暗殺者は仕事に困ることはない。
腕さえ、あれば。
暗殺者はいつもの酒場のいつもの席で、
仕事をうけている。
仕事を頼む合言葉は、
とあるカクテル。
それが合図だ。
噂を聞きつけたらしい男が、
酒場にやってきて、
暗殺者の隣で、
そのカクテルを頼んだ。
「仕事かい?」
暗殺者は独り言のようにつぶやく。
「パンダをしとめてもらいたい」
男はカクテルをもてあそびながらつぶやく。
「パンダ狩りなら別を当たってくれ」
「いや、あんたに頼んだほうがいい」
男ははじめて暗殺者の顔を見た。
暗殺者は男を見返す。
ひるまないところから察するに、決意は固いらしい。
「最長寿パンダを知っているか?」
男は話し出す。
「世界の至宝といわれてる、パンダのヤンヤンか」
暗殺者もそのくらいは知っている。
「しとめてもらいたい」
「理由は聞かないが、とりあえずしとめればいいわけだ」
暗殺者は話を終わらせようとする。
殺すなら人のVIPもパンダのVIPも関係ないなと思っていたからだ。
「少し独り言に付き合ってくれないか?」
男はそう言うと、暗殺者から視線をはずし、
カクテルをもてあそんで、少しだけ飲んだ。
「政府はパンダのヤンヤンに、すべての権力を与えるという」
それは暗殺者も聞いたことがない。
この男の情報網なのか、
または、この男、政府の関係者なのだろうか。
「すべての権力、か」
そりゃ人間が黙ってないなと暗殺者は思う。
「ラブパンダもパンダに権力を持たせる是非について分裂気味だ」
男は独り言を続ける。
「パンダを守るもの、パンダを神とするものじゃ、意見が違うんだ」
ラブパンダの中の何人かも殺したことがあったなぁと暗殺者は思い出す。
「これ以上人間を貶めるのは嫌なんだ、パンダのヤンヤンを殺してくれ」
暗殺者は微笑んだ。
「パンダのヤンヤンか。おもしろい」
男はまもなくして帰り、
暗殺者はいつものように酒場のいつもの席にいる。
「パンダのヤンヤン、か」
暗殺者にしてみれば、
人間以上にパンダはどれも同じに見える。
個性があったりするんだろうか。
考え出したら止まらないだろう。
影武者を使われたら厄介だなと思う。
パンダの寿命をはるかに越えた、
パンダのヤンヤン。
漢字で書くと、病病らしい。
政府の病んでいる部分の象徴だなと思う。
政府反政府、考えることがバカらしいとは思うが、
この世界はパンダで病んでいる。
パンダ狩りは性に合わないが、
とにかくVIPを殺す高揚感は抑えられない。
この仕事で世界は変わるだろうか。
この世界は腐っている
腐ってやがる。早すぎたんだ。
一瞬、何かの台詞が頭を掠めたが、
それが何なのか、暗殺者が知ることはなかった。