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第133話

PM 3:42

市目鯖しめさば高校 化学実験室

心霊同好会のカズヒロ、サエ、シゲミ、トシキが実験用の机を囲んで座っている。



カズヒロ「今度はどこの心霊スポットを探索するか……行きたいところあるー?」



「うーん」とうなり、考え込むサエとトシキ。2人から意見が出そうにないことを察したシゲミが切り出す。



シゲミ「話が逸れてしまうけど、みんなの周りに変わった人いない?」


トシキ「変わった人?」


シゲミ「ええ。特にここ数日で性格や行動パターンが大きく変わった人。何かに取り憑かれてるんじゃないかってくらい異常行動が目立つようになった人、いない?」


カズヒロ「どうだかなぁ……市目鯖の生徒のことを知ってると、ほとんどの人がまともな人間に思える」


シゲミ「そうよね」



カズヒロは両手を頭の後ろに回す。



カズヒロ「でも、場所じゃなくて人を探すってのは新しい試みだなー」


トシキ「面白そうだけど、宛てがないよ。変な人を探して街中を歩き回るのなんて効率悪いし」



トシキの言葉を聞き、サエが何かを思い出したように両手を叩く。



サエ「あっ、うちのクラスにそういうの詳しそうな子がいるよ〜」


シゲミ「誰?」


サエ「浜栗はまぐり ミキホ」



サエが口にした名前を聞き、青ざめるカズヒロとトシキ。



カズヒロ「おいサエ、お前マジで言ってんのかよー?」


トシキ「ミキホちゃんに接触するのは危ないと思う……」


サエ「平気だよ〜。私、たまに勉強教えてもらうことあるし〜」


シゲミ「みんな、ミキホちゃんって子のこと知ってるの?」


カズヒロ「有名だぜー。悪い意味で」


トシキ「現役女子高生にして、600人もの構成員から成る指定暴力団『浜栗組はまぐりぐみ』組長・浜栗 ミキホ。脅迫、闇取引、殺し……黒いウワサが絶えない。その魔の手は市目鯖にも伸びているらしい」


カズヒロ「去年、ミキホにケンカをふっかけた上級生が3人いたんだけど、翌日急に転校しちまったんだ。しかも3人同時に。先生たちも把握してなかったらしい。で、2カ月後に栃木県の山の中でそいつらの腐乱死体が見つかった。警察が犯人捜しを始めたんだが、3日で打ち切られたんだと。マスコミも一切報道しなくなった」


シゲミ「……ミキホちゃんが殺害して、警察とマスコミに圧力をかけて隠蔽したってこと?」


カズヒロ「じゃないかと言われてる。まぁ、あくまでウワサだけど、ミキホに近づくのはヤベーって生徒も教職員もPTAもビビってる」


シゲミ「へぇ」



カズヒロとトシキが話したミキホのウワサを否定するように、サエは右ひじを曲げて顔の前で左右に振る。



サエ「いろいろ言われてるけどさ〜、ミキホって仲良くなると、結構良いヤツなんだよ〜」


トシキ「ああいうゴロツキどもは身内にだけは優しいんだよ」


カズヒロ「とにかく俺はミキホに関わるのは御免だぜー」


トシキ「僕も」



右手でアゴを触るシゲミ。机の上に視線を移して考え込んだ後、口を開く。



シゲミ「私は一度、ミキホちゃんに会ってみたいかな。些細な情報でも持っているのなら、話す価値はあると思う。それに私、ヤクザとか怖くないし」


トシキ「たしかにシゲミちゃんなら何かされても返り討ちにして、死体を山に棲むクマにあげて餌付けして、ペットにしちゃいそうだよね」



シゲミは机に置いていたスクールバッグを左肩にかけて椅子から立ち上がると、サエのほうに視線を向けた。



シゲミ「サエちゃん、紹介してくれる?」


サエ「OK〜。たぶんまだ学校に残ってると思うから、早速行ってみよっか〜」



−−−−−−−−−−



PM 4:06

2年H組教室

教室の黒板に近い扉から入室するサエとシゲミ。窓から夕日が差し込む静かな教室の最後列、窓際の席で机を合わせ、トランプをしている男女がいた。2人とも黒いスーツに身を包んでいる。女性は金髪のロングヘア。男性は黒髪のアイパーリーゼントで、右目の下からアゴにかけて長い切り傷がついている。


サエは男女を指さした。



サエ「いた。あれがミキホ。男のほうは、ミキホの子分のマメオくん」



マメオと呼ばれた男は咥えている紙タバコを右手の人差し指と中指で挟んで口から離すと、ミキホの顔にかからないよう天井を向いて煙を吐き出した。そして再び咥える。



シゲミ「マメオって人、思いっきりタバコ吸ってるわね」


サエ「彼、7回留年してるからとっくに成人過ぎてるんだよね〜。ミキホは私たちとタメだから、タバコもお酒もやってない」


シゲミ「いや年齢関係なく教室って禁煙なんじゃ……まぁいいか。ありがとう、サエちゃん。あとは私だけで大丈夫」


サエ「えっ、でも」


シゲミ「あの人たち、どう見てもカタギじゃない。サエちゃんは聞かないほうがいい話になりそうな気配がする。だから先に実験室に戻ってて」



シゲミに諭され、「わかった」と言いサエは教室から出て行った。ミキホとマメオが座る席に近づくシゲミ。



シゲミ「アナタがミキホちゃん?」



突然声をかけてきたシゲミを、ミキホは大きな目でにらみつけた。

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