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第12話 巨乳と泳ぐ

 白いビキニを着た巨乳美少女の綿丘さんは、勝負を終えて放心しているようだった。

 そんな姿がとても色っぽい。

 プールにいる男性たちの注目を浴びている。

 いつまでもこうして突っ立っているわけにはいかない。


「せ、せっかくだから、泳いでいこうよ?」と僕は誘ってみた。

「わたし、水泳は苦手なの」と綿丘さんは答えた。


「お、泳げないの?」

「少しは泳げる。息継ぎができないの。だから長い距離は泳げない。ちょっと水が怖い」

「そ、そうか。無理強いはできないね。じゃあ、僕たちも帰ろうか」


 綿丘さんは首を振った。


「わたしはプールサイドで見てるから、小鹿くんは泳ぎなよ」 

「ぼ、僕だけ泳ぐなんてできないよ」

「いいから泳いでよ。小鹿くんが泳ぐところを見てみたい」


 それなら少しだけ泳ごうかと思って、僕は水の中に入った。

 運動をするのは好きだ。水泳も嫌いじゃない。

 僕は25メートルプールをクロールで泳ぎ、ターンして戻ってきた。

 プールの縁に立って、綿丘さんと目を合わせる。


「小鹿くん、水泳がうまいのね。すごく綺麗なフォームだった」

「て、適当に泳いでいただけだよ」

「そうなの? すいすい泳ぐから見惚れちゃった。もっと泳いでよ」


 そういうことなら、ここで運動させてもらおう。

 僕はクロールでプールを往復した。

 身体を動かすのは気持ちがいい。

 一気に200メートルくらい泳いだ。

 10分間の休憩タイムを告げる放送が流れて、僕はプールサイドにあがって、綿丘さんの隣に座った。


「いいなあ、魚みたいに泳げて。うらやましい」

「さ、魚みたいには泳げないよ」

「わたしから見ると、小鹿くんは魚みたいなの」

「そ、そう?」

「わたしも泳げるようになりたいなあ。今年の夏は海に行きたいし……」

「れ、練習すれば、泳げるようになるんじゃないかな」


 綿丘さんは僕の目をじっと見つめて、「教えて」と言った。

「えっ?」

「水泳を教えてよ、小鹿くん」

「ぼ、僕の泳ぎ方は自己流なんだ。水泳部に入っていたわけじゃないし、水泳教室で習ったこともない。人に教えるなんて無理だよ。しょ、初心者向けの水泳教室とかで教えてもらうといいんじゃないかな」


 彼女は首を横に振った。

「わたしは小鹿くんに教えてもらいたいの」

 そこまで言われてしまうと、断ることはできなかった。


 休憩タイムが終わって、僕と綿丘さんはプールの中に入った。

 水深の浅い赤台コースというのがあって、さいわいそこで泳いでいる人はいなかった。


「こ、ここなら浅くて、溺れる心配はないと思う。ここで練習しよう」

「うん」

「す、少しは泳げるんだよね。泳いでみてよ」

「いきなり泳ぐのは怖い」

「そっか。ど、どうすればいいのかな。ふ、縁を手で持って、バタ足でもしてみようか」


「手を握って」

 綿丘さんは僕に向かって両手を差し出した。

「両手を握っていて。そうしてくれたら、わたしは安心して泳げると思う」


 えっ、綿丘さんの手を握るの?


 どうしたらいいのかわからなくて、僕はしばらく固まった。

 公営プールで女の子の手を握ってもよいのだろうか。

 人前でイチャイチャしていることにならないだろうか。

 そんなことを考えたけれど、差し出された両手をいつまでも放置しているわけにはいかなかった。


 僕は綿丘さんの手を握った。

 柔らかくて、少しひんやりしていた。

 彼女は僕の両手をぎゅっと強く握り返した。


 僕は綿丘さんと両手をつないだまま、赤台コースを後ろ歩きした。

 彼女は顔を水につけて、バタ足をした。

 美しいふくらはぎがせわしなく動いて、水を打ち、しぶきをあげた。


 5メートルほど進んで、僕は立ち止まり、綿丘さんはぷはっと顔をあげて、水底に足をつけた。

「えへっ、いい練習……」

 彼女はにっこりと微笑んだ。

「そ、そうだね」

 これがいい練習なのかどうかはよくわからないが、綿丘さんが満足しているのなら、僕としては文句はなかった。

 ただ、監視員やプールにいる男性たちが異様にじとっとした目で僕たちを見ているようで、落ち着かなかった。


「せ、せっかくだから、息継ぎの練習をしてみよう。泳ぎながらときどき顔をあげて、い、息をしてみてよ」

「わかった。やってみる。絶対に手を離さないでね」

「離さないよ」


 僕はまた後ろ歩きをした。

 綿丘さんはバシャバシャと水しぶきをあげてバタ足をした。

 彼女はなかなか息継ぎをしなかった。

 大丈夫かなと心配になったとき、水につけていた顔を激しく水面上に出して、ぶはっと大きく口を開けた。

 そのとき一緒に乳房がぷかっと浮かびあがって、水面にふたつの大きな波紋を生んだ。


 綿丘さんが泳ぎ、懸命に息継ぎをしていると、彼女の乳房はまるで胸に寄生したふたつの軟体動物のように自由自在に揺れ動いた。

 僕の目はどうしようもなくそこに惹きつけられた。

 監視員もプール全体を監視する役目を忘れて、こちらを凝視していた。

 他の男たちも泳ぐのをやめて、恍惚とした表情で綿丘さんの胸をみていた。

 女の人たちは男たちの反応にあきれているか、無視して自分の泳ぎに集中しようとしているようだった。

 綿丘さんは明らかに公営プールの日常的な営みを乱す異物だった。


 肩身の狭い思いをしながら、僕は赤台コースで彼女の水泳の練習につきあった。

 ずっと手を握り、後ろ歩きをしながら、何回もコースを往復した。

 20分ほどその練習をつづけて、いったんプールサイドにあがって休憩した。


「なんか泳げるような気がしてきた」

 綿丘さんは太陽の光を反射してきらきらと輝く水面を見つめていた。

「そ、そう? 自分の力だけで泳いでみる?」  

「うん。やってみる」


 彼女はまたプールに入り、バタ足で泳ぎ始めた。

 ぷはぷはと不器用な息継ぎをしながら、彼女は一生懸命に泳ぎ、少しずつ進んだ。

 ビーチボールみたいな胸が水流をかき乱す。


 僕は幼子を見守る母親のような気持ちになった。

 綿丘さん、がんばれ……!

 太陽が一瞬雲間に隠れ、再び現れて、プールを明るく照らした。

 綿丘さんは足をつかずに、25メートルを泳ぎ切った。


「やったよ、小鹿くん! 泳げるようになった! 初めて息継ぎができた!」と彼女は叫んだ。

 僕は拍手をした。

 監視員も拍手をした。

 男たちや女たちもぱちぱちと手を叩いて、拍手はプール中に広がった。 

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