電脳発掘屋。
数百年前における、考古学者に近いものだと思ってほしい。
技術はある程度進んだけれど、
いまだにわからない過去のこと、
とりわけ、電脳、コンピューターが普及した時代。
その黎明期を探っている人物達を、
電脳発掘屋という。
今はコードをつないで端末からアクセスができるが、
昔はどうだったのか。
古い時代の技術で、どうやって人は生き延びてきたのか。
電脳に頼る人間には、
思いつかないような叡智があるに違いない。
そして、一般には、
数百年前のパンダは、
人間に大切にされていたという。
ならば、その時代のパンダのことを知れば、
今のパンダに対する対策も見つかるかもしれない。
電脳発掘屋は中立だ。
パンダがどうなろうが知ったことではない。
有益なデータが出れば、
気の向いたほうに売りつける。
急がずあせらず高速に。
電脳発掘屋はそれなりに楽しい。
「出ないものだなぁ」
電脳発掘屋は、自分の電脳に、
過去の遺物のHDDをつなげている。
(HDD、ハードディスクドライブ。記録する装置)
感覚というものがない時代のデータ。
一体こんな小さな容量のデータで何をしていたんだろう。
画像が出るかと思えば、
裸体だ。
厚みも何もない、ただの画像だ。
なんだかたくさんある。
よっぽどこの裸体が、よいものとされた時代だったのかもしれない。
このHDDに見切りをつけ、
次のHDDに切り替える。
「お」
電脳発掘屋は小さく声を上げる。
このHDDには、動画が入っているようだ。
一つ一つ電脳で高速に処理をしていく。
なんだか古い絵の少女がいっぱいで、よくわからない。
漫画というものや、アニメというものが、
HDDに記録されている。
「古きよき二次元、か」
何百年か前に、動画投稿サイトというものができていたと、
電脳発掘屋の脳裏で記憶が走る。
動画を集めていたのかもしれない。
こんなもの集めたって、当時は一銭の得にもならない。
でも、電脳発掘屋は、
歴史あるものを学者に売りつけるのが仕事。
たまには電脳発掘屋自身が調べることもある。
多分これは、当時流行っていた少女達の同人作品だ。
電脳発掘屋は、コードをはずして、椅子に深々と座りなおす。
感じることといえば、
何百年も前はとても平和だったと。
パンダに関する憎しみもないし、
パンダを殺そうなんてのはなかった。
二次元のキャラクターに、萌えという言葉で愛を表現していたらしい。
古い言葉だなぁといまさら、電脳発掘屋は思う。
古いこと探っているのが自分じゃないかと。
「萌え…かぁ」
当時の人間は、パンダも萌えだったのだろうか。
残っているデータからは、なかなか読み取れなかった。