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第2話 貧乳の抵抗

 入学式の日の放課後、僕は綿丘さんと連れ立って校庭を歩いている。


「お昼ごはんを一緒に食べましょう。なにがいいかなあ。小鹿くん、ラーメンは好き?」

「は、は、はい。ラーメンですか。す、好きです」


 相変わらずの吃音で僕は答える。

 歩いていると、彼女のすいかサイズの胸がぶるんぶるんと揺れる。

 でかい……。

 見てはいけないと思いながらも、目を向けずにはいられない。


 どうして昼食を一緒に取ることになっているのだろう。

 あ、僕と綿丘さんがつきあっているからか。


 ついさっき、「わたしとつきあってくれる?」と彼女は言い、僕は「つきあいます」と答えた。


 その「つきあう」は恋人的な「つきあう」なのだろうか。

 それとも「ちょっとごはんでもつきあって」という程度の軽い意味の「つきあう」だろうか。

 よくわからない。


 僕たちは「好きだ」と告白し合ったわけではない。

 そもそも今日出会ったばかりだ。

 僕は綿丘さんのことをなにも知らないし、彼女も僕のことを知らないはずだ。


 知っているのはルックスだけ。

 彼女は巨乳で美人。僕は童顔で背が低い。

 僕は巨乳に圧倒され、彼女は「童顔が好き」と言った……。


 僕と綿丘さんは並んで歩き、学校から出ようとした。

 校門のそばに見慣れた女の子が立っていて、目が合った。


「カナターっ、待ってたよ。一緒に帰ろう」


 僕に話しかけてきた子の名前は、草原(くさはら)すみれ。

 小学生のときから仲のよい幼馴染だ。


 やんちゃな男の子のようだったすみれも可愛らしく成長し、女子高生になった。

 顔立ちの美しさだけなら、綿丘さんにも負けていない。

 綿丘さんは綺麗系、すみれは可愛い系。どちらも美少女だ。

 はっきりと異なっているのは胸の大きさ。

 端的に言うと、綿丘さんは巨乳、すみれは貧乳だ。


 すみれは成長した。

 ただしそれは、胸を除いての話だ。

 胸だけは不思議と成長しない。膨らまない。

 身長は女の子としては高く、170センチ近くあるが、胸は小学生時代と変わらず、ぺったんこのまま。


 すみれは綿丘さんと同じ明応高校のダークブルーの制服を着ている。

 だが、ふたりの様相は大きくちがう。

 綿丘さんの胸は制服をぱつーんと押しあげている。

 だがすみれの胸はなま板のように平らで、制服にはいささかも盛りあがりがない。


 すみれは僕の隣にいる巨乳美少女に気づいたようだ。

 二次元の創作物の中にしか存在しないようなど迫力のおっぱいを、唖然として見つめた。

「すいか……?」とつぶやいた。


「失礼ね。すいかじゃないわ。メロンと言ってよ」

 綿丘さんが反論したが、論点はそこなのだろうか。

「大玉のメロン、小玉のすいかかな」

「それでいいわ」

 それでいいんですか、綿丘さん……。


「ところであなた、小鹿くんの知り合いなの?」

「知り合いなんてもんじゃないわよ。あたしはカナタの幼馴染で親友なの。1年2組の草原すみれよ」

「わたしは1年1組の綿丘きらり。今日から小鹿くんとつきあうことになったから」


 それを聞いた瞬間、すみれの顔が固まった。

「つきあう……? え、なにそれ?」


「つきあうって、彼氏彼女的なつきあう?」

 すみれは僕と綿丘さんの顔を交互に見ながら、誰にともなく訊いた。

「そうよ」と綿丘さんは即答した。


 そうか。やっぱり彼氏彼女的な「つきあう」なのか。

 じゃあこの巨乳ですごく綺麗な女子高生、綿丘きらりさんは僕の恋人ってこと?

 ホントに?

 彼女がはっきりと言っても信じがたい事実だった。

 すみれも驚いて、口をぽかんと開けている。


「カナタ、このすいか女がわけのわかんないことを言ってるけど、本当なの?」

「すいか女じゃない! せめてメロン女って訂正しなさい!」

「どっちだっていいわ! で、この大玉メロン女はカナタのカノジョなの?」

「あ、ああ、僕も信じられないけど、どうやらそうみたいだね。僕と綿丘さんはいちおうつきあっているみたい……」

「小鹿くん、いちおうじゃなくて、わたしたちはきちんとつきあっているのよ!」

「ご、ごめん、綿丘さん……」


 すみれは呆然として、しばらく言葉を失った。


「……どういうことなの? カナタは前からこの小玉すいか女と知り合いだったの?」

「いや、今日同じクラスになって、顔見知りになったばかりだよ」

「それでつきあうって? おかしくない? ふたりともお互いのこと、理解し合ってるの? そんなわけないよね」


 僕は沈黙した。

 確かにおかしいよね、この展開。

 入学式の日、カノジョいない歴が年齢とイコールな僕に、いきなり恋人ができるなんて……。


「なにもおかしくなんかないわ」

 綿丘さんは朗々とした声で言い返した。


「わたしは小鹿くんにつきあってとお願いし、小鹿くんはつきあいますと答えてくれた。ゆえにわたしたちは彼氏彼女。反論は許さない」

「反論するわよ。あなた、カナタのこと前から知っていたの?」

「いいえ、知らなかったわ」

「じゃあなんでつきあってなんて頼んだの? やっぱりおかしいよ。あり得ない」


 綿丘さんは口角をあげて妖艶に笑い、右手の人さし指をすみれに突きつけた。


「ひとめぼれって言葉を知らないの?」


 すみれはまた少しの間、声を発することができなくなった。


「……ひとめぼれ? カナタにひとめぼれしたって言うの?」

「そうよ。悪い?」

「悪くはないけど、カナタにひとめぼれされる要素ある? 背は低いし……」


 おい、すみれ、なにげに失礼なことを言うな。事実でも傷つくんだよ。


「小鹿くんは童顔でカワイイ。ひとめぼれしたっておかしくはないでしょう?」

「確かに可愛い系の男の子だけど……」

「わたしは小鹿くんの顔が好き。ちっちゃくてカワイイところが好き。抱きしめたくなっちゃう。だからつきあってと頼んだの。わかってくれた? わたしたち、これからごはんを食べに行くんだから、もう邪魔しないで」

「顔が好き……?」


 すみれは絶句し、立ち尽くした。

 綿丘さんはごく自然に僕の手を握り、歩いてすみれの横をすり抜けようとした。


「み、認めない! ルックスだけ気に入って、いきなり彼氏彼女だなんて認めない! カナタ、そのビッチと離れて!」とすみれは叫んだ。

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