一夜明け、ようやく動ける程度にまで立ち直ったイルメェイ。
フェリィエンリを斃してからずっと泣き続けていたので、セナたちはこの山で寝泊まりする羽目になっていた。
隣でずっとわんわん泣かれていたのであまり寝付けなかったが、その間にドロップ品の確認は済ませてある。
ガラテアからドロップしたのは、ちょっと不気味な【ガラテアの腕】という特殊装備品と、登録した魔法やアーツをMP消費無しで放てる【イミテーションリング】という装飾品だった。
フェリィエンリからは【雷嵐竜の瞳】、『雷嵐竜の鱗』、『雷嵐竜の尾』という素材がドロップしている。他の部位は瘴気の影響で風化してしまったため、イルメェイが風化した塵の中から取りだした黄緑色の宝玉を除けばこれで全てだ。
「それは……?」
『姉さんの竜玉だよ』
竜玉は人の頭ほどの大きさで、よくみると光の泡が浮かんでいるように見える。
これは下級の純竜からドロップしなかったアイテムなので、上位の純竜限定のものなのだろう。
イルメェイ曰く、特に力のある個体が死んだとき、この竜玉を次代に託すことで力を継承するのだとか。
『……〝天竜王〟様がいないからどうしようもないんだけどね』
「〝天竜王〟って誰?」
「天竜種の始祖ですよ主様。邪神戦争で隕落した〝激動たる災害にして竜の神〟が創造した、人間に於ける使徒のような存在です」
『僕たち天竜の祖先でもあるね』
その神の名を、セナは知らなかった。というより、竜を司る神がいるなんて思っていなかった。だって、ドラゴンはモンスターだと思っていたから。
ナーイアスは其を、混沌に連なる神の一柱であり天災の象徴と呼んだ。天竜種や地竜種、海竜種は其の天災を体現する存在として生み出され、それらを統べる王として創造されたのが〝天竜王〟と〝地竜王〟と〝海竜王〟らしい。
今は其が隕落した影響で〝天竜王〟が姿を隠し、〝地竜王〟は同胞とすら思われていないほど失墜しているが、かつては偉大なる存在であったことに間違いはないらしい。
イルメェイはその〝天竜王〟を、心の底から尊敬している様子であった。
「ただ〝地竜王〟は……なんというか、擁護できませんね」
「悪者。レギオンがやっつける」
「無理。レギオン強くなったけど、もっと大きくなってからやっつけよう」
ナーイアスも〝地竜王〟の楔を目撃しているので、元凶ではないが無駄に騒動を大きくした要因を担っていると理解している。
だから擁護する言葉は出てこないし、呆れるしかなかった。今回の一連の動きは、明らかに害悪であるから。
『そういえば、〝海竜王〟様は今も生きているんだって。世界の果てをその体で囲っているって父様が言ってたよ。津波は〝海竜王〟様が身動ぎした衝撃で起きるんだってさ』
翼を広げて飛び立とうとしたとき、イルメェイが思い出したように言った。
セナは不思議に思う。地球は丸いという固定観念があるから、この世界も地球と同じ球体型の惑星であるはずだ。
まるで、世界が平面であるかのような物言いだ。
「それってどういうこと?」
『僕だって分からないよ。聞いただけなんだから』
セナもそれ以上は聞かず、イルメェイの隣に並んで飛行する。
ことの顛末をヴェルドラドに報告したら、リマルタウリの冒険者組合にも報告を済ませなければならない。帰りはレギオンに乗るので快適な空の旅が約束されている。
《――ワールドアナウンス》
《――プレイヤーネーム『ラブカ』が冥府に到達しました》
《――以降、全プレイヤーのデスペナルティが軽減されます》
「……ほわい?」
さて、そんな折に予想だにしない方向のアナウンスが流れた。ワールドアナウンスということは、世界全体に影響があることが起きたわけだが……。
冥府、つまり死後の世界。〝暗き死にして冥府の神〟が治めるそれがどこにあるか分からないが、ラブカという人物がそこに到達したらしい。
プレイヤーはやられても即リスポーンするため、死んで冥府に行ったとは考えられない。
「どうしましたか?」
「……なんか、冥府に行った人がいるみたい」
昨日のガラテア戦で〝勇者〟の力が冥府にあるという、未だ噛み砕けていない情報を得ているため、セナは少しもやっとしていた。
自分だけが知っている情報があるのに、それを知らない赤の他人が偶然フラグを建てて横から掻っ攫っていくのは、言葉にし難い屈辱感がある。まだラブカなる人物が〝勇者〟の力を得たかどうか分からないが、キルゼムオールのような警戒すべきライバルとしてセナは認識した。
《――ワールドアナウンス》
《――プレイヤーネーム『フライングエビフライ』がプレイヤーの分類を解き明かしました》
《――以降、プレイヤーステータスに分類が追加されます》
更に、ネタとしか思えない名前の人物も何かを成し遂げたらしく、ステータス画面を開いてみると分類という項目が追加されていた。
セナの分類は来訪者(賢愚の民)と書かれている。詳細を見てみると、なんとどのステータスにボーナスが入るのか記載されているではないか。AからEの五段階で評価されるらしい。
Aランクは一・八倍、Bランクは一・五倍、Cランクは一・二倍、Dランクは等倍、Eランクは〇・八倍の補正が基礎ステータスに掛かるようだ。肝心の基礎ステータスが分からないままだが。
来訪者(賢愚の民)は全てのステータスがCランクと表示されている。
可もなく不可もなしな評価だが、今後括弧内が変更できるようになったりするのだろうか。