「あれって確かこいつらが指名手配してた英雄たちだ!」
「ナイスタイミングが過ぎる!」
「こんな奴ら倒しちゃってー!」
「英雄頑張れ!!」
多くの人々から溢れ出る英雄コール。まさに期待されている証しであった。悪い気はしない、といった喜びの表情が、丙良から漏れだしていた。
しかし、忘れてはならない。いくら英雄だろうと、つい先ほどまで彼女たちを犠牲に生きながらえようとしていた、薄汚い精神を持った存在ばかりであることを。
それでも、彼らの存在は礼安たち英雄にとって、何物にも代えがたい存在である。それが、ドライバーによって変身した際、生まれる装甲の強度や戦いの中での強さに関わってくる。
単純に、彼らが応援されていればされているほど、彼らは強くなるのだ。
「そう長いこと喜んではいられないかもよ、丙良君。誰かは知らないけど、仲違いした怪人の一人、結構深手を負っているっぽいから」
誰か、というのをすぐ察知したのは礼安と院、クランであった。
「……院ちゃん、あの人、シスターの人だよ」
「分かっていますわ、色々、あったので」
ぎろり、とクランを睨み付ける院。その突き刺さる視線にいたたまれない気分になるクランであった。
「……その際は、足止めだけと命じたんだが……許してくれとは言わないが、申し訳ない……事実だからな」
怒りの色を一切隠すことなく、フォルニカは声を張り出す。
「よォ、人質持ってこっちから出向こうとも思ったんだが……来てくれて清々したよ」
礼安はそんなフォルニカに対して、やはり顔をしかめた。しかし、これは不快感によるものでは無く、疑念によるものであった。
(……やっぱりだ、あの時と『違う』)
そんな礼安の横顔を見て、クランはどこか厳しかった表情が緩み、安心しているようであった。最初出会った初心者ですらなかった姿が、かつての英雄とともに戦う一人の「ヒーロー」として見えたのだ。
しかし、そんなことはお構いなしと言わんばかりに、フォルニカは英雄たちを巻き込んで、大衆の好奇心を煽り立てる。
さながら、あの時の大会MCのようであった。礼安と丙良には『あえて』そうしたと分かるように。実際、二人はすぐに勘付いた。声の色が、全く持って一緒であったのだ。
「代表戦、と洒落込もうか皆ァ! 一対五でリンチしてもかまわないが、それじゃあ
その声は、人々の心を的確に打つ。打てば響く、音叉のように。スクランブル交差点中心点から人から人へと伝播する。やがてそれは、フォルニカたちを気味悪がった警官たちすらも巻き込んでいく。まるで、洗脳されていくように。
狂ったように礼安たちを戦いの場へと煽る、今まで正気だったはずの大衆。
「……気味が悪い、これは。よく分からない洗脳電波でも流しているってのかい?」
「だったら、我々はどうなる。現にそうなってはいないではないか」
むう、と口をとがらせる丙良。エヴァはそんなフォルニカを見て、礼安同様何かに勘付いた様子であった。
「……ふぅん、これは私の中の因子にある程度守ってもらわなかったら……気持ち悪くって適わないなぁ」
思い通りになるようでむず痒い気分ではあったが、礼安たちは動かざるを得なかった。
前方に歩を進めた、その時であった。
ひとりひとりが、黒の壁で分断されたのだ。音もなく、誰に気づかれるわけでもなく。
しかし、礼安だけは一瞬の間に院にあるものを手渡す。何のことかわからなかったものの、院はその物を見て理解した。
誰かに「頑張って」なんて言葉などかけられる余裕もなく、五人の英雄は完全に孤立させられてしまった。
多くの人が熱狂する渋谷・スクランブル交差点の空中、その中心地に
「さぁ、
人々の狂声と共に、最悪の対抗戦が始まった。