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第二章: メタバース体験会の準備

翔太は塾長からゴーサインをもらった翌日から、メタバース体験会の準備に取りかかった。まずは仮想空間のプラットフォーム選びから始めたが、選択肢の多さに驚かされた。


「どれも一長一短だな…」

翔太はノートパソコンの画面を見つめながら独り言をつぶやいた。リアルなグラフィックを誇る海外製のプラットフォームは魅力的だったが、コストが高く、日本語対応が不十分なものも多かった。最終的に選んだのは、比較的安価で教育機関向けにカスタマイズ可能な国産のプラットフォームだった。


「これなら、保護者や生徒にも分かりやすいし、導入コストも抑えられるはず。」

翔太は自信を持って決断を下し、さっそく試作品を作り始めた。


塾の一室に、翔太が選んだVR機材が運び込まれると、講師たちも興味津々で集まってきた。特に、由美は初めて見る機材に目を輝かせていた。


「これがメタバースの世界に入るための機械なんですね!すごい、本当に未来みたい!」

「そうだよ。ちょっと試してみる?」翔太が手渡したVRゴーグルを受け取ると、由美はすぐに装着した。


「うわっ!これ、本当に中に入ったみたい!目の前に広がるのが…これ、宇宙?」

由美の声に他の講師たちも興味を引かれ、次々とゴーグルを試し始めた。


田中は腕を組んだままだったが、興味がないわけではなさそうだった。

「ふむ、確かに視覚的なインパクトはすごいな。ただ、これで本当に授業ができるのか?」


翔太は落ち着いて答えた。「もちろんです。これはあくまで一部の体験で、授業ではもっと実用的な使い方をします。例えば、歴史の授業なら戦国時代の城下町を再現して、当時の生活を体感できるようにします。」


田中は少し納得したように頷いた。「なるほど、具体的なシナリオがあるなら良いだろう。ただ、うちの生徒たちが集中力を持続できるように工夫が必要だな。」


数週間後、ついに保護者向けのメタバース体験会が開かれる日がやってきた。塾の講師たちは、翔太のリーダーシップのもと、会場設営や機材のチェックを念入りに行った。保護者が到着する頃には、塾の一室はまるで未来の教室のように生まれ変わっていた。


「本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます!」翔太は緊張しながらも、はっきりとした声で挨拶を始めた。「今日は、このメタバース授業の可能性を皆さんに直接体験していただきたいと思います。」


保護者たちは最初、警戒した様子で座っていたが、実際にゴーグルを装着し、仮想空間の体験を始めると、次第に表情が和らいでいった。


「これが未来の教育なんですか?確かにすごいですね…」ある母親が感嘆の声を漏らした。


ただ、一部の保護者は慎重な態度を崩さなかった。

「確かに面白いですけど、これが学力向上にどう繋がるのか、もう少し具体的な説明が欲しいですね。」


翔太はその意見に真摯に向き合いながら、「このプログラムでは、体験を通じて記憶に残る学びを提供します。試験対策用の問題演習もVR空間内でできるようにする予定です」と説明した。


体験会が終わる頃には、半数以上の保護者が賛成に回っていた。しかし、残りの保護者の心を動かすには、さらなる説得と実績が必要だと翔太は痛感していた。


「これでスタートラインには立てた。でも、これからが本当の勝負だ。」

翔太は夜空を見上げながら、次なる一手を考え始めた。

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