ネネは考えがまとまらないまま、お風呂を上がってきた。
ついでに玄関から渡り靴をもって来る。
家族に気がつかれただろうか。
まぁ、なんとでもごまかそう。
朝焼けに飛んでいくとかは、だまっておこう。
ドアを開けると、ドライブがベッドの端から端へと走っていた。
「食後の運動?」
『なのです』
「螺子ネズミって言うのは、みんなそんな風に鍛えてるの?」
『個性なのです』
「そりゃそうか」
ネネはうなずく。
そして、パソコンの電源を入れる。
『パソコン』
「ドライブも見る?」
『はいなのです』
ネネはドライブを肩に乗せると、パソコンの画面に向かった。
「無駄に図体でかいパソコンだけどね」
『それでも端末と連動できるます』
「今度の朝にまた行くわけだ」
『ネネが望めば行けるです』
「線を使えるパワーとかどうとか?」
『線をひくことも操ることも出来るのです』
「実感ないね」
『扱ってみればわかるのです。大きな力なのですよ』
「ふぅん」
パソコンが動き出し、
画面にOSのロゴが出る。
ネネは慣れた手つきでブラウザを起動させる。
「ネットの上にね」
ネネは勝手に話し出す。
「ネットだけの知り合いが何人かいるんだ」
『ふむふむ』
「顔も見たことない人だけどね」
『それでも知り合いなのですか』
「お互いが知っていれば知り合いでしょ?」
『それもそうなのです』
ネネはキーボードを叩く。
画面の表示がぱっぱと変わる。
『何が起きているのですか?』
「知り合いのページに行こうとしてる」
『ぐるぐるなのですよ』
「なれるって。突風に乗るよりも簡単だよ」
『うーむー』
ドライブはネネの肩の上でうずくまる。
やがて、ネネの知り合いのページに行き着く。
「この人は小説書いてる。本にはなっていないようだけどね」
『小説は本だけじゃないのですか?』
「いろんな小説があるよ。携帯電話でも小説を書けるらしいし」
『あんなので!』
ドライブは驚いたらしい。
「読んだことないけど、売れてはいるみたい」
『うーむ』
ドライブがうなる。
意外とドライブは保守的らしい。
ネネは次の知り合いのページを表示させた。
「この人はニュースとかを扱ってる」
『ニュースですか』
「そう、いろんなニュースをネットから拾ってきて、自分の考えを言うの」
『ふむふむ』
「ネットの節目節目に現れた、情報の束みたいなのかな」
『線がつながっているのですね』
「ドライブには、それがわかりやすいかもね」
『で、どんなニュースなのですか?』
「外交問題とか人権問題とか、手広くやっている印象」
『印象?』
「うん、印象。なんだかね…」
ネネはキーを叩く手をマウスに変えて、ため息をつく。
「自分の言葉で話していないなという感じ」
『言葉は自分しかもっていないですよ』
「ドライブはそうだよね」
『なのですよ』
「でもね、ネットには大声がある気がするんだ」
『はい?』
ドライブが聞き返す。
「ネットの上で、大手が意見を出すと、流れるように多数が作られるんだ」
『ネットの上では平等ではないですか?』
「大声に倣っているような感じ。この人もいつしかそんな感じになってた」
『ネネもそういえばいいじゃないですか』
「小さな意見も、取りようによっては大きくなる可能性を秘めてるけどね」
『ならそれでいいじゃないですか』
「あたしはネットの上で大きくなりたくないよ。大声で叫びたくない」
『間違ったことがあるなら言うべきです』
「ドライブはそう思う?」
『思うのです』
「あたしは自分が楽しめればいいと思う。間違っていることも、いずれ気がつけばいいよ」
『そんなことしたらネットがだめになるのです』
ドライブが足踏みをしたらしい。
『自分からネットを良くしないといけないです』
「そうでもないよ」
ネネは静かに言った。
「気がつく人がいれば、そう流れる。それを何度も見てきたから」
ネネは続ける。
「多分この人も気がつくよ」
ネネはブラウザを閉じた。