綿丘さんのでかい胸を両手でつかむ。
手のひらをめいっぱい広げても、乳房全体をつかみ取ることはできない。
たっぷりと余ってはみ出している。
手に力を加えると、胸はくにゃりとつぶれて形を変える。
10本の指をもみもみと動かす。
ほわほわでぷにぷにのふたつの膨らみを揉む。
柔らかくて気持ちいい……これ好き……。
彼女は熱っぽい目で僕を見て、唇を微かに開き、ほうっと息を吐いた。
僕は綿丘さんの色っぽい顔に魅せられて、胸の感触にしびれて、ぼおっとした。
「もっと揉んでいいのよ。小鹿くんならわたしになにをしてもいいの。制服とブラが邪魔かしら?」
なにをしてもいいの?
昨日知り合ったばかりだというのに、僕になんでも許してくれる甘いカノジョ。
三次元にこんな女の子が実在したなんて……。
制服とブラが邪魔?
確かに布がなくて、肌に直接触れることができたら、僕はもっと気持ちよくなれるだろう……。
校庭では昼食を終えて遊んでいる生徒たちがいて、笑いさざめいている。
どこかから金管楽器の音が聴こえる。
吹奏楽部の生徒が昼練をしているのだろう。
屋上には春の風が吹き、僕はクラスメイトの女の子の胸を揉んでいる。
「はぁん……」と彼女は吐息を漏らす。
はっと我に返り、僕は綿丘さんの胸から手を離した。
ここは学校……!
「わ、わ、綿丘さんの胸は素敵だけど、が、学校でこんなことをしてたらだめだよ」
「そうね……。誰かに見られたら、確かにちょっと困ったことになるかもしれないわね」
「て、停学とかになるかもしれない」
「うん。じゃあ今度、どこか別の場所でつづきをしようね」
「……!」
つづきさせてくれるの?
世の中の女の子って、こんな感じのゆるさだったっけ?
それとも綿丘さんが特別に僕に甘いのかな?
たぶんそうだと思う。
僕はものすごく稀少で特別な女の子に出会ったのだ。
そうだとしか思えない。
僕たちは並んで階段を下り、廊下を歩き、1年1組の教室に戻った。
綿丘さんは平然となに食わぬ顔をしていたけれど、僕の顔は紅潮していたかもしれない。
屋上での出来事が頭から消えず、何度も思い返していたから。
手のひらがあの天上のマシュマロみたいな感触を覚えている。
綿丘さんが席に座ると、女子生徒たちが数人、彼女を囲んだ。
「ねえ綿丘さん、どこに行ってたの?」
「小鹿くんとなにしてたの?」
「綿丘さんと小鹿くんって、つきあってるの?」
「綿丘さんいい匂いするね。香水使ってるの?」
「胸おっきくてうらやましいな。なに食べるとおっきくなるの?」
女子たちは綿丘さんを質問攻めにした。
「屋上」
「お弁当を食べてた」
「つきあってるよ。小鹿くんはわたしのものだからね」
「香水……ちょっとだけだよ」
「胸の大きさは遺伝かなあ。お母さんも大きいから」
綿丘さんはけっこうフレンドリーで、ていねいに受け答えしていた。
彼女の周りはガールズトークで大いに盛りあがった。
僕の横には高山くんがやってきた。
「高校入学早々、小鹿は薔薇色の日々だな」
「そ、そうだね」
「綿丘さん、たぶんこの高校でナンバーワンの美少女だぜ」
「な、ナンバーワンかどうかはわからないよ。か、可愛い女の子は他にもいるんじゃないかな」
「あそこまで綺麗な子はそうそういないよ。それにあの胸。どこぞのグラビアアイドルか、エロマンガのヒロインかってくらいじゃん」
「エ、エロ……また綿丘さんに殴られるよ」
「いまは聞こえてないだろ」
綿丘さんはクラスメイトと談笑していた。
明るい笑い声を立てている。
彼女はクラスの人気者になりそうだな、と思った。
あんなに魅力的な女の子が僕のカノジョだなんて、やっぱり信じられなかった。
信じられないけれど……綿丘さんは僕のカノジョとして振る舞ってくれて、翌日の昼休みも屋上へ行った。
ふたりきりでお弁当を食べていると、かっかっと足音が近づいてきて、誰かの影が弁当箱に落ちた。
またすみれかなと思ったけれど、そうではなかった。
知らない顔の女の子が僕の背後に立ち、アーモンド型の目を綿丘さんに向けていた。
身長は僕よりも低く、150センチくらい。
長い髪の毛を明るい茶色に染め、ピンクのリボンでツーサイドアップに結んでいる。
制服のプリーツスカートは極端に短い。
綿丘さんとはタイプがかなりちがうけれど、人目を引きそうな美少女だった。
「わが宿命のライバルきらりよ」
ツーサイドアップの女の子はいきなりそんなことを言った。
綿丘さんは露骨に嫌そうな表情をした。
「寿限無、高校ではおまえとつきあいたくない」
「そっちの名で呼ばないで~。可愛くないから!」
「……ミチル、もうくされ縁は終わりにしよう。おまえとは距離を置きたい」
「つれないことを言わないでよっ!」
その女の子は1年3組の寿限無(じゅげむ)ミチルと名乗った。
綿丘さんとは同じ中学校に通い、3年間同じクラスで、どちらがより美しいかを競った仲だそうだ。
こんなやつとそんなアホなこと競ってないよ、と綿丘さんは即座に否定したけれど。
「女にとって美は永遠のテーマ。無関心ではいられない。そしてきらりは美しい。私と比肩するほどに」
「アホらし……」
「きーっ! きらりは私のことをライバルだと思ってないの? 私可愛くない?」
「あー、可愛い可愛い」
「私の扱いが軽い! ひどいよー」
寿限無さんは頬をぷくっと膨らませた。
「ねえ、あなただって、私を可愛いと思うでしょ? 私可愛いよね?」
僕に向かってそんなことを言う。
すごく自己肯定感が高い女の子だな。うらやましい。
寿限無さんと目を合わせると、彼女は驚いたように大きく目を見開いた。
「あれ? あなたもすごくカワイイわね。綺麗な顔してる。女の子みたいにカワイイ」
「ミチル、小鹿くんに近づくな!」
「あれーっ、この男の子、きらりの彼氏なの?」
「そうよ! 小鹿くんはわたしのものだからね! 絶対にちょっかい出さないで!」
「ふうーん、どうしよっかな~?」
寿限無さんは僕と綿丘さんの周りを踊るようにくるりとめぐった。
「そうだ、いいこと思いついた! 私ときらり、どちらが美しいか、この子に決めてもらおうよ」
「またアホなことを言い出した……」
「小鹿くんって言うの? 私ときらり、どちらが綺麗?」
寿限無さんは確かに可愛い。
小柄でキュートで元気がよくて。
人によっては綿丘さんより寿限無さんの方が綺麗だと言うかもしれない。
でも僕は僕を好きだと言ってくれた綿丘さんが好きだった。
「綿丘さん」と僕ははっきりと答えた。
その瞬間、僕のカノジョの顔が真っ赤に染まった。
「うわ……めっちゃうれしい……!」
綿丘さんが喜んでくれたみたいで、僕もうれしくなる。
「即答されてしまった……」
がくっと寿限無さんはうなだれた。
しかし彼女は打たれ強いのか、すぐに顔をあげた。
「きみはきらりの胸に篭絡されているんじゃないかな。そうだ、そうにちがいない!」
「ろ、篭絡って……」
「巨乳は確かに素晴らしい。男の子にとっては高い価値を持つものよね。それは否定しない。でも至高の胸は巨乳じゃない!」
寿限無さんは綿丘さんの胸を指さして、左右に首を振った。
「もっとも魅力的なのは美乳! 大きすぎるのはだめだと思う。私の胸は美乳よ。そこをしっかりと評価してほしい」
寿限無さんは両手を腰に当てて、身体をそらし、コンクリートの床に座っている僕を見下ろした。
彼女の胸は適度に制服を盛りあげていた。その膨らみは小さくはなく、かと言って大きすぎることもなかった。
短いスカートから伸びる脚は文句なしに美しく、絶妙な曲線を描いている。
確かに綺麗な女の子だ。
「私ときらり、どちらが美しいか……?」
「僕は綿……」
「ちっちっち! すぐに答えを出さないでほしいなあ」
寿限無さんは僕の言葉にかぶせて話しつづけた。
「ミチル、しつこいよ!」
「すぐに答えられちゃったら、私の方が不利じゃんか。私のこともしっかりと見て、どちらが美しいか判定してもらいたいなあ」
「ミチル、うざい!」
「そうだ、いいこと思いついた! 温水プールに行こうよ! 私の美乳ときらりの巨乳を見比べてもらおう。その上でどちらがより美しいか決めてよ、小鹿くん!」
寿限無ミチルさんは本当にアホの子かもしれない。
プールで対決なんて発想がぶっ飛んでいる。
それでも僕は、綿丘さんの水着姿を見たいと思ってしまったのだった。