目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第130話

怪異研究機関「りょう」跡地 地下30階

金属製の大きな扉の前に立つ、黒いスーツを着た1人の男性。扉の右隅に歩み寄り、センサーに右手のひらをかざす。ピピピッという機械音が鳴り、扉が中央から左右に割れるように自動で開いた。扉の向こうから、緑色の液体が流れ出し、男性の足下を濡らす。


液体が廊下へ全て流れ出たのを確認し、男性は扉の奥へと進んだ。真っ白な壁に囲まれた部屋。床から天井までの高さは10mほど。広さはテニスコートが3つ横並びで入るくらいあるだろう。「魎」が怪異を収容するために作った隔離室の1つだが、他と比べてここは一回り大きく作られている。その理由は、隔離室の真ん中に巨大なガラス製の容器が置かれているため。サイズは中型の6トントラックと同程度。


ガラスの中には、ミミズが幾重にも巻きつけられたような塊が入っている。そこかしこに血管らしきものが走っていることから、臓器であることは男性にも予想がついた。体のどの部位かはわからないが、臓器だけで中型トラック並み。ということは、この臓器の持ち主の全身はその数倍、あるいは数十倍の大きさであることは想像に難くない。


男性は背中に冷や汗をかいているのを感じながら、左耳に装着したハンズフリーイヤホンを手で押さえ、口を開く。



男性「鬼河原おにがわらさん、確認しました。例の肉塊は収容されたままです」



イヤホンから、「魎」創設者である鬼河原 モロの声が流れる。



モロ「その肉塊が入っている容器に損傷はありませんか?」



モロに問いかけられ、男性は容器の周りをぐるっと一周する。ガラスの一部が小さくひび割れているのを発見した。



男性「ガラスにひびが入っています。私が収容室に入るとき、室内が溶液らしきもので満たされていました。おそらく、このひびから漏れ出したのだと思われます。ポコポコが暴れた余波で割れたのでしょう」


モロ「そうですか……非常に危険な状況かもしれません」


男性「危険な状況?何か問題があるのでしょうか?容器にヒビは入っているものの、肉塊自体はここにあります。ということは、ポコポコの養分にはならなかったわけですよね?」


モロ「養分になっていたほうがまだマシでした。すぐに輸送チームを送ります。その肉塊を私の屋敷まで運んでください。輸送する間、ガラスの外には絶対に出さないようご注意を」


男性「……これは一体?」


モロ「ある怪異の脳です。しかし真に重要なのは、その脳の中身」



−−−−−−−−−−



4日後 PM 4:36

学校から帰宅している途中にモロから連絡を受けたシゲミは、彼女の家へと足を運んだ。白い壁面に青い屋根、中世ヨーロッパをイメージさせる巨大な屋敷。キレイに手入れされた芝生と生け垣で囲まれている。


敷地内を徒歩で移動すると時間がかかってしまうためだろう。入口の門でシゲミを出迎えた使用人の老爺は、ゴルフカーに乗っていた。老爺に促され、左隣の助手席に座るシゲミ。


ゴルフカーを走らせ、およそ5分ほどで屋敷の玄関前に到着。クジラでも1枚で満腹になりそうなほど背の高い、板チョコのような扉を抜けるシゲミと老爺。


4階まで吹き抜けになったホールの中央で、モロがシゲミを待ち構えていた。軽くパーマがかかった茶色いロングヘアの痩せた女性。白いブラウスの上から薄黄色のカーディガンを羽織り、紺色の長いスカートを履いている。車椅子に座っているため、外見だけでは正確な身長はわからない。


モロは「顔を合わせるのは初めてですね、シゲミさん」と言い、微笑む。モロの車椅子を見たシゲミは、目を細めた。



モロ「気になりますか?」


シゲミ「いえ。でも少し意外だったから」


モロ「訳あって、私の下半身は動かなくなってしまいました。今日、シゲミさんをお呼びした理由にも関係する話です。が、ここで立ち話もなんですから、応接室に行きましょう。ご案内します」



車椅子の右のひじ掛けに取り付けられたレバーを操作し、その場で反転するモロ。ホールの奥へと進む。シゲミはモロの後を追った。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?