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第五十二話

 風のバリアを解くと、その解除された瞬間生まれた隙間に如意棒を伸長させ、山田の心臓部を精巧に狙う。

 その攻撃を予想していたのか、ガードしようとする。しかし。それだけでは終わらない。

 寸前で直角に曲げ、肺部分をその高速伸長の勢いで刺突。

 予想外の動きをする如意棒に困惑する山田であったが、何とか足を動かし距離を取ろうとする。

「んなの許すかってんだよ!!」

 今まで直線にしか動くことが出来なかった如意棒を、無限に乱反射、一部分を増殖させ、無限に伸長させ逃げ場を失わせる。

 逃げども逃げども、乱反射し追跡ホーミングする如意棒。地面に無数のスーパーボールを叩きつけた時のように、一切予測不可能な跳弾に似た軌道で、山田を付け狙う。

 ただ宙で反射したかと思いきや、反射によって軌道が変わった先端同士が乱反射しあい、透にすらコントロール不能な無差別超広範囲攻撃が襲い掛かる。しかも、それらが別方向に行きはするものの、結果的に一点に集結する。四方八方、逃げ場の存在しない跳弾地獄である。

『クソッ……!』

「もう様子見なんてさせるかよ。判断が鈍っているうちに……獲物は叩くべきだろ!!」

 山田が気付くと、無数の如意棒による二人を包み込む簡易的なドームが出来上がっており、その外側には脱出を絶対に許さない乱気流の壁を作り上げていたのだ。

『なぜ……ここまでの力が――!?』

「知ってんだろ、俺ら英雄の土壇場、そのイカレ具合をよ」

 浅く踏み込み、風のエネルギーを扱い急速で山田の懐に入り込む透。そこからインファイトを何度も仕掛ける。

 山田は何とかして一矢報いようとしたものの、それは透の周りに張られている『薄風の鎧』に阻まれる。手を出そうものなら、その攻撃された部位を素早く修復、そして斬撃の性質を乗せた風が害するものの腕部を情け容赦なく切り刻む。さながら斬撃版の反応装甲である。

 しかし遠くに逃げることもできない。乱気流の壁が張られている中、『薄風の鎧』以上に斬撃の性質を乗せた高密度のエネルギー流が何をもたらすか。ミンチ肉の出来上がりである。

 ガードか捌きか避けるか。その三択しか存在しないのだ。

「俺らは……己がプラスの『願い』や『欲望』のために……そして『誰か』のために戦い続ける。そんでもって成長し続ける。限界なんて――俺たちが決めねえかぎりねえのさ」

 透の拳は通り、山田の拳は理不尽に防がれ、さらなる攻撃が襲う。

 今まで侮っていた相手に牙を向かれる、まさに『窮鼠猫を噛む』状況というものは、こういう状況を指すのだ。

(不味い……不味い不味い不味いィィッ!!)

 心が敗北を感じてしまった瞬間、山田の足は乱気流の壁の方へ無意識的に向かっていたのだ。

「どのみちチェックメイトだってのに……分かったよ、これで決めてやる!!」

 そんな隙など一切許さないように、脚部に風の力を集中、そして一息にその場を跳躍。ドライバー左側を押し込み、目をぎらつかせるのだった。

「今なら……すげえことが出来そうだ!!」

『このまま……終わらせてたまるか!!』

 山田もまたチーティングドライバー上部を押し込み、両者必殺技を出す待機状態に入った。

『必殺承認! 永遠に終わらない身外身たちの宴シンガイシン・フィーバーナイト・フォーエバー!!』

『Killing Engine Ignition』

 山田は渾身の一撃を乱気流の中叩き込もうとするも、それは透の分身。無限に存在する透の分身のうち、一択を消したのみ。

「「「「「悪ィな……あと本物が最悪分かるまで……九百九十九択なんだわ」」」」」

『ち、畜生めがァァァッ!!』

「「「「「丁寧に択潰してみんのもいいんじゃあねえか? ブルートフォースとか言ったか、虱潰しってのも、地道だが案外効率的かもだぜ!!」」」」」

 九百九十九人の透が次々に飛び蹴りを放ち、本体である透が最後のとどめの飛び蹴りを放つ、まさに今の透の集大成。高速道路のコンクリすら易々と切り刻む、破壊力の権化。

 叩きつけられた山田は、全身数十か所が粉砕骨折するほどの、数十トンの衝撃をもろに食らったのだ。

「――少しは、俺と『孫悟空』が構成した夜会パーティー、楽しんでもらったかよクソ野郎」

 デバイスドライバーには、怪人への勝利を意味する『GAME CLEAR!』の文字が表示されていた。

 こうして、天音透対山田盾一の戦いは、金欲しかない、言い換えれば胸に抱く矜持が貧弱な山田を超え、英雄としての『本当の願い』に礼安の助力ありながら気付くことが出来た、透の快勝にて幕を閉じることと相成った。


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