「巨乳、好きでしょ?」と綿丘(わたおか)きらりさんは言った。
僕は校舎の壁際に追い込まれていて、彼女の綺麗な顔が目の前にあり、柔らかい双丘が僕の胸に押しつけられている。
「わたしはあなたみたいな童顔の男の子が好きなの」
綿丘さんの胸は柔らかくて弾力があって、しかもすごく大きい。果物にたとえるとすいかみたいなサイズだ。
こんな巨乳が三次元(げんじつ)に実在したのかとおののくほどの大きさだ。
「す、す、好きです……」
僕は正直に答える。巨乳が好きじゃない男子高校生なんているだろうか?
「うふふ、よかった」
綿丘さんは花の蜜を吸うアゲハ蝶みたいに微笑む。
「じゃあ小鹿くん、わたしとつきあってくれる?」
柑橘系の甘い匂いが僕の頭をくらくらさせる。
「は、はい。つきあいます」と僕は答えていた……。
そんなことが起こるわけだが、順を追って話そう。
僕の名前は小鹿(こじか)カナタ。
第1志望の明応(めいおう)高校に無事合格し、この春晴れて高校1年生になった。
これから楽しい高校生活を送りたい。
できれば初めてのカノジョをつくりたいと思っているが、僕にはコンプレックスがある。
背が低いのだ。
155センチしかない。
おまけに童顔で、中学時代は「小鹿くんカワイイ」などと女子にからかわれることが多かった。
カワイイなんて言われるのは男子として屈辱だ。
僕は男らしくなって、背も高くなって、青春を謳歌したい。
入学式が終わり、1年1組の教室に入る。
そこで僕は信じがたいものを見た。
巨乳の女子高生だ。
とんでもない胸の大きさ。制服をばいーんと押しあげている。
すいかだ、すいかがふたつある、と僕は思った。
その胸にはものすごい引力があって、目が吸い寄せられた。
明応高校の制服は濃紺のブレザーなのだが、その胸部がぱっつんぱっつんになっている。え、エロい……。
僕はしっかりと巨乳を凝視してしまってから、ついと視線をあげた。
でかい胸を持つクラスメイトと目が合った。
ぱっちりとした大きな目が僕の顔を見つめていた。口元にはいたずらっぽい微笑みが浮かんでいる。
すごく綺麗な顔立ちの女の子だ。巨乳で美人。艶のあるさらさらの黒髪が肩のあたりまで伸びている。
身長は160センチくらいで、僕よりも高い。
彼女はつかつかと僕に歩み寄ってきて、耳元で「えっちね」とささやいた。
うわあ、入学早々やっちまったあ……。
入学式後のロングホームルームで自己紹介をすることになって、巨乳の子の名前がわかった。
「綿丘きらりです。趣味は食べること。特にラーメンが好きで、よく食べ歩きしてます。嫌いなのは胸をじろじろ見られること。おっきいのは自覚してますが、あんまり見つめないでくださいね」
綿丘さんは言い終わると、僕の方をちらっと見た。
やばっ。
胸を見られるのは嫌なんだ。気をつけよう、と思ったが、その瞬間も僕の目は彼女の胸に釘付けになっていた。
いかんいかん。
でも彼女のすいかのような胸を見ているのはもちろん僕だけではなくて、クラスの男子全員だった。
男は女の子のおっぱいが好きなのだ。
巨乳には太陽のように強烈な引力がある。
どうしようもなく惹かれてしまう。
みんながさっと綿丘さんの胸から目を逸らした。
「こ、小鹿カナタです。せ、背が低いのがコンプレックスで、成長したいと思って毎日牛乳を飲んでいるのですが、なかなか伸びません。だ、誰か、せ、せ、背が伸びるいい方法を知っていたら教えてください」
僕はそんな自己紹介をした。
コンプレックスのことなんて言うつもりはなかったのだが、自分の自己紹介の順番が来たら、緊張して上手く言葉が出てこなくって、いつの間にかいつも気にしていることをしゃべってしまった。
僕は男らしくなりたいのだが、実際は逆なのだ。
怖がりで吃音症でチビで女顔でオタク。自分の理想とは真逆の男。それが僕だ。
「小鹿くんカワイイ」という女の子の声が聞こえてきた。
入学式の日に授業はない。
ロングホームルームが終わったら放課後だ。
たいしたことはしていないのになんだか疲れてしまって、早く家に帰ってアニメでも見ようと思った。
だが、教室を出たところで呼び止められた。
「小鹿くん、だったよね」
そう言ったのは、おそらくこの学校でいちばん大きな胸の持ち主、綿丘きらりさんだった。
「わ、綿丘さん……」
僕は彼女の顔を見て、それから思わずたわわな胸も見てしまった。
いけない。彼女は胸を見られるのが嫌いなんだ。
「な、な、なんですか?」
「ちょっと話したいなーって思って。ついてきてくれる?」
綿丘さんはくるりと僕に背を向けて、すたすたと歩き始めた。
拒否することなんてできない。僕は後を追った。
綿丘さんは階段を下り、昇降口で靴を履き替えた。
ひとけのない校舎裏へと僕を連れていって、「ここでいいや」とつぶやいた。
僕と向き合う。
透明感のある美しいブラウンの瞳が僕の目を覗き込む。
本当に綺麗な女の子だ。手足はすらっと長くて、胸だけがぼよよーんとでかい。
いままでこんなに魅力的な子と会ったことはない。
蠱惑的な笑みを浮かべて、彼女は言った。
「小鹿くん、ずいぶんとわたしの胸を見てたよね?」
事実なので否定できない。
「ご、ごめん……」
僕はあやまった。
「いいのよ。きみにならいくらでも見せてあげる。今度、水着姿になってあげようか?」
思いがけないことを言う。
「えっ?」
「巨乳、好きなんでしょ?」
綿丘さんは僕に近づいてくる。
僕は後ずさる。
背中が校舎の壁に当たって、それ以上後退できなくなった。
彼女はさらに接近する。
僕は壁際に追い込まれた。綿丘さんの綺麗な顔が目の前にあり、柔らかい双丘が僕の胸に押しつけられた。
ぷにーん。
僕は生まれて初めて女の子のおっぱいの感触を味わった。
なんだこれなんだこれなんだこれーっ?
や、や、や、柔らかい。ふにっとしているのに、ぽみゅっと押し返してくる弾力がある。
なんなんだこれはーっ!
「わ、わ、わ、綿丘さん、いったい……?」
僕はわけがわからなかった。
僕みたいに背が低くて男性的な魅力皆無の男が、どうして綿丘さんのように素敵な女の子とカラダを接触させているのだろう。
僕が迫ったわけではなく、彼女の方から胸を押しつけてきているのだ。
「わたしはあなたみたいな童顔の男の子が好きなの」
童顔は僕にとってコンプレックスでしかないのだが、綿丘さんはそれが好きだと言う。
柔らかくて弾力があって、すいかみたいに大きな胸をむにゅんとくっつけながら言う。
アニメの中の爆乳少女かと思うほどでかい胸。
「もう一度聞くわ。巨乳、好きでしょ?」
「す、す、好きです……」
僕は正直に答える。
「うふふ、よかった」
綿丘さんは獲物を見つけたスズメバチのように微笑む。
「じゃあ小鹿くん、わたしとつきあってくれる?」
女の子の甘い匂いが僕の頭をくらくらさせる。
僕の理性的な判断力なんてとっくに吹っ飛んでいる。
「は、はい。つきあいます」と僕は答えていた。