃっこ様だと思うんだけどね」

「そういえば、龍拓は神社で何を願ったんだ?

 それを叶えるために行ったんだろ」


 シュリルの問いかけに龍拓はハッとした表情を浮かべる。


「新たなジャンルのラーメンスープを作るために此処へ来たのか……」


 龍拓は改めてグランドセントピードの頭が無い胴体を見つめた。


「つまり、龍拓はラーメンのために来たんだな!

 より食いたくなったぞ!」


『ぐうぅぅぅぅ』


 シュリルは腹から大きな音を出すと、すかさず質問する。


「そのラーメンには何が必要なんだ?」

「えっと、ラーメンはスープ、あと麺が必要だ。

 だから、出汁はグランドセントピードから作るとして、麺と茹でる鍋とかの調理器具が必要になるな」


 龍拓はパンパンに詰まったリュックサックを降ろすとチャックを開け、様々な調味料を取り出す。


「幸いにも調味料はある程度そろっている」


 すると、リプイがローブの内ポケットから黄色いキューブを取り出して地面に投げる。


『ポォォォォン!』


 破裂音と共に鍋とフライパン、包丁にまな板と謎の紋章が書かれた白いマットが出て来る。


「簡易的だけど、アイテムボックス・・・・・・・・に調理器具はあったわ」


 龍拓は感動した表情で調理器具を見つめる。


「アイテムボックスか! 本当にゲームみたいだな!

 このマットは何に使うんだ?」

「これは携帯型タヌーよ。紋章から炎が出るの」

「つまり、コンロってわけだな」

「龍拓、これで何とか出来そうか?」

「ああ! 出汁は何とかなる。あとは麺と茹でる水だな」

「水は近くに川があるからそこで取るといいわ。

 でも、麺はどうしよう……」


 シュリルは思いついたように満面の笑みでリプイに答える。


「麵の代わりにシシュールを使うのはどうだ!」

「馬鹿! 形しか似てないじゃない!」

「そのシシュールって何なんだ?」

「説明より実物を見せた方が早い! 俺も簡易的にタンパク質が取れる。

 龍拓、リプイ着いて来い!」


 そう言うとシュリルはグランドセントピードの頭を担いで森の脇道へ進んで行く。

 龍拓はリュックサックを背負ってシュリルの後に着いて行く。


「ちょっと、二人とも待ってよ! ハゾール!」


 リプイの呪文でアイテムボックスが現れ、調理器具とグランドセントピードを吸い込む様にしまうと急いで二人の元へ走った。



 深い森の獣道を進むと、いくつもの岩が現れる。


「アイツらは大体、岩陰に隠れているんだ!」


 グランドセントピードの頭を降ろし、ワクワクした様子でシュリルが岩を一つ持ち上げる。


「ほら、いっぱい居るぞ!」


≪キュイィィィイ!≫


 甲高い音を発しながらウネウネとうごめく、一匹三十センチほどの鋭利な牙が口に二本生えたミミズが居た。


「うぅぅぅ。気持ち悪ぅ」


 リプイはシシュールに夢中になる二人を置いて少し離れると、さり気なくグランドセントピードの頭をアイテムボックスへしまう。


「龍拓、こいつらは岩に叩きつけてそのまま食えばいい。

 俺が見本を見せるから食ってみろ」


 そう言うと牙が無い方の端を掴み上げる。


『パァァァァァン!』


 思い切り岩に叩きつけると口から緑の体液を出して動かなくなる。


「噛まれないように注意しろ」


 シュリルは牙を抜くとそのまま口に運び、すするように食べる。


「うん! いい感じだ」


 旨そうに食うシュリルを見て思わず龍拓は息を呑む。


「叩きつけて食うだけだな」


 恐る恐る掴み上げると、シシュールは激しく暴れて龍拓の手首を噛もうとする。


「危ない! 早く叩きつけろ!」


『カブッ!』


 龍拓は手首を噛まれ、急いで腕ごと岩に叩きつける。


『パァァァァァン!』


 すると、口から体液を出しながらシシュールは力尽きて噛むのを止める。


「大丈夫か!」


 急いでシュリルは龍拓の手首を確認する。


「少し血が出たくらいで済んだか……」


 傷口は浅く、ホッとしてシュリルはため息を吐く。


「もう少し遅かったら肉が抉(えぐ)れて大変なことになっていたな」

「そんな危なかったのか! そういうことはもっと前に言ってくれ!」

「すまんな。リプイ頼む!」

「マガペ!」


 呪文を唱えてリプイが杖を振ると、杖の先から色とりどりの美しい花が咲く。


「少し染みるかも」


 すると、杖を手首に向けて蜜を傷口に垂らす。


「うっ……」


 傷はみるみる塞がり、あっという間に治ってしまう。


「これは凄い!」

「リプイは回復魔法に関しては一流だからな!


 それ以外の魔法はからっきし・・・・・だが」


「ちょっと! 余計な事言わないでよ」


 リプイは眼を尖らせてシュリルに怒る。


「さあ、龍拓食ってみろ!」


 龍拓は牙を抜き躊躇しながらも口を開けると、シュリルと同じように啜って食べる。


 なんだ、このアルデンテな噛み心地は! まるでペンネの様な触感。

 それに程良い塩加減がある……。

 少し茹でれば、麺として十分使えそうだ!


 龍拓は笑みをこぼし、シュリルを見る。


「イケるぞ、コレ!」


 シシュールを食べて感動している龍拓に対してリプイは顔を引き攣(つ)らせて距離を取る。


「じゃあ早速、シシュールを集めるぞ!」


 そう言うとシュリルは次々に岩を退かし、次々に潜んでいるシシュールを岩に叩きつけていく。


「こんなもんでどうだ?」


 気付くと、シュリルの手には大量のシシュールがあった。


「ああ、これだけあれば三人分作れるだろう」

「三人分! まさか、私も食べるの?」


 龍拓は戸惑うリプイにニコッと微笑む。


「勿論だ。意見は多い方が良い」

「そんな……」


『ぐぅぅぅぅぅぅ』


 リプイは自分の腹が鳴り、恥ずかしそうに抑える。


「腹も空いているみたいだし決まりだな!

 龍拓、早速作ってくれ! 俺は水をんでくる」

「分かった」


 龍拓はシシュールの牙がある頭を黙々と切り落としていく。

 そして、まな板に乗せられた大量のシシュール見つめながら考えていた。


「茹で時間は二分程度か……」

「おーい! 戻ったぞ!」


 そこに川からたるに水を汲んで来たシュリルが来る。

 龍拓は戻って来たシュリルを見てあることに気が付いた。


「さっきより体が小さくなってないか?」


 龍拓の言葉にシュリルは自分の胸板を見つめる。


「ああ。さっきも話した通り、俺はタンパク質を接種することで肉体を強化する。

 しかし、定期的に接種できなければ、この筋肉が自身を食らい続ける」

「ってことは……」

「最終的には萎んで死んでしまうな!」

「えぇぇぇぇ!」


 眼を見開き、困惑する龍拓の肩にリプイがそっと手を置く。


「普通はこんな大事な話、初めにするでしょ。

 でも、この人は重要なことはいつも後で言うのよ。

 町はずれで初めて会った時、まるで栄養失調の人みたいにガリガリの状態で倒れていたところを助けたんだから」


 リプイは初対面の記憶を思い出していた。


「そんなこともあったな!

 だが、そのお陰で俺とパーティーが組めたじゃないか!」

「好きで貴方と組まないわ!

 私が回復魔法以外を使えれば……」


 リプイは悲しそうに俯く。


「私は回復魔法が他の誰よりも優れている。

 でも、他の系統魔法が使えなかった。

 だから、他の勇者には見抜きもされなかったんだ。

 そもそも、勇者として国王に任命されている時点でかなり強いの。

 怪我なんてそうそうしないし、回復魔法を使えない魔法使いは殆どいない」

「そんな時、俺とリプイは出会ったのさ!

 俺も丁度、魔法使いが居なくて困っていたからな! これぞ運命ってやつだろ」

「普通、貴方とパーティーは組みたがらないわ!

 だって、元々居た魔法使いはモンスターに食べられたんでしょ!」

「あぁ、アイツは本当に良いやつだったよ。

 組んで十五分後にキマイラに食われちまったがな」

「この人、他の勇者と違う特異体質のせいで、強いモンスターを食べないとレベルアップしないのよ。

 そんなこと組んでから知らされて……。

 毎回毎回、危険地帯に連れまわされる羽目になったわ!」


 すると、龍拓はリプイを不思議そうに見る。


「でも、なんでリプイは勇者とパーティーを組みたかったんだ?

 きっと危険な目に遭(あ)いたくないなら町に残っていた方が良いのに」

「それは、今後の人生を安全に過ごすためよ。

 ロイアルワは他の二つの王国と比べてモンスターが出やすい。

 だから、将来は比較的安全なベティーフ王国へ移住したい。

 でも、考えることは皆一緒で大量の人が住んだ結果、土地の価格が爆上がりしたのよ。

 だから、勇者と高収入の仕事をして早くお金を貯める必要があるの」

「そうなのか」

「でも、この人が折角の思いして倒したモンスターを食べちゃうから、いつも貰える報酬が低いのよ」


 そうリプイが話している最中、シュリルはアイテムボックスからグランドセントピードの胴体を出すと、まだピクピクと動く足を引きちぎって丸かじりし始める。


「ちょっと! 人が話している最中に……。

 また報酬が下るじゃない!」


 他人事のようにかじっているシュリルに対してリプイは怒りを露にする。


「ちょっとくらい良いじゃないか。

 足はこんないっぱいあるんだし」

「そう言って、いつも食べちゃうじゃない!」

「ハハハハハハ!

 そんなこともあったな!」

「もうっ! そんなことしているから町の人から原人・・系勇者・・・ なんて呼ばれちゃうのよ!」


 龍拓はまた少し体が小さくなったシュリルを見つめる。


 あまり時間を掛けない方が良さそうだな……。

 そうなると、スープ作りは別の機会にするか。


 早速、龍拓はシュリルの持ってきた樽の蓋を開けると、鍋に水を入れる。


「リプイ、火のつけ方を教えてくれ」

「私が付けるわ。

 多分、龍拓は魔力が無いから紋章を起動出来ない」


 リプイは龍拓の声を聞き、携帯型タヌーの前に立つと手をかざす。


「ハガナテエッシ!」


 呪文を唱えると、紋章が光って円形に蒼い炎が出る。


「どうして俺に魔力が無いって分かるんだ?」

「魔力は鍛えることで身に着くものなんだけど、それをやってないし……」

「そうか。

 じゃあ、火力はどうやって上げるんだ?」

「それも呪文を唱えるだけよ」

「試しに、その呪文を教えてくれ」

「だから、魔力が無いと扱え……」


 リプイが言い切る前に龍拓が割り込む。


「良いから教えてくれ」

「わ、分かったわよ。

 手をかざしてラロットと言うの」


 すると、龍拓はすかさず携帯型タヌーに手をかざす。


「ラロット!」


『ボワァァァァァア!』


 炎は激しく燃え上がり、リプイは唖然と立ち尽くした。


「ハハハハハ!

 魔法の才能も龍拓の方がありそうだな!」


 リプイは振り向くとシュリルを睨みつける。


「うるさーい!」




×  ×  ×




To Be Continued…

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