ネネは眠っていると思った。
これは夢だと眠りながら考える。
頭の中に話しかけてくるネズミも、
きっと夢なんだろうと思う。
こしょこしょと鼻に何かを感じる。
くすぐったい!
ネネは大きくくしゃみをして目が覚める。
ネネの上半身が跳ね上がる。
『どうもです』
さっき夢だと思っていたネズミがいる。
『時間がないので尻尾でくしゃみを誘発しましたです』
螺子ネズミは尻尾を振る。先が螺子になっている。
尻尾螺子がふよふよと揺れる。
ネネは眼鏡をかける。
「時間がないってどういうことよ」
いつものように、ボソッと。
『朝凪の町に行くのですよ』
「浅海ならこの町だけど」
『朝凪(あさなぎ)なのです』
螺子ネズミが訂正する。
『明け方に立ち現れる町なのです』
螺子ネズミは簡潔に説明する。
「何であたしが起きなくちゃいけないわけ?」
『ネネさんは朝凪町をつないでいるのです』
「寝る前に言ってた、線がどうとか?」
『そういうことなのです』
螺子ネズミはネネをじっと見ていた。
そのあと、頭を小さな手でかいた。
何かを思い立ったらしい。
『あの、お願いがあるのです』
「うん?」
ネネはぶっきらぼうに返す。
『螺子ネズミの私に、名前をつけてくれないかです』
「名前?」
『特別な螺子ネズミになりたいのです』
「ふぅん…」
ネネは少し考える。
「ドライブ」
『はい?』
「あんたの名前。ドライブ」
ドライブと名づけられた螺子ネズミは喜び、
ちたちたとあたりを走った。
ネネに微笑が少し浮かんだ。
『ありがとうございますです』
ドライブは一礼する。
「それで、どこか行くんだっけ?」
ネネはドライブを促す。
『朝凪町です。浅海町と線を一本隔ててつながっている町です』
「隣町はそんな名前じゃなかったと思うけど」
『違う線でつながっているのです』
「別世界ってところ?」
『多分それでいいとおもうのです』
ドライブはうなずいた。
ネネはため息をついて、天井を見た。
夢見てるのかなと思う。
いつも世界が嫌い嫌いといっていたけど、
何かに巻き込まれて、順応し始めている自分がいる。
ネズミに名前をつけたり。
くしゃみで起きたり。
嫌いだといって、自分から区切るのは簡単だ。
それでも、ドライブはいいやつだと思うし、
巻き込まれるこの状態が嫌いではない。
何かが起きるような予感。
忘れていた感覚のような気がする。
ネネは起き上がる。
「とりあえず着替えるよ。そしたら出かけよう」
『はいです』
ネネは起き上がって制服に着替える。
ドライブがベッドで何かしている。
ペソペソとベッドを叩いている。
「…何?」
『ベッドメイキングをしようと…』
「サイズが違うからやめといたほうがいいよ」
『…はいです』
ドライブはベッドにちょこんと腰掛けた。
ネネが着替えている間、
ドライブは耳代わりの丸いアンテナを回している。
何かを聞いているのかもしれない。
やがてネネが着替え終わる。
「何か聞いてた?」
『つないでいる線の強度を聞いていました』
「ふぅん」
ネネには何のことやらさっぱりだ。
『まだしばらく朝焼けが続きます。その間に朝凪の町に入ればいいのです』
「そうなんだ」
『そうなのです』
ネネはドライブに手を差し出す。
「肩に乗ったほうがいい?」
『あの、いいんですか?』
「いいよ」
ドライブはネネの腕を伝い、肩にちょこんと乗る。
『朝凪町に続く線は、神社に通じています』
「坂の上の?」
『そういうことです』
「結構歩くかな」
『そうでもないですよ』
ドライブが答える。
『遠かったら空を飛べばいいのです』
ネネの肩でドライブが手を打つ。ぺちぺちと。
ネネの部屋の窓が開く、
風が吹き、ネネは窓から表に飛ばされた。