ネネはレディの店の、店内をぐるりと見た。
身体が異形になる端末は、
どうやら容量が大きいらしい。
小型になると、少しの記録しかできないらしい。
ネネは迷ったが、さすがに異形は無理だなと思った。
「どれがいいかな」
ネネは物色する。
「あんたはパソコン持ってるのかい?」
レディが問いかける。
「は?はい」
ネネは間の抜けた答えをした。
「それならパソコンと連動させるのがあるよ。ちょっとまってな」
レディは店の奥へと行ってしまった。
ネネは首をかしげる。
パソコンがここで出るとは思っていなかった。
「パソコン持ってるの?」
鋏師が問いかける。
「うん」
「最先端だ、すごいや」
鋏師が手放しでほめる。
ネネは頭の隅っこで、無駄箱一号を思い出す。
父マモルの買ってきた図体ばかり大きなパソコン。
ものすごく無駄だと思っていたもの。
「朝凪の町では、パソコンを使っている人は少ないんだ」
「ふぅん」
「レディとか一部の人が、一応使っている程度なんだ」
「そうなんだ」
「看板街に行けばある程度辿ってもらえるしね」
「そういうことなんだ」
ネネはネネなりに理解する。
パソコンや携帯電話のない、少し古い時間軸と思えばいいのだろう。
「あったあった」
レディが店の奥から出てきた。
「これ、パソコン連動型端末」
レディはネネにぽいと小さなものを投げて渡した。
ネネはあわてて受け取る。
「腕時計?」
少しごつめの腕時計。そんな感じがした。
野暮ったいかなとも思う。
ネネは普段の自分を思い出す。
長い髪や眼鏡が野暮ったい。
長めのスカートが野暮ったい。
知らずに苦笑いがこぼれる。
野暮の自分には、ちょうどいいのかもしれない。
「電源を入れたパソコンに近づけると、パソコンを介して記録をとるよ」
「USBとか?」
「いや、近づけるだけでいいよ。記録媒体をパソコンに移してるから」
「ふぅん」
「パソコンは線が集まりやすいから、ネネの線のほかにも線を辿ってくれるさ」
「便利そう」
「便利だよ」
レディは笑った。
ネネもつられて笑った。
「お金どうしよう」
ネネが不意に気がつく。
今までお金を使う機会がなかったが、どうしよう。
「朝凪の通貨を持っているとは思わないよ。持ってきな」
「でも…」
「少しずうずうしくなりな」
レディはからから笑う。
ネネは困る。
レディは異形の左腕でネネの頭をぽんぽんたたく。
大きな異形の腕なのに、そのぬくもりは底抜けに優しかった。
「大丈夫さ」
ネネはうなずいた。
レディはその反応に満足して、うなずいた。
『それじゃどうするですか』
ドライブが声をかけて来る。
「どうするって?」
ネネは聞き返す。
『時間軸があっていませんけど、時間は流れているのです』
「浅海の町でも時間が流れてるってこと?」
『軸はあっていないですけど』
「それじゃ戻れるかな」
『端末で戻れるのです』
「なるほどね」
ドライブとネネの会話に、レディが説明にはいる。
「端末でネネの立ち居地を記録させるんだ」
「記録、これかな」
「そして、ネネのパソコンの位置を記録させる」
「どうやって?」
「とりあえずはネネのいる家の住所。パソコンの近くまで来たら、端末に覚えなおし」
「ええと、住所…」
ネネは端末をいじる。
いろいろな表示が明滅する。
ぴっと音がなって、明滅が静かになった。
「それで、エンターを押せば、光の扉が現れるよ」
「わかりました」
ネネは息を吸い、吐くと、エンターキーを押した。
端末から濁流のように光が現れ、
その光は扉の形になる。
ネネは目をぱちくりとしたが、意を決して扉に手をかける。
「また朝凪の町にくることがあるだろうさ」
レディが声をかける。
ネネはうなずく。
「また来ます」
ネネは振り返る。
レディと鋏師が手を振っている。
ネネはうなずき、扉を開いた感覚を持った。