「なぁ、もう少し高値で引き取ってもらえないか?」
男の声がする。
ここは食肉買取の問屋みたいなもの。
パンダを狩っては、
売りに来るものが後を絶たない。
ただし、パンダに逆襲されるものも後を絶たない。
「だめだな、確かにパンダは増えたが、味はいまいちなんだ」
問屋はそういうと、値段をはじき出した。
男は提示された値段にうなずいた。
「しょうがないか」
男はつぶやく。
男は大きなぼろ布を頭からかぶっていて、
問屋にしか顔が見えない。
問屋も大して顔を見ているわけではない。
「まぁ、あんたもちょくちょく来るよな」
「ああ、まぁな」
「その腕なら白黒の敵にもいていいだろうに」
「まぁ…それはいいんだ」
問屋は金を渡す。
ぼろ布の男は、金をしまうと、雑踏に消えていった。
ぼろ布の男は、
その町の端っこまでやってくる。
旧時代に作られた、見張りのための塔がある。
ぼろ布の男は、そこに上っていく。
台風も大地震にも揺らがない塔。
そこがぼろ布の男の今の居場所だ。
茜色の夕日に照らされた、塔の一番上。
買い込んである食料、
旧世代の銃弾。
そして、ひどく長いライフルらしい銃。
狙撃をするための、銃。
それと、すっかりよれよれになった本が一冊。
表紙は日焼けしていて、何の本かはわからない。
それ以外に、身元を確認するようなものはない。
ぼろ布の男は、ライフルを構える。
手馴れている。
「神よ」
男は祈りをつぶやく。
そして、その目の先にパンダ影を見つける。
集団でやってくる。
集団三毛パンダだ。
男は、引き金を引く。
ためらいなく、確実に。
パンダの一体が倒れるのが見える。
しとめた。
まだいる。
スコープも使わない、肉眼での狙撃だ。
男は引き金を確実に引き続ける。
何度も。
夕焼けの町にたどり着くパンダは、一体もいない。
すべてしとめられた。
ぼろ布の男はため息をつく。
「アーメン」
あまり伝わっていない言葉。
聖書という昔の本にあったという言葉。
ぼろ布の男はそれを愛した。
荒野に散らばるパンダの死屍累々。
懲りてくれるだろうか。
パンダに懲りるという言葉はない。
しばらくこの町を守ることになるだろうか。
ぼろ布の男から、不意に、メロディー。
旧時代の着信というものらしい。
男は旧時代らしい、端末を取り出す。
「何の用だ?」
「会談のお時間です」
「そんな時間か」
「今回はラブパンダのあり方について…」
男はぼろ布を脱ぐ。気分的なものだ。
そこには、スーツに身を固めた、政府の首相がいた。