ざりざりという音を立てて、
タイヤが悲鳴を上げながら、車が走っている。
数百年前、
エコカーという概念が流行って、
政府が推し進めたエコというもの。
確かにエンジンは音がしない。
技術力が上がり、
こんな荒野でも走れるようになった。
地球に優しく。
運転する男は、反吐が出そうだと思った。
無論、車に酔ったわけではない。
政府が何百年も言い続けている、
代わり映えのしないその言葉に、反吐が出そうだ。
地球を守るためなら、俺の命はどうだっていいのか。
パンダに殺されてもいいのか。
「行きすぎだ」
助手席から青年の声がかかる。
「このポイントでやつらを待つ。うまくいけばメスもやれるはずだ」
「何でメスが?」
男は尋ねる。
「メスがすごい勢いで子どもを産んで繁殖する」
「そうなのか」
「この数百年のうちに、パンダの繁殖力を上げようとした、技術のおかげさ」
青年は皮肉っぽく言う。
男は理解できないが、
どうもこの青年、パンダのことには詳しいらしい。
「普通、戦いにはオスが出てくる、次に子どもを守るためにメスだ」
「メスをやればいいんだな」
「甘い」
青年は指摘する。
「メスがやってくる方向に、必ず子どもがいる。それも殲滅だ」
「根こそぎ、か」
「やらなければやられる。ここは戦場、狩場だ」
青年はエコカーを降りて、得物を構える。
近距離用武器、それは「白黒の敵」でも使っているものは珍しい。
数メートルに及ぶツヴァイハンダーだ。
エコカーで運べるのは、このサイズまでが限度だと、
男は青年に言ったものだった。
この青年、全身サイボーグか、特殊細胞を入れているかもしれない。
そうでもしないと、パンダを殲滅できないのか。
そうでもしないと、人間は生き残れなくなってしまったのか。
男は唇をかむ。
平和って一体なんだったんだろう。
「来るぞ、戦えないなら隠れていろ」
青年は、ぶんと大剣を振り回す。
血に飢えたパンダが、そこかしこから現れる。
「ご先祖様が今の様子を見たら、なんて思うだろうな」
青年はつぶやく。
「ご先祖様?」
男は尋ねる。
「俺の家系のご先祖様さ」
「戦士かい?」
「いいや」
青年は否定する。
「じゃあなんだ?」
「今はなき動物園、パンダの飼育係の家系だ」
男は絶句した。
パンダは迫ってくる。
男は大剣を構える。
「ご先祖様たちの、つないだ命を絶つのが、俺の役目だ」
無骨な大剣が、嘆くようにうなりをあげる。
命を育てた家系が、命を奪う。
パンダを愛した家系が、
パンダを殺す。
どちらが生き残っても、
それは悲しいことだと、男は思った。