パンダは森に隠れている。
この時代において、
植物のあるところないところは、
かなりはっきりした。
あるところでは荒野が広がったし、
過剰に緑地とされたところもあった。
緑豊かに、地球に優しく。
数百年間使い古されたフレーズは、
今も呪いとなってこの世界を覆っている。
森は緑を増やすだけ増やして、
混沌としている。
いくつもの命がそこで生まれ、育ち、森にかえる。
ここに、手負いの三毛パンダが逃げ込んできた。
大きな傷がある。
白黒の敵にやられたものかもしれない。
パンダは倒れる。
意識は森と同化して、混沌となる。
「ひどい傷」
不意に、少女の声。
パンダは目を開ける。
そこには、白い服の少女。
少女は恐れずに、パンダのもとへとやってくる。
そして、パンダの頭をそっとなでる。
「このくらいなら治せるから」
パンダの意識は森に帰っていこうとする。
その意識に、少女はアクセスする。
コードもつながない、
意識のアクセス。
命も心も、霊体さえも、
ゆるゆるととけていく。
パンダの肉体が癒えていく。
大きな傷はふさがっていく。
パンダの意識と、少女の意識が混ざっている。
意識がダンスしている。
パンダはやがて眠りにつく。
少女はそのまま、パンダによりそっている。
いくつ命を助けられるだろうか。
少女は思う。
気がついたら森にいて、
ずっと森で育った少女は、
外のことをあまり知らない。
少女は森であり、
森は少女だ。
どんな命も受け入れたいし、
助けたいと思う。
少女は雨を待っている。
雨が降れば、このパンダの赤い模様も落ちるのではないかと。
すべて洗い流してくれるのではないかと。
じじっと、少女の鋭敏な耳が聞きつける。
この音は、光学迷彩の音。
森が聞きつけている。
誰かが潜んでいる。
少女は立ち上がる。
気配を森から感知する。
右!
少女はステップして、飛ぶ。
ひらりと舞い、感じた場所に蹴りを食らわす。
命中。
と、同時に、
相手は発砲した。
少女の左腕が飛ぶ。
それは、機械の腕。
少女はバランスを崩して落ちる。
「萌えメイドロボットの型落ちかよ」
迷彩の主が言う。
少女のわからないことを。
じじ…
機械の腕が外れた場所から、
ぽたぽたと落ちていくオイル。
(私は森)
(森を守らなくちゃ)
少女は一瞬だけ、パンダのほうを見る。
(私のところに来たんだもの)
雨が降り出し、光学迷彩がはがれる。
そして、パンダの赤い模様も落ちていく。
少女は目に力を宿し、
迷彩に向かって飛ぶ。
神様。
命とは、心とは、なんですか?