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第5話 巨乳を揉む

 昼休みになった。

 僕が自分の席でお弁当を食べようとしていると、綿丘さんがやってきた。


「小鹿くん、一緒に食べよう?」

「う、うん」

「ふたりきりで食べたいな。屋上へ行こうよ」

「ふ、ふたりきり? い、いいけど……」


 可愛い声で誘ってくれて、正直言ってとてもうれしい。

 でも周囲の目が痛かったりする。

 クラスメイトの男子たちは殺気を込めた視線を投げかけてくるし、女子たちは好奇心をあらわにして僕たちを見ている。

 彼女が歩くと、柔らかくてとびきり大きな胸がぷるんと揺れる。


 屋上へ行くと、爽やかな春の風が吹いていた。

 そこには誰もいない。僕たちふたりきりだ。

 コンクリートの床にぺたっと座り、綿丘さんは僕に笑いかけてくれた。

 ぱっちりとした大きくてつぶらな目。厚みのある桜色の唇。

 彼女は本当に美人で色っぽい。

 見惚れて、巨乳にも目が行ってしまう。それは不可抗力だ。


 僕たちはお弁当を食べ始めた。

 彼女は積極的に話しかけてくれた。

 僕の卵焼きに興味を示したので、どうぞと言って進呈した。


「小鹿くんの卵焼き、甘くて美味しいね」

「お、お母さんがつくってくれたんだ」

「小鹿くんのお母さん、料理上手なのね。いいなあ。絶対にかなわないけれど、わたしの卵焼きも食べてみない?」

「う、うん。じゃあもらおうかな」

「あーん」


 綿丘さんは箸で卵焼きをつまんで、僕の口の前に運んだ。


「ちょ、ちょっと恥ずかしいよ」

「誰も見てないよ。あーん」 

「あーん……。あ、美味しい。出汁巻き卵だね」

「わたしが自分でつくったんだよ」

「わ、わ、綿丘さんの手づくり? すごく美味しいよ!」

「ありがとう」


「あたしが見てるんだけど」


 背後から声がして、振り返るとすみれが立っていた。


「あなたたち、なにやってるの? 学校でイチャイチャしないで!」

「ストーカーがいた……」

「ストーカーじゃない! ふたりが屋上へ行くのを見かけたから、気になってついてきただけ」

「それ、ストーカー以外の何者でもないから。わたしたちふたりの時間を邪魔しないで」

「あたしのカナタを取らないで!」


 また綿丘さんとすみれが言い争いを始めてしまった。

 綿丘さんはすり寄ってきて、僕の左腕にしがみついた。


 ふよよ~んと当たっている。

 くらくらしてしまう甘美な感触……。


 すみれが対抗して、僕の右腕に抱きついてきた。 

 そちらも胸が当たっているはずだが、ソフトな感触は極めて乏しい。

 すみれは貧乳なのだ。

 女の子らしい柔らかさはもちろん多少はあるのだが、綿丘さんと比べると雲泥の差だ……。


「小鹿くんはわたしのものよ」

「色香だけで誘惑しないで!」

「色香だけじゃないけど、そういうのも大切よ。男女は惹かれ合い、いずれ肉体の関係を持つ。お互いのカラダに興味があるのは自然なことだわ」

「にっ、肉体の関係?」

「わたしと小鹿くんは恋人同士だもの。そのうちにそういう関係になると思う。いいよね、小鹿くん?」

「あ、は、はい。わ、わ、綿丘さんさえよければ……」


 僕はそう答えてしまった。

 巨乳美少女から誘惑されて、断われる男子高校生はいないと思う。


「うぐ……巨乳が憎い……」

「貧乳でも需要はあると思うわよ。あなたけっこう可愛い顔してるもん。小鹿くん以外を当たってね」

「どうしてカナタなの? あなたくらい綺麗なら、よりどりみどりなんじゃないの? あたしにはカナタしかいないの! 小学生のときから好きだったのよ。あたしに譲ってよ!」


 すみれは悲痛な表情でそう言った。

 そんなに僕を好きだったの?

 ずっとさっぱりしたつきあいだったからわからなかったよ。


「遅かったわね。小鹿くんは渡さない。あなたがぐずぐずしてたから悪いのよ」

「なんでカナタなのよ?」

「わたしは童顔でちっちゃい男の子が大好きなの。小鹿くんはどストライク。こんなに好みの男の子は他にいないわ」

「要するにルックスなの?」

「初めはそうだった。いまは内面も好きよ。内気でおとなしいけれど、芯はしっかりしているところ。他人を思いやれるやさしいところ。わたしの料理を素直に褒めてくれるところ」

「当たっているけど! カナタはしっかりした男の子でやさしくて素直だけど! あなたに言われるとムカツクーっ! あたしの方がカナタのいいところ百万倍も知ってるもん!」

「百万倍は知らないでしょ」

「それだけ大好きだって比喩なんだってば! とにかくカナタから離れてーっ!」

「イヤ」


 綿丘さんは僕の腕にさらに強く巨乳を押しつけてきた。


「うぎゃーっ、くそ~、あたしはあきらめないからな~」


 すみれは号泣して、嵐のように屋上から走り去った。


「楽しい幼馴染さんね。ストーカーされるのは困るけど」

「い、いい子なんだよ」

「そうでしょうね。あの子からは小鹿くんへの純粋な好意を感じるわ」

「ほ、本当に僕のことを好きだったなんて……」

「小鹿くんの恋人はわたしよ。いまさらあの子のところへは行かないでね」

「うん……」


 すみれは大切な幼馴染。

 綿丘さんは「小鹿くんの全肯定カノジョになりたい」とまで言ってくれた女の子。

 どちらも傷つけたくない。


「わたしもあの子も、ふたりとも傷つけたくないとか思ってない?」

「ちょっとそんなことを考えた……」

「わかりやすい男の子だなあ、小鹿くん。やさしいね」

「…………」

「でもだめよ。わたしを選んだら、あの子は傷つく。あの子を選んだら、わたしは傷つく。世界はそういうふうにできているの。小鹿くんを好きな女の子が、ふたりともしあわせになることはない」

「わかってるよ……」


 綿丘さんは僕の手を取り、彼女の胸へといざなった。

 僕の手のひらは柔らかいすいかに触れた。


「揉んでいいのよ」と彼女は言った。

「でもこれを揉みたいなら、あの子のことはあきらめてね」


 僕は揉んだ。

 柔らかくてふわふわ。

 それでいてぽにぽに押し返してくる妙なる弾力……。

 こんなもの、拒否できるわけがない。 

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