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第三章: 生徒たちの挑戦

メタバース体験会から数日後、翔太たちは本格的に生徒たちを対象としたメタバース授業の準備を進めていた。試験的に導入する授業テーマは「歴史の体験型学習」に決まり、戦国時代の城下町を再現した仮想空間を活用することになった。翔太は期待に胸を膨らませながら、生徒たちがどう反応するのか気が気でなかった。


「今日はみんなに、ちょっと特別な授業を用意したよ。」

翔太が教室に入ると、十数人の生徒たちは一様に興味津々の表情を浮かべていた。翔太が手に持っているVRゴーグルに視線を集めながら、口々に話し始める。


「え、これってゲームとかで使うやつ?」

「すごい!これで何するんですか?」


翔太は微笑んで答えた。「今日はこのゴーグルを使って、戦国時代の城下町にタイムスリップしてもらいます。みんなには城下町を自由に歩き回りながら、当時の生活や歴史的な出来事を体験してもらいます。」


教室内は一気にざわついた。興味津々の生徒もいれば、不安そうな表情を浮かべる生徒もいた。


「じゃあ、順番に試してみようか。」

翔太が案内すると、生徒たちは順番にゴーグルを装着し、仮想空間に入っていった。


最初に体験したのは、活発な性格の大輔だった。

「おお、すげえ!俺、侍になってる!」

仮想空間で侍の装束を身につけた自分の姿を見て、大輔は声をあげた。興奮した彼は、仮想空間内で商人と話し始めたり、城門をくぐったりと、自由に動き回った。


一方で、内向的な性格の結菜は少し緊張しているようだった。

「先生、これって、何か怖いこととか出てきたりしないですよね…?」

翔太は優しく声をかけた。「大丈夫だよ。これは学ぶための空間だから、怖いことはないよ。でも分からないことがあったら、すぐに言ってね。」


結菜が仮想空間に入ると、目の前に広がる城下町の風景に驚きの声を漏らした。初めはおそるおそる歩き回っていたが、町人との会話を通じて徐々にリラックスし、気づけば町の探索に夢中になっていた。


授業が終わった後、生徒たちは教室に戻り、感想を話し合った。

「城下町って、教科書で見るだけだとイメージしにくかったけど、実際に歩いてみるとすごく分かりやすかった!」

「俺、商人から教わった戦国時代の通貨のこと、覚えちゃったかも。」


翔太は手応えを感じながら、質問を投げかけた。「じゃあ、みんなに聞きたいんだけど、今日の授業で一番印象に残ったことは何?」


生徒たちは次々と手を挙げ、それぞれの体験や気づきを語り始めた。翔太はその様子を見ながら、自分の目指していた「体験を通じて学びを深める教育」が形になりつつあることを実感した。


しかし、全員が成功体験を語ったわけではなかった。ある生徒がぽつりと言った。

「僕、途中で迷っちゃって、あんまり楽しめなかったかも…」


翔太はその意見を真剣に受け止めた。「そっか、それはごめんね。でも、次はもっと分かりやすく案内できるようにするから、一緒に頑張ろう。」


翔太はこの授業が始まりに過ぎないことを痛感した。個々の生徒のニーズに応えながら、より良い授業を作り上げるには、まだまだ工夫が必要だった。


その日の夜、翔太はノートパソコンの前で授業のフィードバックを整理していた。

「次はもっとナビゲーションを工夫しないといけないな。あと、歴史の背景情報を補足できる仕組みも必要だ。」


翔太はメモを取る手を止め、ふと窓の外を見上げた。星空が広がる夜空の向こうに、これから待ち受ける未来への期待と不安が交錯していた。


「まだ道半ばだ。でも、きっとこの方法で生徒たちの可能性を引き出せる。」

翔太の目は、確かな決意に満ちていた。



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