小林塾長が翔太の提案を受け入れた翌週、塾の会議室には、翔太と数名の塾の講師たちが集まっていた。簡素な木製テーブルの上には、翔太が持参したノートパソコンや資料が並べられている。久しぶりに塾の中に活気が満ちていた。
「今日は、翔太が提案している『メタバース授業』の具体案を話し合いたいと思います。」
小林塾長が静かに話し始めると、全員の視線が翔太に集まった。
翔太は少し緊張しながらも、資料を投影し説明を始めた。
「まず、メタバースを活用した授業ですが、これは仮想空間で学ぶ新しい形の教育です。例えば、生徒たちはVRゴーグルを装着して、古代エジプトのピラミッドを探検したり、宇宙空間を飛び回ったりできます。体験型の学びは、教科書だけでは得られない感動や理解を与えられるんです。」
参加者の中で一番若い講師、由美が手を挙げた。
「それってすごく面白そうですけど、VRゴーグルとか設備にお金がかかりませんか?」
翔太は頷いた。「確かにその通りです。でも、初期投資を最小限に抑える方法があります。まずは数台の機材を購入して、体験会のような形で始めます。そして興味を持った家庭には、月額の授業料を少し上乗せしてもらう形で運営資金を確保することも可能です。」
「設備費の話はまだ理解できますが、うちの生徒たちがちゃんと使いこなせるか不安です。」
ベテラン講師の田中が厳しい表情で口を開いた。
翔太はスライドを切り替えながら答える。
「その点については、事前に体験のワークショップを実施して、使い方をしっかり教えます。それに、技術に不慣れな子でも直感的に操作できるデザインのプログラムを選ぶ予定です。」
小林塾長は翔太の話を黙って聞きながら、腕を組んで考えていた。確かに夢のある提案だが、この塾が抱える現実的な課題を忘れるわけにはいかない。
「翔太、良い案だとは思う。でも、君が言う通り設備費や授業料の問題は避けて通れない。そして何より、保護者たちの理解を得られるかが鍵だ。」
翔太は深く頷いた。「はい、塾長。そのためにも、まずは試験的なプロジェクトとして保護者説明会を開催しようと思います。メタバースの体験デモを見てもらって、直接話をする機会を作るつもりです。」
小林塾長は少し驚いた顔をした。翔太の用意周到さと行動力に感心しつつも、同時に彼の若さ特有の熱意に期待を抱いていた。
「分かった。まずは試験的にやってみよう。ただし、説明会の準備は入念に行うこと。そして、実際に授業が始まるまでの計画をしっかり立ててくれ。」
「ありがとうございます、塾長!」翔太は勢いよく頭を下げた。
こうして、小さな塾の新たな挑戦が始まった。だが、この挑戦にはまだ多くの課題が待ち受けている。翔太と塾の仲間たちがどのようにして乗り越えていくのか――その物語が今、動き出した。