ワタシはラスボス。
ラスボスになるために生まれた存在。
生み出された存在と言った方が、正しいのかもしれない。
ワタシを生み出した何者かは、『創造神』と名乗った。
何者かはワタシに書物とゲームを与えた。
勇者が、巨大な悪を打ち滅ぼす物語ばかりだった。
勇者の……あるいは、後に勇者と呼ばれるようになった者たちの物語。
何者かは、それらを娯楽として与えたわけではなかった。
それらは――――。
勇者とラスボスの様式美を学習するための教材だった。
ワタシに求められているのは――――。
物語を盛り上げるべく、ラスボスらしく悪辣に振る舞い、そして。
勇者に打倒されること。
世に災いをもたらす巨大な悪として、勇者に滅されること。
どんな災いが世に蔓延っているのかは知らない。
それをするのは、ワタシの役目ではないから。
それをしたことにされ、倒されるのがワタシの役目。
何のためなのか。
誰のためなのか。
それは、分からない。
ワタシが知る必要はないことだからだ。
もうすぐ、ワタシの役目は終わる。
勇者が、ラスダンに足を踏み入れたからだ。
ワタシはラスダンの最奥で勇者を待ち受け。
それらしく振舞い。
そうして、滅ぼされ。
勇者御一行様をいい気持にさせる。
ワタシに求められているのは、それだけ。
勇者を攻撃する必要もない。
そもそも、そんな能力は持ち合わせていない。
それは、ワタシではない誰かの役目。
ワタシは、特に悪を為したわけでもないのに。
己こそが巨悪であるかのように振る舞い。
そして、倒される。
それだけ。
ただ、それだけのために生み出された。
きっと、ワタシは。
ひどく醜く恐ろしい姿をしているのだろう。
正義を掲げる勇者が打倒すのに相応しいひどく醜悪な姿。
だから、ワタシは……。
もうすぐ幕が上がり、そして閉じる。
幕が下りるというよりは、瞳が閉じるように終わるのだろう。
ワタシの一世一代の大舞台。
最初で最後の晴れ舞台。
やりたいわけではないけれど。
やらなくてはならない晴れ舞台。
役目を果たし、役目を終えれば。
ワタシも終わる。
その時が、待ち遠しい。
勇者が近づけば近づくほど。
誰かの視線を感じる。
ワタシは。
見世物なのだろう。
そうだとすると、勇者もワタシと同じなのだろうか?
勇者もただの見世物なのだろうか?
そうであれば。
ワタシという見世物で。
本当に気持ちよくなっている者は、別に存在するのかもしれない。
ああ、もうすぐ。
もうすぐだ。
勇者がワタシと同じであっても、同じでなくても。
どちらでもいい。
早く勇者に会いたい。
そうして、この茶番を終わらせてほしい。
勇者に滅ぼされて、ワタシが終わって。
その後は。
ただ、一つ想う。
次はもう、生まれて来なくても、いい…………。